13 / 29
バルム山 守護獣 ベァクドルド
しおりを挟む
ガルダは取ろうとしていた無痛岳一つを引き千切り、声のする水辺エリアに全力疾走した。
草、木、地が物凄い速さで通り過ぎて行く。
今すぐ引き返そうとする足を前へ前へと突き出す。
今までこんなに思いっきり疾る事なんて有っただろうか。
いや無かった。いつも俺は守られる側。
内側の安全な地で走る事なんて無かった。
恐怖心が全身を強張らせているが、それでも不格好ながら手を大きく振り続ける。1秒でも先に進むようにと身体に喝を入れる。
覚悟を決め、右手に握りしめた無痛岳を口の中に突っ込み、飲み込んだ。
痛みと云う恐怖が無くなるだけでもマシだ。
人間という生き物は不思議で、痛みは生体に加えられた危害に対し警告を鳴らし行動を制御してしまう。
痛みそのものが情動となり、恐怖が生まれるのだ。
そして、今できる最後の準備をしておく。
睡眠弾を分解、中身の睡眠粉末のみ取り出し、切り込んだゲルフォースの馬肉の中に隠した。
段々と水辺エリアに近づき、木々の隙間から見えて来る最悪の悪夢ーー
ベァクドルドがまさにエマに喰い掛かりそうになっていた。
しかし、エマは己の弓を盾替わりに、ベァクドルドの大きく開いた口へ縦向きで突っ込み、噛まれるのを間一髪塞いでいるといった状況だった。
今にも弓はベァクドルドの顎力によって折れてしまいそうな程、しなっている。
ガルダは木々の間から飛び出し、地を駆け巡りベァクドルドの側面目掛けて猛進。
バックから手榴弾を取りピンを抜く。
「ヴォォォォォォ!!」
右足の指先で確実に地を掴み力を込め蹴飛ばし、ベァクドルドの前足と後足の間の腹下部目掛けて滑り込んで行く。
身体が腹下部に到達した瞬間、ピンを抜いた手榴弾を投げ置き反対側へ抜け出した。
その後、直ぐ様上体を起こし、エマの元へ回り込み、背後から脇下に腕を通し抱え込む。
「今だ!!手を弓から離せ!!」
エマは誰かが助けに来てくれた事に気づき、指示に従う。
手を離した瞬間、ベァクドルドの腹下部の手榴弾が爆発。
爆発と爆風により一瞬ベァクドルドの本体がほんの少し浮く。
「ギャアォッ!!」
その瞬間、ガルダはエマを後方へ引きずり離した。
ベァクドルドは突然の焼けるような痛みに腹部を確認している。
「なんで…なんでアンタなのよ!!」
エマが言いたい事は分かる…
俺が来たとこで助からないと。
「いいから!早く逃げろ!!」
ガルダは直ぐ様、睡眠粉末を仕込んだ馬肉を取り出し、ベァクドルドの目の前に放り投げる。
ベァクドルドは何が起きたか理解していない様子だが、目の前に突然現れた人間が何かしたんだと殺意に満ちた眼球をガルダの方へ向けた。
その途端、口を抑えていた弓を強靭な顎で軽々と半分に折り、噛み砕き粉砕した。
そして轟音を上げ、ガルダを威嚇した。
咆哮は空気を振動させ、鼓膜を刺激し聴覚は脳に警告を鳴らし、己の何倍もある10メートルを超える巨大な獣の圧倒的強大姿は視覚から脳に警告を鳴らす。
しかしガルダは少し安堵していた。
最悪の予想よりは良かったのだ。エマが負傷していなかったから。
だが弓は粉砕、エマは戦えれない。見た所、持ち物もほぼ無い。庇いながらなんて到底無理だ。
エマは助けに来たのが武器を持っていないガルダだと分かり、無明の表情をしている。
「助からないじゃない…ゔっ…うぅ…」
「泣いてる暇なんかない!!今すぐ森を抜けろ!!邪魔なんだよ!!」
「アンタなんか来た所で勝てる訳無いじゃない…どうせ直ぐに食べられて終わりよ!!アンタに何が出来るのよ!!」
その時ーーベァクドルドが動く。
目の前の馬肉に眼もくれず、ガルダ達の方へ飛び掛かり、鋭利な牙を振るう。
匂いで馬肉に何か仕組まれている事が分かったんだろう。
ガルダは最後の睡眠弾を取り出しピン抜き、左手を突き出した。
「ガシュッ」
その瞬間、睡眠弾を持った左手は既に有るべき所には無く。
ベァクドルドの喉を通り、胃袋へ飲み込まれていくーー
「いいから逃げてくれ。頼む…足手纏いなんだよ!!」
草、木、地が物凄い速さで通り過ぎて行く。
今すぐ引き返そうとする足を前へ前へと突き出す。
今までこんなに思いっきり疾る事なんて有っただろうか。
いや無かった。いつも俺は守られる側。
内側の安全な地で走る事なんて無かった。
恐怖心が全身を強張らせているが、それでも不格好ながら手を大きく振り続ける。1秒でも先に進むようにと身体に喝を入れる。
覚悟を決め、右手に握りしめた無痛岳を口の中に突っ込み、飲み込んだ。
痛みと云う恐怖が無くなるだけでもマシだ。
人間という生き物は不思議で、痛みは生体に加えられた危害に対し警告を鳴らし行動を制御してしまう。
痛みそのものが情動となり、恐怖が生まれるのだ。
そして、今できる最後の準備をしておく。
睡眠弾を分解、中身の睡眠粉末のみ取り出し、切り込んだゲルフォースの馬肉の中に隠した。
段々と水辺エリアに近づき、木々の隙間から見えて来る最悪の悪夢ーー
ベァクドルドがまさにエマに喰い掛かりそうになっていた。
しかし、エマは己の弓を盾替わりに、ベァクドルドの大きく開いた口へ縦向きで突っ込み、噛まれるのを間一髪塞いでいるといった状況だった。
今にも弓はベァクドルドの顎力によって折れてしまいそうな程、しなっている。
ガルダは木々の間から飛び出し、地を駆け巡りベァクドルドの側面目掛けて猛進。
バックから手榴弾を取りピンを抜く。
「ヴォォォォォォ!!」
右足の指先で確実に地を掴み力を込め蹴飛ばし、ベァクドルドの前足と後足の間の腹下部目掛けて滑り込んで行く。
身体が腹下部に到達した瞬間、ピンを抜いた手榴弾を投げ置き反対側へ抜け出した。
その後、直ぐ様上体を起こし、エマの元へ回り込み、背後から脇下に腕を通し抱え込む。
「今だ!!手を弓から離せ!!」
エマは誰かが助けに来てくれた事に気づき、指示に従う。
手を離した瞬間、ベァクドルドの腹下部の手榴弾が爆発。
爆発と爆風により一瞬ベァクドルドの本体がほんの少し浮く。
「ギャアォッ!!」
その瞬間、ガルダはエマを後方へ引きずり離した。
ベァクドルドは突然の焼けるような痛みに腹部を確認している。
「なんで…なんでアンタなのよ!!」
エマが言いたい事は分かる…
俺が来たとこで助からないと。
「いいから!早く逃げろ!!」
ガルダは直ぐ様、睡眠粉末を仕込んだ馬肉を取り出し、ベァクドルドの目の前に放り投げる。
ベァクドルドは何が起きたか理解していない様子だが、目の前に突然現れた人間が何かしたんだと殺意に満ちた眼球をガルダの方へ向けた。
その途端、口を抑えていた弓を強靭な顎で軽々と半分に折り、噛み砕き粉砕した。
そして轟音を上げ、ガルダを威嚇した。
咆哮は空気を振動させ、鼓膜を刺激し聴覚は脳に警告を鳴らし、己の何倍もある10メートルを超える巨大な獣の圧倒的強大姿は視覚から脳に警告を鳴らす。
しかしガルダは少し安堵していた。
最悪の予想よりは良かったのだ。エマが負傷していなかったから。
だが弓は粉砕、エマは戦えれない。見た所、持ち物もほぼ無い。庇いながらなんて到底無理だ。
エマは助けに来たのが武器を持っていないガルダだと分かり、無明の表情をしている。
「助からないじゃない…ゔっ…うぅ…」
「泣いてる暇なんかない!!今すぐ森を抜けろ!!邪魔なんだよ!!」
「アンタなんか来た所で勝てる訳無いじゃない…どうせ直ぐに食べられて終わりよ!!アンタに何が出来るのよ!!」
その時ーーベァクドルドが動く。
目の前の馬肉に眼もくれず、ガルダ達の方へ飛び掛かり、鋭利な牙を振るう。
匂いで馬肉に何か仕組まれている事が分かったんだろう。
ガルダは最後の睡眠弾を取り出しピン抜き、左手を突き出した。
「ガシュッ」
その瞬間、睡眠弾を持った左手は既に有るべき所には無く。
ベァクドルドの喉を通り、胃袋へ飲み込まれていくーー
「いいから逃げてくれ。頼む…足手纏いなんだよ!!」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる