異世界人の父は筋力がありません。勿論、息子の俺も筋力が無く武器を持てません。武器を持てないハンターの成り上がり。

やーま

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出発の前日

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 あれから、ガルダとエマはお互い100000Bellずつを目標に二人で採取クエストのみを受け、少しずつお金を貯めていった。
 ベァクドルドと死闘から早一か月が過ぎた頃、今回の採取クエストの報酬でやっと目標金額に到達。
 あとは準備をして旅立つだけだった。

 中心街 食事処 「ペコペコマン」で二人は目標金額達成を祝い、祝杯をあげていた。
 「「かんぱーい!!」」
 キンキンに冷えた鉄グラスがぶつかり合いカンッと音を鳴らし、中の淡紫色の液体が卓上に溢れる。
 「くぁぁぁぁ!!うめぇぇぇ!!」
 「ふぅっ」

 普段はお金を貯めるまで質素な食事をしていたが、今日だけは目の前に豪華な食事が卓上一杯に並んでいた。

 「うっひょ~!!どれから食べようっかなっ」
 ガルダはどれから食べようと迷い、各品をランダムに見る。
 「どれから食べても一緒よっ」
 
 「たくっ。お前は何でそーゆーこと言うかねぇ。折角の祝い事なんだから、たまには乗ってこいよ」
 ガルダはそう言うとランダムに御馳走を手掴みで口に放り込んだ。
 それに比べ、エマはナイフとフォークを使い丁寧な食事をしていた。

 「うっさいわね…てか食べ方汚いのよあんたっ」
 
 「だってお嬢様みたいに食事の作法とか習ってないですもーん。これがタカハシ家流なんだよっ」
 
 「親の顔が見て見たいわ…」
 
 その言葉にガルダはハッとする。
 「あっ!そういえば。先ず旅に出る前に親父にMLC薬の聞こうと思ってさ。もしかしたら聞いた事くらいあるかもしんないし。だから明日ちょっと下町に戻るから俺」

 「え?そうなの?そしたら私も着いていこうかしら」

 「何で?」

 「私も下町の防具専門店に用事があるのよ。そのついでに」

 「いやいやいやいやいやいやいやいや。ついでに人の家をカフェみたいに立ち寄るなよ」

 「いいじゃない。貴方の親父さんてあの手榴弾作ったタカハシ・リュウジでしょ? 今ではハンターの必須品になっているすごい品を作った人がどんな人か見てみたいじゃない」

 「こなくていい!こなくていい!ただの変なオッさんだから!!」

 俺は必死に全力で阻止した。
 女なんて連れて帰った時には騒ぎまくって何を仕出かすかわかりやしない。

 次の日ーー
 あれだけ「来るな」と行ったにもかかわらず、エマは俺の影を踏みながら着いてきていた。
 
 「何で着いてきてんだよ…」

 「あんたもしつこいわね…。そんな事より、昨日しょーもない話で終わったから何処にいくか決めてないじゃない。どうすんのよ」

 「しつこいのどっちだよ…。まぁ行くとしたら…お前の故郷ローランド国だな。姉さんのパーティーを知っている人が居るかもしれない。受付の人とかなら見た事ぐらいあるだろ」

 「だ…だよねぇ…」

 エマは眉間を寄らして少し嫌そうにしていた。
 まぁ自分の家族が住む街なのだから、バッタリ合わないかとか気にしているんだろう。
 しかし、一番手がかりがありそうなのもローランド国なんだから避けては通れない。
 ましてやそんな恐ろしい薬の情報を無闇矢鱈に聞けば、俺達だって怪しまれる可能性がある。追放者も探し回っているネズミが居ると知れば排除するに決まっている。
 
 何事も土台から固めて行かないといけない。焦ったらダメなんだ。土台が無い物は積み上げてもすぐに崩れる。幾ら推測を立てようが答えまで辿り着く事が出来ない。結果にはそこに至るまでの契機が必ずあるのだから。
 まずは薬では無く。エマの姉に何があったかその真実を調べる必要があるのだ。

 話をしているうちに飽きるほど見てきた街並みの片隅に「タカハシ調合店」と書かれた看板を構える小さな家が見えて来る。
 看板の下にある木材で作られた横長のカウンターから熱苦しい顔を覗かせているオッさん。
 店の前には人気は無くガラリとしており、中に居るオッさんは暇そうにカウンターに肘を付き手の平に顎をのせ、絶妙なバランスを保ちながら左手で鼻を穿っている。
 今日も繁盛してない様子だ。

 「なんて…間抜け面してんだよ…」

 「あれが、あんたの家?」

 「そうだよ…」

 「ふふっ。暇そうにしているねっ」

 恥ずかしい…。
 
 店の前に立つが親父は上を見上げていて此方に気づいていない。
 「あー。今日もー。いいー天気だなぁー」

 「おい!!」

 俺の声にビックリし、カウンターに付いていた肘が落ちる。
 「どわっ!?いっ!いらっしゃいませ!!」

 「俺だよっ」

 「ガッ…ガルダじゃねぇか!?なっ…ななななななななっ!!そこの隣にいるのは!?」

 俺の横にいる金髪の美女に目を移つし動転している親父にこいつは同期で訳あって今はパーティーを組んでいると説明した。
 
 すると自己紹介後、エマは深々と頭を下げ突然謝り出した。

 「息子さんの左腕を私のせいで…失わせてしまいました。本当にすいません!!」

 「何ッ!? ガルダ見せてみろ」

 俺は言われるがまま親父に見えるよう左腕をあげた。もしかしたら怒られるんじゃないかと覚悟する。

 しかし、親父は俺の腕を確認するとエマに頭を上げさせ、肩を掴み「腕一本で嬢ちゃんが助かったなら。親としては本望だ」と言った。

 思わぬ言葉に拍子抜けするエマ。

 「俺はてっきり一カ月も帰ってこないから死んだのかと思ったぜ。でもあれだな!あと三回助けたら蓑虫になっちまうなガルダよ。なっはっはっはっ!」

 爆笑する親父をみて俺はこいつは本当に親なのかと疑った。
 「少しは労われよ…」

 「まぁ立ち話もなんだ。中に入れ入れ!」

 「いや私は、少し挨拶に立ち寄っただけでして大丈夫です。これから防具屋に行こうと思いましてっ」

 しかし、エマの声が親父には聞こえていなかった。
 ずかずかと家の中へ入っていき「母さん!!ガルダが!!あのガルダが!!ガールズフレンドを連れて来たんだ!!どうしよどうしよ…何出したらいいと思う??」と外まで聞こえる独り言を叫んでいる。

 「えぇー……」
 そんな親父の奇行ぶりにエマは困惑していた。

 「だから言ったろ。変なオッさんだって」

 エマは何かを準備している親父に悪いと思い、しょうがなく俺の後に続いて家の中へ入って来た。

 二人はテーブルの椅子に腰を掛ける。
 ガルダだけは嫌な予感を感じていた。

 遅れて皿を持ちやって来る親父。
 その皿の上に乗っていたのは、ツナーフィッシュの干物。

 俺は恥ずかしくて、すかさず干物を掴み親父の口中へ放り込んだ。
 「何で人を招くのに酒のつまみなんだよ!!」

 「だぁ…べ…ごれじが…ながっだん…うぐ…」

 「お茶する為に顔を出したんじゃねぇから、何も出さなくていいって。それより話を聞きに来たんだよ」
 
 「ぞーな…のが?。ゴホッゴホッーー」
 咀嚼しながら咽せる親父に早速本題を話す。
 MLC薬という人をモンスターに変える薬が存在し、それを飲んだエマの姉さんが行方を晦ました事。それについて、知っている事や聞いた事が無いかを聞いた。
 
 「そんな薬も、嬢ちゃんの姉の事も知らねぇな」

 「まぁだよな…期待はして無かったよ」

 「でも。そんな薬作れるとしたら、相当この世界の医学に詳しく無いと無理な話だ」

 「親父でも原理はわらないのか…」

 「あ、いやまてよ…昔、フェルト国に凄い調合師がいると耳にした気がするな…」

 「何!?その話、詳しく聞かせてくれ!」
 
 「いや聞いた事があるだけだ」
 と、ドヤ顔で言う親父。

 「何だよっ!!」

 だが…それだけでも有力な情報だ。
 親父が言うように普通の一般人にそんな薬が作れるとは到底思えない。
 可能性としてはゼロでは無い。ローランド国もフェルト国も両方調べる必要があるな…。
 
 それから少し話した後、もう話す事は無くなり「んじゃっ」と言って立ち上がるガルダ。冷たい息子に「何だもう行くのか。親不孝者めっ」と嫌味たらしく放つその父親。

 エマはそんな二人の光景を見て羨ましく思った。

 そして帰り際、家を出る前にガルダはトイレに行った為、残されたエマは先に出ていようと玄関に歩き出す。

 「嬢ちゃん。あんな奴だがどうか宜しく頼むよ。俺と同じく筋力がねぇから役に立つ事あんまりねぇと思うけど、一端の根性と勇気だけはあっからよ」

 背後から投げかけられたその言葉に振り返る。
 すると、彼の父親は心配そうな表情していた。

 平気なふりをしてても心配なんだ。
 そりゃ親だもんね…。
 エマは笑顔で受け応えた。
 「はいっ。勿論ですっ!!任させて下さい!!」

 そしてガルダの父に見送られ、エマは防具屋に向かい、ガルダは中心街へ一足先に戻って行った。
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