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4章 呪われたウラボス
STORY60 アンドヴァリナウト
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古びた遺跡の奥の一室。
暁の渡り鳥は考古学者ヴェドの護衛として同行していた。ちなみにグランザは表で荷車の番をしている。
荷物と荷車を置いていくのは不用心なのも理由の一つではあるが、巨躯のサイクロプスが人間の遺跡内で作業するには狭いのではないかという理由も加えておこう。
「皆さんのお陰で助かりましたよ、ほんと」
ヴェドが室内の壁やら床やらを探りながらリアーナ、ウラボス、リャッカに話しかける。
「いえ、わたしたちはお仕事としてヴェドさんのお手伝いをさせていただいてるのですから、感謝なんて……」
リアーナが若干照れたように返す。
「いやいや、自慢じゃないですが貧乏学者でして……」
「自慢にならないニャ」
「リャッカちゃん!」
サラッと強烈なツッコミを入れるリャッカをリアーナがたしなめる。
「いいんですよ、本当のことなんですから」
ヴェドは気にしないといった風に笑いながら言う。
「それで、そんな僕が皆さんにお支払いできる報酬なんて僅かなものですから、冒険者の方はだれも引き受けてくれなくて……」
「このグジン族の遺跡って随分前に発掘し尽くされたはずニャ。それをどうして今さら調べ直すニャ?」
リャッカが素朴な疑問をぶつける。
「たしかにリャッカさんの仰るとおりです。実際、周りの学者仲間にも時間の無駄だ…なんて言われてるんですよ。しかし、なぜかはよくわからないんですが、この遺跡には僕たちがまだ知らない秘密があるように思えてならないんです」
「考古学者としての勘ってやつですか?」
リアーナが返す。
「アハハハハハ……僕にそんな大したものはありませんよ」
「そうなんじゃないか、となんとなく思えてくるだけです」
「それを勘っていうんニャ」
またしてもリャッカの遠慮のないツッコミが炸裂する。
「ねぇ、ウラボス。何かわかった?」
リアーナは一人黙々と調査を続ける青年に話しかける。
「いいや、何も……。グジン族といえば伝説の秘宝の一つアンドヴァリナウトを崇拝する古代部族だったよな?」
「そうニャ」
「お二人ともよくご存知ですね!」
ヴェドがウラボスとリャッカの博識ぶりに感心する。
「あの…話がみえないんだけど?」
一人だけ話題に取り残されたリアーナがどこか遠慮がちに発言する。
「アンドヴァリナウトというのは無限の黄金を生み出すとされる伝説の指輪さ」
「だけど、そんなのを大事に持っていたのが悲劇の始まりニャ。指輪を狙う他部族から執拗に侵略されて滅ぼされたニャ…」
「いつの世も、欲望に支配された者ほど恐ろしいものはないってことだね……。それで、その指輪はその後どうなったの?」
ウラボスとリャッカからアンドヴァリナウトの説明を受けたリアーナは悲しい気持ちになったが、振り払うように質問を返す。
「アンドヴァリナウトの行方はわかっていないんです。アンドヴァリナウトは何者かによって略奪された、または他部族に略奪される前に最後のグジン族によってどこかに隠されたなど諸説あり、どれが正しいのかはわかっていません」
ヴェドが説明をする。
「ヴェドさんはもしかしてその指輪を?」
「ある意味ではそうかもしれませんね。まさか本当に黄金を生み出すなんて思ってませんよ。しかし、そんな伝説になる指輪がどのような物なのか考古学者としての興味はあります」
ヴェドは微笑む。
「これだけ探しても見つからないんだから、きっと何もない遺跡ニャ。もう諦めるニャ~!」
飽きてきたリャッカは部屋の中央に設置されている台に置かれた杯を模したオブジェの上でピョンピョンと跳び跳ねて遊びだす。
カチッ
何かのスイッチが入ったような小さな音がした瞬間だった。屈んで床を調べていたウラボスの足元にポッカリと穴が現れ、一瞬にしてウラボスを飲み込んで閉じた。
「やば……」
その瞬間を目撃したリャッカは短く言葉を発した。
暁の渡り鳥は考古学者ヴェドの護衛として同行していた。ちなみにグランザは表で荷車の番をしている。
荷物と荷車を置いていくのは不用心なのも理由の一つではあるが、巨躯のサイクロプスが人間の遺跡内で作業するには狭いのではないかという理由も加えておこう。
「皆さんのお陰で助かりましたよ、ほんと」
ヴェドが室内の壁やら床やらを探りながらリアーナ、ウラボス、リャッカに話しかける。
「いえ、わたしたちはお仕事としてヴェドさんのお手伝いをさせていただいてるのですから、感謝なんて……」
リアーナが若干照れたように返す。
「いやいや、自慢じゃないですが貧乏学者でして……」
「自慢にならないニャ」
「リャッカちゃん!」
サラッと強烈なツッコミを入れるリャッカをリアーナがたしなめる。
「いいんですよ、本当のことなんですから」
ヴェドは気にしないといった風に笑いながら言う。
「それで、そんな僕が皆さんにお支払いできる報酬なんて僅かなものですから、冒険者の方はだれも引き受けてくれなくて……」
「このグジン族の遺跡って随分前に発掘し尽くされたはずニャ。それをどうして今さら調べ直すニャ?」
リャッカが素朴な疑問をぶつける。
「たしかにリャッカさんの仰るとおりです。実際、周りの学者仲間にも時間の無駄だ…なんて言われてるんですよ。しかし、なぜかはよくわからないんですが、この遺跡には僕たちがまだ知らない秘密があるように思えてならないんです」
「考古学者としての勘ってやつですか?」
リアーナが返す。
「アハハハハハ……僕にそんな大したものはありませんよ」
「そうなんじゃないか、となんとなく思えてくるだけです」
「それを勘っていうんニャ」
またしてもリャッカの遠慮のないツッコミが炸裂する。
「ねぇ、ウラボス。何かわかった?」
リアーナは一人黙々と調査を続ける青年に話しかける。
「いいや、何も……。グジン族といえば伝説の秘宝の一つアンドヴァリナウトを崇拝する古代部族だったよな?」
「そうニャ」
「お二人ともよくご存知ですね!」
ヴェドがウラボスとリャッカの博識ぶりに感心する。
「あの…話がみえないんだけど?」
一人だけ話題に取り残されたリアーナがどこか遠慮がちに発言する。
「アンドヴァリナウトというのは無限の黄金を生み出すとされる伝説の指輪さ」
「だけど、そんなのを大事に持っていたのが悲劇の始まりニャ。指輪を狙う他部族から執拗に侵略されて滅ぼされたニャ…」
「いつの世も、欲望に支配された者ほど恐ろしいものはないってことだね……。それで、その指輪はその後どうなったの?」
ウラボスとリャッカからアンドヴァリナウトの説明を受けたリアーナは悲しい気持ちになったが、振り払うように質問を返す。
「アンドヴァリナウトの行方はわかっていないんです。アンドヴァリナウトは何者かによって略奪された、または他部族に略奪される前に最後のグジン族によってどこかに隠されたなど諸説あり、どれが正しいのかはわかっていません」
ヴェドが説明をする。
「ヴェドさんはもしかしてその指輪を?」
「ある意味ではそうかもしれませんね。まさか本当に黄金を生み出すなんて思ってませんよ。しかし、そんな伝説になる指輪がどのような物なのか考古学者としての興味はあります」
ヴェドは微笑む。
「これだけ探しても見つからないんだから、きっと何もない遺跡ニャ。もう諦めるニャ~!」
飽きてきたリャッカは部屋の中央に設置されている台に置かれた杯を模したオブジェの上でピョンピョンと跳び跳ねて遊びだす。
カチッ
何かのスイッチが入ったような小さな音がした瞬間だった。屈んで床を調べていたウラボスの足元にポッカリと穴が現れ、一瞬にしてウラボスを飲み込んで閉じた。
「やば……」
その瞬間を目撃したリャッカは短く言葉を発した。
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