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亡魂 2 

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魔導騎兵は、元々人型の魔導具という位置付けの元に開発が始まった。

本来戦闘は、シュバリエが相手のシュバリエを倒すの戦いがメインであり、敵居城を落とすのは騎士の仕事ではないとされていた。

シュバリエの能力にもよるが、アブローラクラスの魔導師タイプのシュバリエが連続詠唱を行えば、数千、数万の兵士など一瞬で肉片になってしまう。

横隊突撃してこうものなら、右手左手と振り払うたびに肉塊になり、焼肉は当分たべれなくなるだろう…。


帝国内では、基本敵対する貴族の居城を落とすまで戦う事は事実上禁止されており、大抵の場合は帝国の仲介が入る。

籠城する側は、帝国の仲介をくるのを待つことになる。

クナイツァー家の場合は、帝国の使者がが来る前に陥落させられないと処罰される事がある…それを帝国も知っており、すぐ使者が到着してしまうと顎門騎士団に恨まれる事があり…使者は、そのタイミングを理解出来る器量を求められ…使者は生きた心地がしない話は有名だった。

”戦”は、他領との領民に対する威厳を示すパフォーマンスの一環の側面が強かった。
仲介が入る前に陥落したらどうなるのか、そんな疑問が湧いてくる。

財産のほとんどを没収される未来しかない、財産とは…利権だけではなく、領民やシュバリエの胎も持って行かれてします。

帰属して、何もかも無くなる…笑われる、そんな次元ではない。
舐められたら、生きていない現実を突きつけられるのだ。


クナイツァー家では多くの資源を割き開発し、本格的な実戦投入となったのは聖都奪還時の撤退作戦だった。
アーティファクトであった魔煌機関の解析が完了し、飛空艇の主機関となり魔煌油と魔煌機関が世界の繁栄の礎となっていた。

帝騎を管理する教会でさえ魔煌機関を当初認めなかったが、時代の変化共に受け入れるようになっていた。
馬車の代わりになると言われている魔煌機関搭載の魔煌4輪が使われる様になって、まだ半世紀も経っていなかった。

独占供給しているクナイツァー家に、魔煌機関の代替機関を持たない家が北部を馬鹿にするのは理解できない状況が長く続いていた。

確かに、北部はバークレイが平定するまで、豪族と言えば聞こえはいいが、野蛮人の集団といえば返す言葉もなかったのも事実だ。

200年かけ帝国同化政策の元…帝国民化していた矢先の遠征失敗…北部が殿となり…聖騎士も召喚士も使いつぶし、帝国の崩壊を救ったのに冷遇は未だに続く。

帝国は、巨大な帝国であるのは事実であるが、それ属国、属州を含めて話だ。
帝国府の直轄領は決して広くない。
しかも、目と鼻の先に、古き領域と反皇帝派筆頭である顎門があるのだ。

帝国府は、常に後ろ盾となる大貴族に支えられないと帝国運営に支障が出てしまう。
今、帝国で幅を利かせているのは、南部大公と南部辺境伯一門である。
彼らは、帝国聖騎士教会に影響力を持ち信心深いのだが…クナイツァー家の様に国の根幹に携わるようなギルドを支配していない。

”お祈り好きな連中”と”金を数えるのが好きな連中”と言われていた。

鉄道も騎兵も魔高炉もギルドも…クナイツァー家の管理下にある。
だが、帝騎と聖騎士は、教会管理であり影響力は南部大公が持つ。

双方共に、本当に必要な時に使う事が出来ない歪な関係が長く続いていた。

帝家は、土の一族なので土木作業や築城、陣地構築ではクナイツァー家の能力の先を行くのだが…水路を作り、道路を作り、橋を作るより、芸術的な施設を作る事を奨励していた。
クナイツァー家は、質実剛健で壊れないインフラを重視し、北部での豪雪対策や魔獣対策の防衛砦の建築に力を入れていた。

芸術品は、千年、万年残ると言い…アイツらは泥まみれになって道路を作るといって笑っていた。
”その道は、帝都に続くのだろう?帝国の下働きご苦労な事だ”と、笑う。
クナイツァーは、帝国の為に道を作っているのではない、生き抜いて行くために必要だから作るのだ。
道具は、道具…生き抜くに必要な優先順位が違うのだ。

水と油の帝国府とクナイツァー家。

もし、

未来の皇帝が…クナイツァー家の出なら?

その正妻がダルツヘルム大公の長女なら?

未来の皇帝と北部大公が二人の子なら?

北部辺境伯が、北部出身妻から生まれた子なら?

この可能性は、帝国に新秩序をもたらし、顎門騎士団と大公を後ろ盾にした新帝の御世が大帝国繁栄の礎になる…命をかけて必死に大公とシロウドと今上帝をとりなす事が出来る男がレインの父親ならば…その未来はどうなる?


もし、皇帝が自分の孫であるレインに…北部大公として名を与え、顎門騎士団を始めとする北部の陪臣達に王侯貴族としての帝国内での地位を認めるとし、その正妻を皇帝の血筋で南部出身者を指名するしたら?

南部大公は、どう思う?
シロウドレイは、どう思う?

西部公ダルツヘルムは、どうする?

たら、レバ言っても仕方がない。話を戻そう…






ラーピリス戦域
ラーピリス東砦 近郊

陽は昇り、春の陽気には程遠く染みる寒さの中、
哨戒任務がてら騎兵と新式の魔煌浮遊二輪の連携訓練をする事が決められた。

作戦司令部を兼ねる指揮車に刻々と地形データと魔力波動のデータが送られてくる。
それを車内のオペレーターがデータ処理を行い部隊は進む。

タナは、地図とデータを照らし合わせ、地図の内容に差が出ていないか注意を払い前進する。災厄の魔獣レベルが発生した場合、強力な魔力場が発生し地形が、空間そのものが歪み、生き物が存在できない不可領域になってしまうのだ。

無論、戦場で初めて訓練するような事ではないが練習をすることは重要であり練度の高い抜刀隊ならでは士気の高さがそれらを容易にしていた。

常に最新の装備が与えられる顎門の抜刀隊は、即応部隊であることもさることながら、領都ファティニールに配備され若君の護衛を任せられるエース部隊でもあった。

明かされてはいないが、有事の際は防衛戦ではなく、レインを確保し顎門要塞まで撤退すべしと極秘命令が出ているのだ。
無論、抵抗する者はシロウドの名で斬り捨てて良いことになっていた。


先行偵察隊出発から遅れること半刻

騎兵隊は、遅い準備に追われていた。
これから、騎兵隊による魔獣狩りが行われる。
騎兵が同時に動くと騎兵が発生させる魔力波動に魔獣が逃げ出してしまい狩にならないのだ。
先行偵察隊が魔獣の位置と数を確認し追い込んでいくのが狩のセオリーだ。

待機している魔導騎兵は3騎、クナイツァー家の主力騎であるバイツァー55型だ。

今、3騎の騎兵が起動する。
整備兵が、炉に起動印を翳し火を入れる。

ヒュォーーーん

空気を吸い込むような事がしたと思った瞬間。
整備兵は、身を屈める。

ドォンっ!!

と、雷が落ちたかのような衝撃が走る。

そこに響くは、三重奏の楽器の調べ。
大地は震え、隊員は手に汗握る。

ブゥドウ…ドドドド…

  ブゥドウ…ドドドド…

重装甲騎の魔煌機関は、低く鈍く重い音を立てる…腹に響く音の洪水だ。

ヴィヒューーン…ディディでぃぅーーーん

軽装の1騎は、明らかに他の2騎と機関音が違った。
その音は甲高い機械音であり、ピーキーな高回転型の主機関ならではの駆動音だ。

ティナ専用の高速打撃型である。
ヒットアンドウェイ戦法で、装甲はコックピットと関節守護用多重装甲を一部に施しただけの軽装のスピード重視の騎体であり、『5型改甲型』と名称が与えられていた。

4本の刀が、まるで羽のよう天を仰ぎ装着されている。

気難しい主機関であるが、ティナはクラッチを繋いで行くのが天才的でありピークバンドを使い熟す。
同じ天才肌であるアブローラも同様に乗りこなすのだ。

雪原用塗装がなされており、白と灰色のカラーリングがなされている。
排気炎が吹き出す脚部と背中の排煙孔が煤けている。

ブゥーーウォん、ブゥーーウォん

魔煌炉を回し、主機関に溜まってしまう不完全燃焼燃料やスラッグを吐き出す作業をする。出陣式の前に一通り起動点検をこなしているが、一週間の行程内で高炉の起動をしてないので確認を兼ねて高回転まで回す。

ブゥーーウォーーウォん

回転計が跳ね上がる。
ティナは、回転計を見るわけでもなく回転音で回転数が分かるのだ。
器用に4本のペダルを繋いでいく。

これが、一気に高回転まで抜けると、魔獣の断末魔のような音が迸るのだ。

たんたん、タタタンとステップを刻む。
その刻まれるステップに、整備兵は見惚れてしまうのはいつもの事だった。
ティナに見惚れる者たちに…

「どうかしましたか?」
と、素っ気ない言葉に失望する整備兵、ここまでが、いつもの事であり様式美だ。
ティナは、騎兵とレイン以外に興味はない…とは言わないが、関心が薄かった。


操縦席は開いたままで、防音用の耳当ての肉を一部抜いて音を感じられるようにしていた。
常時治癒が出来る水使い出ないと出来ない芸当だ。
すぐ耳が飛んで聞こえなくなってしまう。

残りの2騎は、重装甲騎兵であり、破城杭を主兵装とし対大型魔獣や対攻城戦仕様扱いになっていた。
破城杭を使い、大型魔獣の足を攻撃し破壊し、突き倒すのが基本戦術だ。
攻城戦時は、防衛門を破壊し突破口を突き崩し突入するのだ。

その為の重装甲だり、複層構造の装甲で覆われ総重量は約2騎分となり、関節の強化がなされていた。。


ぽツン、ぽつんと戦術モニターに光点が点滅している。

「前哨戦には、都合がいいですね」
と、正面のモニターの光点を見てほくそ笑むティナ。

ティナは、魔獣狩りが好きだ。
小さい頃から、父ギールに連れられシュバリエの鍛錬がてらに狩をしていた。
同じ年頃の姫君は、お茶やダンスの習い事をしている最中、剣片手に狩をしていたティナ。血を抜き、皮を剥ぎ、解体する…流石に小型の獣までだが一通り出来るのだ。


周囲の警戒に出していた先行偵察部隊の魔煌浮遊偵察二輪が中型の魔獣を見つけたのだ。

「お前たち、モニターは確認出来ているか?」
ティナは、重装騎兵のパイロットに声を掛ける。

「中型のようですね、浮遊二輪お手柄だな」
と、騎士クライゼンが笑いながら、引きが強いなと感心もした。

「いつもように行きますか、ティナ様」
騎士ラータンも魔獣相手に”狩”を楽しめるティナ隊の一人だ。
「では、行こうか!」
ティナが銀髪をなびかせ満額回答に笑みを浮かべる。
「魔獣蔓延る、戦場に!!」

ティナは、士気も練度も、引きも強いと来た!何か巡り合わせを感じた。
そう、狩をし、魔獣を減らし、脅威を間引く…それがシュバリエの使命だ。

”災厄の魔獣?倒しても良いのだろう?”
ティナは高揚する。

”突撃槍を3本持ってきてある、やれる!やってやるさ!”

必ず帰る!ティナは意気込む。

”先発派遣隊の肩慣らしには丁度いいではないか。”


「騎兵隊!出撃する!」
と、ティナの号令が響く。

「「「了解!!」」」

「魔導騎兵、全騎起動!」

身の丈15mの巨人が目を覚ます。

ぎゅーーーん、グシュウーーンと様々な音を立て、騎兵が立ち上がる。





今、騎兵が出撃する。

兵器運搬の魔煌車、それらを護衛するシュバリエや整備兵。
一団が、狩場に向かう。

魔獣を倒すため、人の世を、取り戻すために。
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