異世界人の父は筋力がありません。勿論、息子の俺も筋力が無く武器を持てません。武器を持てないハンターの成り上がり。

やーま

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決着

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 ガルダは右方に走り、ベァクドルドの側面近くに周り込んだ。対してエマは左方に少し離れ、距離を取りつつ周り込んだ。

 ベァクドルドは左側から近寄って来る匂いに反応し、右脚を軸に巨体を回転させ左方広範囲に尻尾を振るった。
 太い尻尾が回転の勢いを乗せ、鞭の如くしなり、風を斬る低音を放ちながら一瞬にして向かってくる。

 しかしそれはガルダの横すれすれを通過。

 大体の位置は分かっても匂いだけでは数センチ単位の距離まで正確に捉えられなかったのだ。

 ガルダは尻尾が空を切った瞬間、ベァクドルドに向かって方向転換。
 
 この時ーーガルダは同時にある準備をした。『パチンッーーパチンッーー』と何かが外れた音を立てる。

 ベァクドルドは攻撃を避けられたと判断し、回転の勢いを殺し再度体制を整えた。
 次に強靭な脚で地面を蹴り、跳び掛かって来る。巨体が軽々と宙に浮き、斜め上から迫ってくる。

 ガルダはこのタイミングしかないと確信した。

 反対側に居るエマに向かって叫び、手で「こっちに向かって走り出せ」と伝える様に親指を立てて自分を指した。
 「エマ!!今だ!」
 
 エマはベァクドルドが背を向けている状況での合図に躊躇したが、ガルダを信じた。

 ベァクドルドの両手がガルダの身体を掴む寸前、ガルダは下部に滑り込む。

 爪が頭上を擦り、千切れた数本の髪だけを置き去りにするも間一髪交わし、エマが向かって来ている反対側へ抜け出した。

 ベァクドルドは下をすり抜け反対側に移動した獲物の匂いが後方の地面から離れていない事に気づき、その場所に後ろ脚を叩きつけた。
 
 『バキッ!!』

 獲物が着ていた防具が潰れた音が鳴り、潰れた感触が足の裏に残る。
 手応えを感じベァクドルドはとどめを刺す為、後方に身体を向け潰した獲物を捕食した。

 『バキッバキッ』

 強靭な顎により、アイアンアーマーさえも軽々と噛み砕かれていく。

 しかし、口の中は鉄の味だけが広がり肉の味がしなかった。そして口の中へ消えた筈の獲物の匂いが少し離れた所にある事に気づく。
 
 「それは、俺じゃ無いぜ」
 ガルダは予め防具を軽く取り外しておき、抜け出した直後に地面に防具のみを置き去りにしたのだ。

 「気づいたのか?でも遅いなっ!俺達の勝ちだ!!」

 その瞬間、ガルダの後方からエマが現れる。両手に持っていた二つのアメーバイムを捕食中のベァクドルドの鼻口に打ち込み蓋をした。
 二人はすぐに離れ、ありとあらゆるものを投げ捨てた。音により自分達の現在地を撹乱させる為に。

 ベァクドルドは突如消えた嗅覚と、色んな角度から聞こえる音に混乱し、己の鼻や何も無い地面を乱雑に攻撃し始める。

 二人は顔を見合わせて、声を出さず口を動かした。

 「森を抜けるぞっ」

 「うんっ」

 二人は音を出さぬよう静かにその場から立ち去った。
 
 時間にしてみれば40分程のベァクドルドとの激闘の結末は、意外と呆気なく静かに幕を閉じた。しかしガルダには何時間も経っていたようにすら感じたとても長いものだった。
 一度は諦めたのに生きている事が不思議なくらいに。

 でもそれは、エマが戻って来てくれたから助かったんだと深く感謝した。
 そしてあの時は急かされ、お礼も何も言えてなかった事を思い出し、森を抜けたらちゃんと伝えようと走りながら思う。

 あと20分程で睡眠弾の効果が効き、あの場で奴は眠るだろう。
 森を抜ければとりあえずは安全だと、二人は日が落ちる前に森を抜け出した。
 
 「はぁっ…ここ…まで来ればっ…もう…大丈夫だろっ」
 ガルダは右手を膝に着き背を丸め、身体を弾ませる。

 「あぁ…もう…疲れた…」
 エマはもう動けないと言わんばかりに倒れ込むように両手を広げ地面に寝そべった。
 
 ガルダも地面に寝そべる。

 しばらく息が整う迄、二人は並んで無言で空を見上げた。
 そこには雲一つ無い淡いオレンジ色の夕焼け空が広がっていた。
 1日の終わりを告げ、また明日を照らす為に夕日が沈んでいく。

 二人はまた明日が当たり前のように来る事を詠嘆した。

 ガルダは身体を起こし沈んでいく夕日を眺めながら、エマに感謝の言葉を伝えようとした時ーー

 悲劇は起こった。

 まだ戦いは終わっていなかったのだ。

 次なる強敵がガルダのお腹の中に潜んでいた事を忘れていた。

 そう一時間前…

 ガルダは下処理をしていない無痛茸を食べていた。

 『グッ…ギュルルルルル…』
 
 猛烈な腹痛がガルダを襲い始めるーー
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