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怨む者
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あれから湖に向かいガルダは身体と下着を洗い流してから、荷車乗り場で二人は身体を休めた。すっかり暗くなってしまったので明日の迎えを待つ事にしたのだ。
幸いな事に荷車乗り場には簡易トイレがあった。
しかし移動中エマは一切口を聞いてくれなかった。
それどころかかなり距離を取り、ぶつぶつと呪文を唱えていた。その内容は「最低、キモい、シネ、臭い、消えろ、近寄んな」と…悪口の嵐だった。
必死にガルダはことの経緯を説明したが荷車乗り場に着いても無視を貫くエマ。
それでもめげずに話しかけていると流石にしつこかったのか固く閉ざしていた口を開いてくれた。
「もー分かったわよ…何度も聞いた!!てか無痛茸を下処理せずに食べる奴なんて初めて聞いたわよ!」
「しょうがないだろ…だって食べてなかったら、この左腕千切られた瞬間、痛みで失神していたところだぞ…」
ガルダは左腕を撫で、さらに言葉を続けた。
「あーぁ…どうしようなこれから…。ただでさえ武器持てねぇのにこんなハンデ受け負ってしまって…。義手を付けるにしたって高いんだろうなぁ。すぐには買えねぇ…」
その発言にエマは下を俯いた。
長い髪が顔を覆い隠す。
「ごめん…私のせいで…」
突然、あのエマから謝る言葉が出た事に唖然した。少し気が悪くなって訂正した。
「いや、そんなつもりで言った訳じゃねーんだ。それに俺が助かったのもお前が助けてくれたからだろ?」
「……」
「お礼言ってなかったな…ありがと…」
「あんた…覚えて無いわよね…」
「何が?」
「いや、覚えて無いならいい」
何か意味深な言葉に感じたがエマの顔がよく見えない。
「は?」
「何でも無い!!」
エマは強い口調でそう言うと顔を勢いよく上げた。長い艶の有る髪が肩後ろにふわりと回っていく。
手を胸の前で二回叩き合わせ「これはお互い様って事で!はいっ終わり!」と笑顔で言った。
ガルダはなんか調子の良いやつだなぁと気抜けしたが、とりあえずこうして普通に話せた事が嬉しく感じた。
それから二人は焚き火を焚きながら朝を待ち、しばらく他愛のない会話をしていた。
ちょくちょくトイレに立ち去るガルダにエマも呆れつつ笑っていた。
会話の中でガルダは親父の異世界の話をした。
信じて貰えないと思っていたがエマは疑いもせず目を輝かせ「そんな世界に私も産まれたかったな」と羨ましそうに言った。
ダストリュオンを探している事も話すと安心した表情をし「そんなモンスターが居るのかぁ…でもちゃんとしたハンターに成った理由あるじゃない。いーねそれっ」と言ってくれた。
今まで誰一人信じなかった話をエマが信じていることにガルダはただただ驚いていた。
意外と顔や態度に似合わず不器用なだけで純粋で良い奴なんだとガルダは思った。
しかしガルダが祝賀会の時に教えて貰えなかった姉の事を再度聞いた時、空気が変わったーー
「姉さんは何か病気なのか?」
エマはじっと焚き火を見つめ黙り込む。
灯火に照らされたその顔はとても切ない表情をしている。しばらくの沈黙の後、そっと呟いた。
「姉さんは…私を守る為に…人間を辞めたの…」
え、今何て…
理解不明の言葉に返す言葉が見つからなかったガルダは喉を詰めらせた。
「ーーッ」
続けてエマは喋る。
「あんた…MLC薬って知っている?」
そんな名前の薬聞いたこともなかった。
やっぱり何か病気にかかっているのだろうか。
「いや知らないな。どんな薬だ?」
「どんな薬か……人間をモンスター化させる薬っていったらいいかしら」
「ふーん…人間をモンスター化にさせる薬ねぇ……」
数秒固まるガルダ。さっきの言葉を頭の中で何回もリピートさせた。
「はぁ!?」
エマは今までに無いくらい真剣な顔つきだった。嘘を付いているなんて思えないくらい澄んだ瞳をしている。
そしてまた言葉を続ける。
「それがあるのよ。実際に姉さんはその薬を飲んだーー。みるみる鋼鉄の黒光鱗に覆われる肌、頭には二本の黒角が生え、手には鋭利な爪が伸び、背中にはドラゴンの様な羽が生えていった」
「ありえねぇ……そんな事出来るわけ…」
あり得ないと思いつつもその光景を想像したガルダは寒気を感じ身体が震えた…。
「ねぇあなたは人が食物連鎖の頂点に立ったら未来はどうなると思う?」
もし…その話が本当なら…。
人は食料にも困る事なく、モンスターですら国を守るペットにしてしまうかもしれない。
恐れる者が居なくなった事で人口も増え続け領土を広げていく。
やがて国と国の領土の奪い合いに発展し最悪戦争が起きるとか…。
「平和になるか…戦争になり人々は争い始めるか」
「最終的には後者だと私は思うわ。でもそれより前に私達ハンターに怨みを持つ者がいるでしょ。その薬は奴らが持っていたのよ」
ハンターを怨む者…?
ガルダは一つの思い当たる節が見つかり思わず立ち上がる。
「まさか!?追放者《ブラックハンター》!?」
「正解。罪を犯し、ハンター協会から追放され職を失った者よ」
あれは私と姉が隣国「フェルト」に向かう移動中のことだった。
私達は不運な事に追放者パーティーに襲われたーー
幸いな事に荷車乗り場には簡易トイレがあった。
しかし移動中エマは一切口を聞いてくれなかった。
それどころかかなり距離を取り、ぶつぶつと呪文を唱えていた。その内容は「最低、キモい、シネ、臭い、消えろ、近寄んな」と…悪口の嵐だった。
必死にガルダはことの経緯を説明したが荷車乗り場に着いても無視を貫くエマ。
それでもめげずに話しかけていると流石にしつこかったのか固く閉ざしていた口を開いてくれた。
「もー分かったわよ…何度も聞いた!!てか無痛茸を下処理せずに食べる奴なんて初めて聞いたわよ!」
「しょうがないだろ…だって食べてなかったら、この左腕千切られた瞬間、痛みで失神していたところだぞ…」
ガルダは左腕を撫で、さらに言葉を続けた。
「あーぁ…どうしようなこれから…。ただでさえ武器持てねぇのにこんなハンデ受け負ってしまって…。義手を付けるにしたって高いんだろうなぁ。すぐには買えねぇ…」
その発言にエマは下を俯いた。
長い髪が顔を覆い隠す。
「ごめん…私のせいで…」
突然、あのエマから謝る言葉が出た事に唖然した。少し気が悪くなって訂正した。
「いや、そんなつもりで言った訳じゃねーんだ。それに俺が助かったのもお前が助けてくれたからだろ?」
「……」
「お礼言ってなかったな…ありがと…」
「あんた…覚えて無いわよね…」
「何が?」
「いや、覚えて無いならいい」
何か意味深な言葉に感じたがエマの顔がよく見えない。
「は?」
「何でも無い!!」
エマは強い口調でそう言うと顔を勢いよく上げた。長い艶の有る髪が肩後ろにふわりと回っていく。
手を胸の前で二回叩き合わせ「これはお互い様って事で!はいっ終わり!」と笑顔で言った。
ガルダはなんか調子の良いやつだなぁと気抜けしたが、とりあえずこうして普通に話せた事が嬉しく感じた。
それから二人は焚き火を焚きながら朝を待ち、しばらく他愛のない会話をしていた。
ちょくちょくトイレに立ち去るガルダにエマも呆れつつ笑っていた。
会話の中でガルダは親父の異世界の話をした。
信じて貰えないと思っていたがエマは疑いもせず目を輝かせ「そんな世界に私も産まれたかったな」と羨ましそうに言った。
ダストリュオンを探している事も話すと安心した表情をし「そんなモンスターが居るのかぁ…でもちゃんとしたハンターに成った理由あるじゃない。いーねそれっ」と言ってくれた。
今まで誰一人信じなかった話をエマが信じていることにガルダはただただ驚いていた。
意外と顔や態度に似合わず不器用なだけで純粋で良い奴なんだとガルダは思った。
しかしガルダが祝賀会の時に教えて貰えなかった姉の事を再度聞いた時、空気が変わったーー
「姉さんは何か病気なのか?」
エマはじっと焚き火を見つめ黙り込む。
灯火に照らされたその顔はとても切ない表情をしている。しばらくの沈黙の後、そっと呟いた。
「姉さんは…私を守る為に…人間を辞めたの…」
え、今何て…
理解不明の言葉に返す言葉が見つからなかったガルダは喉を詰めらせた。
「ーーッ」
続けてエマは喋る。
「あんた…MLC薬って知っている?」
そんな名前の薬聞いたこともなかった。
やっぱり何か病気にかかっているのだろうか。
「いや知らないな。どんな薬だ?」
「どんな薬か……人間をモンスター化させる薬っていったらいいかしら」
「ふーん…人間をモンスター化にさせる薬ねぇ……」
数秒固まるガルダ。さっきの言葉を頭の中で何回もリピートさせた。
「はぁ!?」
エマは今までに無いくらい真剣な顔つきだった。嘘を付いているなんて思えないくらい澄んだ瞳をしている。
そしてまた言葉を続ける。
「それがあるのよ。実際に姉さんはその薬を飲んだーー。みるみる鋼鉄の黒光鱗に覆われる肌、頭には二本の黒角が生え、手には鋭利な爪が伸び、背中にはドラゴンの様な羽が生えていった」
「ありえねぇ……そんな事出来るわけ…」
あり得ないと思いつつもその光景を想像したガルダは寒気を感じ身体が震えた…。
「ねぇあなたは人が食物連鎖の頂点に立ったら未来はどうなると思う?」
もし…その話が本当なら…。
人は食料にも困る事なく、モンスターですら国を守るペットにしてしまうかもしれない。
恐れる者が居なくなった事で人口も増え続け領土を広げていく。
やがて国と国の領土の奪い合いに発展し最悪戦争が起きるとか…。
「平和になるか…戦争になり人々は争い始めるか」
「最終的には後者だと私は思うわ。でもそれより前に私達ハンターに怨みを持つ者がいるでしょ。その薬は奴らが持っていたのよ」
ハンターを怨む者…?
ガルダは一つの思い当たる節が見つかり思わず立ち上がる。
「まさか!?追放者《ブラックハンター》!?」
「正解。罪を犯し、ハンター協会から追放され職を失った者よ」
あれは私と姉が隣国「フェルト」に向かう移動中のことだった。
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