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第一部 イケメン課長の華麗なる冒険

顚末書①**

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「それで女は何と言ってる」
「『産む』と言っています」
「父親も分からんのにか」

 役員室で風間は、口をへの字に曲げた野平と向かい合っていた。軽井沢での狂宴から1カ月半が経っていた。

 目だけ上げて野平の表情をうかがった。苦虫を噛み潰したようにくうをにらんでいるのを確かめてから、風間は報告すべきことを述べた。

「軽井沢に行く4日前に寝た男がいますが、その時は避妊措置を取ったそうです。以後、その男とは連絡がつかないらしいです」

 野平がじろりと向けてきた視線を、風間は露骨に逸らした。

「理屈に合わないだろう。ロボットとヤって子供ができるなら人間の男は用済みだぞ」
「おっしゃる通りですが、彼女が言うには、『相手が人間だろうが機械だろうが関係ない。自分は社に指示されて軽井沢に行き、眠っている間に体を自由にされた。社が責任を取らないなら出るところへ出てやる』。この一点張りです」


 ガーゴイル社製の人型セックスマシン『コウイチ』が小野寺沙希の胎内に注入したのは他ならぬ自分の精子だったことを、今では風間も知っている。だから法的にはともかく、医学的には沙希が宿した子の父親は風間ということになる。

 いずれにしても『コウイチ』のプレゼン後、フタツ星の新薬「R─230」は間違いなく沙希に投与された。時間も用量も規定通りだった。しかしその後生理は訪れず、妊娠検査薬を使うと陽性反応が表れ、血相を変えて出向いた先の産婦人科医も妊娠していることを告げた。新薬は何ら効果を発揮しなかったのだ。

 そして……沙希がマシンによって妊娠させられたように、風間から精液を吸い取ったのも、ガーゴイル社製の人型絶頂マシンだった。



 悪夢のような、山中での一夜。


 風間を鞭打った女王・観月桜と異形の男たちが去った後、横たわっている風間の足元の床下から、人の形をしたものがゆっくりと持ち上がってきた。
 その全身を風間の眼前に現した瞬間、八方からフットライトが一斉に点灯した。人の形をしたものが動き出し、拘束状態の風間に歩み寄ってくる。

 どこかに設置されたスピーカーから、男の声が鳴り響く。

「ご安心ください! これよりガーゴイル・テクノロジー社が最新の技術を傾けて開発した超絶美少女型絶頂マシン『ユリ』があなた様に奉仕いたします! 身も心も開いて、すべてを『ユリ』にお委ねください! 至上の喜びをお約束いたします!」

 風間の目に映ったそれは、どう見てもリアルな人間の若い女性だった。機械とは思えなかった。肌の色、髪、程よい大きさの乳房、両足の付け根に形よく整えられた陰毛。歩み寄ってくる足取りもまた滑らかで、少しもぎくしゃくとしていない。『ユリ』は風間の股間に来て立ち止まり、縮こまっているそれに頭を近づけた。

 口が開き、舌のような器具を伸ばして尖端に触れる。

 風間の背筋に痙攣が走った。それは温かかった。その温かさは、こわばっていた全身を解きほぐし、リラックスさせてしまう。

 何よりも風間は、女王によって忌まわしい過去を暴かれ茫然自失状態にあっただけに、慈愛に満ちた女神が自分の恥ずべき器官を慰撫するために降臨したかのように感じられたのである。そして『ユリ』は、その舌のようなもので風間の亀頭部をゆっくりと舐め回した後、口に含んだ。

 その口技は恐るべきものだった。萎れていた風間の男性自身にたちまち力が漲り、硬く立ち上がっていく。十分に勃起したのを確かめると、『ユリ』はそれ以上口技を続けようとせず、体を起こして風間にのしかかった。

 口枷を嵌められた風間を見下ろす美少女の目は微かに潤んでいるように見えた。少女の香りを漂わせる長い黒髪が、風間の顔面を撫でる。『ユリ』が言葉を発した。

『アイシテルワ こういち ヒトツニ ナロウネ』

 その声!

 電子音であるはずなのに、生身の女など足元にも及ばぬ悩ましさで、わずかに残っていた風間の警戒心を一瞬に蕩かしてしまった。風間は思った。自分の生涯でこれほど優しい声を掛けてくれた女がいただろうか! ダッチワイフの技術はもう、こんなところまで来ていたのか!
 そうして『ユリ』は腰を落とし、風間の剛直を自分の中に収めていく。

『アア…… トッテモ オオキイ…… オオキクテカタイ…… ユリ シアワセェェ……』

 『ユリ』の「中」。それは、風間がどんな女でも感じたことがない、まるで別世界のような感触だった。温かく柔らかな肉が、亀頭と竿にやさしく絡みついて蠕動する。女王によってずたずたに引き裂かれたプライドまで、優しく癒してくれるかのように。その心地よさに思わず風間は目がしらが熱くなり、泣いてしまいそうになった。

 ああ、この感触! 俺はこういう女を探していたんだ!

 騎乗位の『ユリ』が腰を動かし始めた。

『アアッ…… こういち イイッ…… カタクテ オッキイィィ……』

 その腰使いの凄まじさに、思わず風間は口枷の間から妙なよがり声を上げてよだれを噴出させた。熱く柔らかい『ユリ』の肉に包まれて亀頭が踊り出し、たちまち風間は1発目を噴出してしまう。しかし風間の男性自身は硬さを失わず、ただただ『ユリ』の超絶騎乗位にもてあそばれるままになった。

 2発目。そして3発目。涙とよだれを垂れ流し、風間は赤ん坊のように美少女型絶頂マシンに翻弄された。そして幸せだった。

「?*@$6!&・><~~~~!!!」
『こういち スゴイ! アアア ユリ イク イク イッチャウ!!』

 搾り取られながら、風間は赤子に還って泣きわめく至福を味わっていた。

 愚にもつかぬ社会のしがらみから解き放たれ、大声を上げて快感に身を任せるこの幸せよ!

 わたくしの上で腰を振っておられる女神様!

 ああ、どうかあなた様の中に、このわたくしのすべてを吸い上げていただきたい!

 嘘に嘘を重ね、汚れてしまったわたくしめの全存在は、大いなるあなた様の子宮の中へ回帰して浄化され、あなた様と一つになるのです!

 ですからもっと、もっと、わたくしのすべてをあなた様の中にィィィィ!!

「#*¥!%@<>↓↑$→←☝☟⇔~~~~~!!!」

 6発目を搾り取られたところで風間は白目を剥き、桃源郷へと達して失神した。『ユリ』は両手で風間の口枷を外し、ディープキスのご褒美を与えて、超高性能ボディーを離脱させた。スピーカーから男の声がわめき立てる。

「被験者は失神してしまいました! しかし日頃の広言にたがわずきっちり6回こなしたのはさすがであります! しかも休みなしの抜かず6発! 皆様、被験者の健闘に盛大な拍手を!」

 どこか別室のまばらな拍手を頭だけ拾って、音声はぷつりと途切れた。ギャラリーは風間の視界の外から痴態を眺めていたのである。


 美少女型マシンに搾取された風間の精液。それが鮮度を保ったまま『コウイチ』のボディーに移され、沙希の胎内へと注ぎ込まれたことは言うまでもない。


 後日、新薬の被験者がこともあろうに部下の小野寺沙希だったと知って風間は仰天した。新薬が効果を発揮せず沙希が妊娠でもしたらどうするのか。

 そして野平は今、新薬の試験が人型マシンを介して行われることを知らなかったと言い張っているのだった。

「俺はてっきり、君とその契約社員が直接ナニするんだと思ってたからな」

 目の前で首を傾げる野平を上目遣いに見ながら、風間は暗澹たる気分になった。この期に及んで何をとぼけてるんだ。どっちにしたって、こういう結果を招いたことは俺の責任じゃない。

「田所を締め上げたら白状しました。裏で糸を引いてたのは、人事2課主任の何某とかいう女性社員で……」

 風間は、半泣きで事の次第を白状した人事2課長の顔を思い出す。

 営業本部と人事部の間を取り持ったのは、田所と同期入社の女性主任だった。前の課長が休職して、後任は自分だと思い込んでいたところへ田所が来たことを根に持っていたようなのだ。そしてこの女性主任がガーゴイル社と接点を持つ上で暗躍したのが、どうやら観月桜らしい。「私は使い走りみたいなものでした」と訴える田所に、風間は開いた口が塞がらなかった。

 いずれにしても営業本部は新薬の販売戦略上、ガーゴイル社と共同歩調を取るという判断を下した。そして同社の人型セックスマシンのプレゼンに「人を出す」形で協力することになり、風間と沙希が被験者として狩り出されたのが、狂気じみたプレゼンに至るまでのおおよその経緯らしかった。

 そしてガーゴイル社の周辺には、監督官庁や政界関係者の影がちらついている。営業本部がこのあたりを忖度したのかどうかは推測の域を出なかったし、風間も探る必要は感じなかった。風間個人にとってはどうでもいいことだった。

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