上 下
15 / 50

雷神は苦悩する 1

しおりを挟む
ジアール帝国北部クナイツァー領
領都ファティニール

ファティニールは真円を描く4つの区画からなる都市である。
北方の真円区画に行政府、司法府、立法府があり、玄関先とでも言える西側にある中央区画には、飛空艇港や魔煌列車の中央駅があり商業エリアとなっていた。
南側の区画は低層建物が並ぶが平民の住居エリアとなっており、東側の奥の丘陵を活かしたエリアは貴族の居住区画である。
今現在第二期工事として真円が二つ追加され新たに居住エリアと工業エリアが新設される。
顎門に集中していた工房区画が一部移築される事が決まっている。
ファティニールの目の前には、アークベルテ湖が広がり水の都として観光地としても有名であり、
真円エリア同士を結ぶのは、道路と路面鉄道で幾何学的な都市美を持つ巨大都市だ。

北方区画の中央に4本の高層建物が領政府の建物であり、その中央に聳える白亜の領都行政府が中央に鎮座する。
領主代理として執政官アブローラ フォン アルスロップが治めていた。


クナイツァー領には都市が5つある…あったと言うべきか。
城塞都市顎門、領都ファティニール(南)、領街エレスタジア(東)、領街ルブール(西)、迷宮都市イグルー(北西)の5大都市から成り立っていたが、イグルーは先の大戦で陥落し氷結封印されている。

クナイツァー家の未来の当主は、いずれイグルー奪還の使命を背負わされるのだ。
魔力暴走の抑制の為の間引きが出来なくなって30年…次は、何が起こるか分からない。
帝国にとって未知の領域に突入しているのだ。




帝国史上最恐のシュバリエと言われるクナイツァー家当主シロウドレイ を持ってしても、イグルー奪還の道筋は見えていなかった。

試算は出ていた。

イグルー砦の手前にある平野を決戦の地に定め、陣地を構築し迎え撃つ。
教科書通りと言われようが一番成功率の高い作戦なのは、シロウドも理解していた。

1. 魔煌艦隊を出撃させ、飛行系魔獣を撃破し制空権を確保。
2. 重砲による波状攻撃を行い、突破してくる魔獣や『悪魔』を魔導騎兵300騎を持って各個撃破。
3. 王クラスの『悪魔』が出た場合のみ、強行突入戦仕様に換装した帝騎全騎(残機4)で決死隊を組み迎撃に当たる。

この迎撃案が出た時、シロウドは絶句した。
迎撃作戦プランに対してではない、必要とされる物資の量にだ。

クナイツァー家保有の魔導騎兵は、公称60騎…秘匿している予備騎40を含めても、最大100騎。
一回限りなら騎兵乗りも用意出来るが、まず100騎の大規模戦闘を経験した隊長がいない。
騎兵隊に指示を出す筆頭騎士ライズベルでさえ20騎が精々だ。
それにも関わらず、300騎ときた。
クナイツァー家といえども、財政破綻する。帝国全領でさえ、300騎その数は揃えられない。

魔煌艦隊が制空権を取れなければ、この作戦はそもそも成り立たない。

40年前、ブルーム率いる召喚士隊の召喚獣達が漏れた残敵を喰らってくれたが…今はいない。
召喚士がいない、召喚術そのものが衰退した…どれだけ被害が出ると言うのか。

参謀の出す案は、領内にある大型飛空艇にありったけの煌機関砲を積み掃射する…あんな鈍足の飛空艇で飛竜に襲われたら…死ねと言うのか?
別案として、飛行魔獣対策として、小型で高速飛空艇を作り機銃を積み込み駆逐する…夢のプランだ。脱出用に作られられた小型の飛空艇を改造し云々…机上の案の域を出ない。

「迎撃しないで済む案もあります。」
と、恐る恐る案を述べる参謀を、顎門幹部達は責めた。
夢を吐く場ではないぞ?と失笑する。

その若い作戦将校はシロウドをじっと見つめる。
思案気に顎に指を置く…ふむ、と一息つく。

「その案は、一番現実的であるか」

シロウドの言葉にその参謀以外皆ギョッと目玉を真ん丸した。
”正気ですか?”と、一同思うが口に出す訳に行かず沈黙する。

「詳しく試算せよ」
と、領主命令が下った。

「了解しました、お屋形様」
若い参謀は恭しく頭を垂れた。

その案は、昔ブルームが父親であるシロウドに直訴した案だった。

”こいつは、頭がいいのか馬鹿なのか…わしには分からん”
と、嘆いたのを思い出す。

ふふふ…

重苦しい軍会議で、シロウドが薄ら笑いを浮かべ顎門幹部が皆凍り付いている奇妙な光景だっ
た。

後日、有事の際適用される作戦案の一つとして高優先順位がつけられた。



溢れ出した古き者や魔獣を帝都に誘導し……アークベルテ湖を決壊させ、反クナイツァーを一気に濁流に沈め南部に押しつける。
魔導騎兵、魔煌艦隊総出撃し、一気に浄化殲滅する…シロウドの決断で今すぐに可能な最も確実性の高い作戦案だった。



そして、大きな問題もなく何年か過ぎた。
出来事があったとすれば、アブローラが領都執政官職に就いた事くらいか。




だが、いつの頃からだろうか…
とある噂が囁かれ始めた。

あの子は…悪魔憑きだ。

レインは、やはり普通の子とは違っていた…タンタの恐れていた事が始まり出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

異世界×お嬢様×巨大ロボ=世界最強ですわ!?

風見星治
SF
題名そのまま、異世界ファンタジーにお嬢様と巨大ロボを混ぜ合わせた危険な代物です。 一応短編という設定ですが、100%思い付きでほぼプロット同然なので拙作作品共通の世界観に関する設定以外が殆ど決まっておらず、 SFという大雑把なカテゴリに拙作短編特有の思い付き要素というスパイスを振りかけたジャンクフード的な作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

冬に鳴く蝉

橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【R18】魅了を使い全裸土下座させて頭をぐりぐりと踏む性癖に目覚めたアラフォーおっさんは、異世界で次々と女の頭を踏み抜いていく

きよらかなこころ
ファンタジー
 ある日、ダイスケは勇者召喚に巻き込まれて転生した。40歳童貞の男は賢者となり、不老不死の力を手に入れる。  そんな中、魅了という魔法に魅せられたダイスケは、魔法を習得して使ってみる事を決意する。  後頭部を殴られた女に全裸土下座をさせたとき、性癖が目覚めたダイスケ。  異世界で全裸土下座をさせて、女の頭を踏み抜いていくことになるのだった。 ※注意事項とか  主人公はクズです。  魅了を使った展開が基本ですが、寝取りっぽい展開や半強制的に関係を迫る場合があるので苦手な方はご注意ください。

処理中です...