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8章 王都レビオルム
STORY138 誘拐
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「なぜ賊を追わぬ!?」
近衛騎士長ヴァズがウラボスを叱責する。
「今、あいつを追うのは危険だと判断したからだ。俺はあんたらのために仲間を必要以上の危険にさらすつもりはない」
「貴様!! 腰抜けが!」
「なんとでも言えばいいさ。あのまま深追いしたとして、その先で仲間が待ち受けていたとしたらどうする? 形勢逆転されて一気に全滅させられてしまう可能性だってあるんだぜ」
「そのようなもの、所詮は可能性の問題だ。あの黒騎士を捨て置けば再び襲撃してくるかもしれんのだぞ!? 国王陛下の御身に何かあれば責任をとれるのか!?」
近衛騎士長ヴァズはウラボスの胸ぐらを掴む。
「知るかよ」
ウラボスは呆れたように言い、ヴァズの手をほどく。
「貴様ぁ!!」
怒り狂ったヴァズは右手で腰の剣を抜き放った。
ヒュンッ
ウラボスが後方に飛び退いたことでヴァズの不意打ちは空振りする。
ウラボスはすかさずヴァズの右手の甲を蹴る。
「ぐっ……」
短く声を漏らしたヴァズの右手が僅かに緩んだ瞬間を見逃さず、素早く剣を奪い取り、その切っ先をヴァズの喉元に突きつける。
「いいか。ひとつ教えといてやる。俺にとってはこの国よりも世界よりもリアーナたちのほうが大事なんだ」
「ぬぅ……」
ヴァズはウラボスを睨める。
「よさぬか、ヴァズ。その者の言うことはもっともだ。それに、賊が退散したあとで騒いだところでしかたあるまい?」
「はっ…」
ヴァズはラグーナに一礼し、ウラボスの手から剣を引ったくる。
「負傷した者の手当てを急げ」
ラグーナは周りの者指示をだす。
「さて。人狼族の領地に関しては認めることにしよう。その代わりといってはなんだが、ひとつ頼まれてはくれぬか?」
「それはどのような依頼でしょうか?」
レイピアを鞘に納めたリアーナが訊く。
「ふむ。実はな……」
ゴォォォォォォォンッ!
突然、階上から騒音が聞こえてきた。
「何事だ!?」
ラグーナは天井を見上げる。
「おい! 貴様!?」
近衛騎士長ヴァズが制止するのもきかず、ウラボスは玉座の奥にある階段を駆け上がる。
◎
「だれか!! だれかいないの!?」
3階中央部に築かれた庭園から若い女性の声が聞こえてくる。ウラボスは躊躇うことなく突き進む。
「ちっ!」
庭園へとやって来たウラボスの視界で巨大な怪物が若い娘を掴んだまま背中の翼を羽ばたかせている。その巨体は全長10メートルを越えているように思われる。
「おぉ! そこのあなた、姫様、姫様をお助けしてちょうだい!!」
侍女と思しきメイド服の中年女性がウラボスに声をかける。
だが、ウラボスは動かない。いや、正確には動けなかった。下手に攻撃すれば姫は握り潰されてしまうだろう。怪物の羽ばたきによって生じる暴風の中、ただ立ち尽くすしかできないのである。
怪物はそのまま姫を連れ去ってしまう。リアーナ、リャッカ、グランザが駆けつけたのはその直後だった。
近衛騎士長ヴァズがウラボスを叱責する。
「今、あいつを追うのは危険だと判断したからだ。俺はあんたらのために仲間を必要以上の危険にさらすつもりはない」
「貴様!! 腰抜けが!」
「なんとでも言えばいいさ。あのまま深追いしたとして、その先で仲間が待ち受けていたとしたらどうする? 形勢逆転されて一気に全滅させられてしまう可能性だってあるんだぜ」
「そのようなもの、所詮は可能性の問題だ。あの黒騎士を捨て置けば再び襲撃してくるかもしれんのだぞ!? 国王陛下の御身に何かあれば責任をとれるのか!?」
近衛騎士長ヴァズはウラボスの胸ぐらを掴む。
「知るかよ」
ウラボスは呆れたように言い、ヴァズの手をほどく。
「貴様ぁ!!」
怒り狂ったヴァズは右手で腰の剣を抜き放った。
ヒュンッ
ウラボスが後方に飛び退いたことでヴァズの不意打ちは空振りする。
ウラボスはすかさずヴァズの右手の甲を蹴る。
「ぐっ……」
短く声を漏らしたヴァズの右手が僅かに緩んだ瞬間を見逃さず、素早く剣を奪い取り、その切っ先をヴァズの喉元に突きつける。
「いいか。ひとつ教えといてやる。俺にとってはこの国よりも世界よりもリアーナたちのほうが大事なんだ」
「ぬぅ……」
ヴァズはウラボスを睨める。
「よさぬか、ヴァズ。その者の言うことはもっともだ。それに、賊が退散したあとで騒いだところでしかたあるまい?」
「はっ…」
ヴァズはラグーナに一礼し、ウラボスの手から剣を引ったくる。
「負傷した者の手当てを急げ」
ラグーナは周りの者指示をだす。
「さて。人狼族の領地に関しては認めることにしよう。その代わりといってはなんだが、ひとつ頼まれてはくれぬか?」
「それはどのような依頼でしょうか?」
レイピアを鞘に納めたリアーナが訊く。
「ふむ。実はな……」
ゴォォォォォォォンッ!
突然、階上から騒音が聞こえてきた。
「何事だ!?」
ラグーナは天井を見上げる。
「おい! 貴様!?」
近衛騎士長ヴァズが制止するのもきかず、ウラボスは玉座の奥にある階段を駆け上がる。
◎
「だれか!! だれかいないの!?」
3階中央部に築かれた庭園から若い女性の声が聞こえてくる。ウラボスは躊躇うことなく突き進む。
「ちっ!」
庭園へとやって来たウラボスの視界で巨大な怪物が若い娘を掴んだまま背中の翼を羽ばたかせている。その巨体は全長10メートルを越えているように思われる。
「おぉ! そこのあなた、姫様、姫様をお助けしてちょうだい!!」
侍女と思しきメイド服の中年女性がウラボスに声をかける。
だが、ウラボスは動かない。いや、正確には動けなかった。下手に攻撃すれば姫は握り潰されてしまうだろう。怪物の羽ばたきによって生じる暴風の中、ただ立ち尽くすしかできないのである。
怪物はそのまま姫を連れ去ってしまう。リアーナ、リャッカ、グランザが駆けつけたのはその直後だった。
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