異世界人の父は筋力がありません。勿論、息子の俺も筋力が無く武器を持てません。武器を持てないハンターの成り上がり。

やーま

文字の大きさ
上 下
22 / 29

怨む者

しおりを挟む
 あれから湖に向かいガルダは身体と下着を洗い流してから、荷車乗り場で二人は身体を休めた。すっかり暗くなってしまったので明日の迎えを待つ事にしたのだ。
 幸いな事に荷車乗り場には簡易トイレがあった。
 
 しかし移動中エマは一切口を聞いてくれなかった。
 それどころかかなり距離を取り、ぶつぶつと呪文を唱えていた。その内容は「最低、キモい、シネ、臭い、消えろ、近寄んな」と…悪口の嵐だった。
 必死にガルダはことの経緯を説明したが荷車乗り場に着いても無視を貫くエマ。
 
 それでもめげずに話しかけていると流石にしつこかったのか固く閉ざしていた口を開いてくれた。
 
 「もー分かったわよ…何度も聞いた!!てか無痛茸を下処理せずに食べる奴なんて初めて聞いたわよ!」

 「しょうがないだろ…だって食べてなかったら、この左腕千切られた瞬間、痛みで失神していたところだぞ…」
 ガルダは左腕を撫で、さらに言葉を続けた。
 「あーぁ…どうしようなこれから…。ただでさえ武器持てねぇのにこんなハンデ受け負ってしまって…。義手を付けるにしたって高いんだろうなぁ。すぐには買えねぇ…」

 その発言にエマは下を俯いた。
 長い髪が顔を覆い隠す。
 「ごめん…私のせいで…」
 
 突然、あのエマから謝る言葉が出た事に唖然した。少し気が悪くなって訂正した。

 「いや、そんなつもりで言った訳じゃねーんだ。それに俺が助かったのもお前が助けてくれたからだろ?」

 「……」

 「お礼言ってなかったな…ありがと…」

 「あんた…覚えて無いわよね…」

 「何が?」
 
 「いや、覚えて無いならいい」

 何か意味深な言葉に感じたがエマの顔がよく見えない。
 
 「は?」

 「何でも無い!!」

 エマは強い口調でそう言うと顔を勢いよく上げた。長い艶の有る髪が肩後ろにふわりと回っていく。
 手を胸の前で二回叩き合わせ「これはお互い様って事で!はいっ終わり!」と笑顔で言った。

 ガルダはなんか調子の良いやつだなぁと気抜けしたが、とりあえずこうして普通に話せた事が嬉しく感じた。

 それから二人は焚き火を焚きながら朝を待ち、しばらく他愛のない会話をしていた。
 ちょくちょくトイレに立ち去るガルダにエマも呆れつつ笑っていた。

 会話の中でガルダは親父の異世界の話をした。
 信じて貰えないと思っていたがエマは疑いもせず目を輝かせ「そんな世界に私も産まれたかったな」と羨ましそうに言った。
 ダストリュオンを探している事も話すと安心した表情をし「そんなモンスターが居るのかぁ…でもちゃんとしたハンターに成った理由あるじゃない。いーねそれっ」と言ってくれた。

 今まで誰一人信じなかった話をエマが信じていることにガルダはただただ驚いていた。
 意外と顔や態度に似合わず不器用なだけで純粋で良い奴なんだとガルダは思った。

 しかしガルダが祝賀会の時に教えて貰えなかった姉の事を再度聞いた時、空気が変わったーー

 「姉さんは何か病気なのか?」

 エマはじっと焚き火を見つめ黙り込む。

 灯火に照らされたその顔はとても切ない表情をしている。しばらくの沈黙の後、そっと呟いた。
 「姉さんは…私を守る為に…人間を辞めたの…」

 え、今何て…

 理解不明の言葉に返す言葉が見つからなかったガルダは喉を詰めらせた。

 「ーーッ」

 続けてエマは喋る。

 「あんた…MLC薬って知っている?」

 そんな名前の薬聞いたこともなかった。
 やっぱり何か病気にかかっているのだろうか。

 「いや知らないな。どんな薬だ?」
 
 「どんな薬か……人間をモンスター化させる薬っていったらいいかしら」
 
 「ふーん…人間をモンスター化にさせる薬ねぇ……」
 数秒固まるガルダ。さっきの言葉を頭の中で何回もリピートさせた。

 「はぁ!?」

 エマは今までに無いくらい真剣な顔つきだった。嘘を付いているなんて思えないくらい澄んだ瞳をしている。
 
 そしてまた言葉を続ける。

 「それがあるのよ。実際に姉さんはその薬を飲んだーー。みるみる鋼鉄の黒光鱗に覆われる肌、頭には二本の黒角が生え、手には鋭利な爪が伸び、背中にはドラゴンの様な羽が生えていった」

 「ありえねぇ……そんな事出来るわけ…」
 あり得ないと思いつつもその光景を想像したガルダは寒気を感じ身体が震えた…。

 「ねぇあなたは人が食物連鎖の頂点に立ったら未来はどうなると思う?」

 もし…その話が本当なら…。

 人は食料にも困る事なく、モンスターですら国を守るペットにしてしまうかもしれない。
 恐れる者が居なくなった事で人口も増え続け領土を広げていく。
 やがて国と国の領土の奪い合いに発展し最悪戦争が起きるとか…。

 「平和になるか…戦争になり人々は争い始めるか」

 「最終的には後者だと私は思うわ。でもそれより前に私達ハンターに怨みを持つ者がいるでしょ。その薬は奴らが持っていたのよ」

 ハンターを怨む者…?
 ガルダは一つの思い当たる節が見つかり思わず立ち上がる。
 
 「まさか!?追放者《ブラックハンター》!?」

 「正解。罪を犯し、ハンター協会から追放され職を失った者よ」

 あれは私と姉が隣国「フェルト」に向かう移動中のことだった。
 私達は不運な事に追放者パーティーに襲われたーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...