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6 炎の谷
大歓喜冲天之図
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俺の締め上げている女人の身体が、見る間に細長い棒状に変化していく。やがて婢鬼は一条の大蛇に姿を変え、一瞬のうちに俺の龍体とよじれ合うように絡み付いた。
さらに俺に戸惑う暇も与えず、婢鬼は自らの蛇体から不可解な粘液をとめどもなく噴き出させてきた。案に違わず俺に巻き付いた婢鬼の蛇体は、そのぬめりに任せて龍体を絞り上げつつ前後に動き始めたのだった……。
婢鬼の粘液は俺の全身に行き渡り、鱗の下にまで浸透してくるようだった。飛沫を散らしながら絞り上げてくる彼女の動きは淫靡の極みであり、その感触が、こちらの身中に妖しい火を点じつつあるのを覚って俺は狼狽した。
──うう、よさぬか、爾。
──いかがで、ござりまするか若君様、ご承知のごとく注連縄とは一対の蛇が睦み合うの図、あああ、若君様とわたくしは今、まさに一本の注連縄となり睦みおうておりまする! さあ諸共に、和合大歓喜のさまを現示いたしましょうぞ、おお、よきかな、よきかな!
尾から頭の先まで、雷撃のように快感が貫いた。
俺はもはや自分を制御することもできず、彼女の動きに合わせて身をよじらせ始めていた。彼女が前進する動きに合わせて俺も前に進もうとし、互いに互いを絞り上げる。粘液は俺と婢鬼の肌のすき間で攪拌されて白く泡立ち、飛び散り、あるいは縄に結ばれた紙垂そのままに、玉を結んだ糸となって風に舞い虚空の底へしたたり落ちてゆく。
俺は知った。注連縄とは、この世界の根源的な力が発現している瞬間を、永遠に静止させんとするシンボルだったのだ。
蛇頭を振り回し、二つに裂けた真っ赤な舌を震わせながら、婢鬼は絶え入るばかりの声で痴れ言をわめき続ける。
──近い、近い、若君様のお情けが間もなく、わたくしめの胎中に! ありがたや、ありがたや!
──されど爾、それは、無明と申すものにあらざるか。
──いかにも無明にござりましょう! 五障ある身はこれすなわち無智無明、ありがたきおなさけにすがるを以て等正覚を成すものなれば、無明なるわたくしの声をお聞き入れくださるこそが大慈大悲ではござりませぬか? おお……わ、か、ぎ、み、さ、ま、よ……
ああ……美少女に捧げるはずだった俺の貞操。それは、西域生まれの元破壊神に奪われてしまうのか。だが、それもよい。よいのだ。
黒煙が濃く立ち込める空中を、俺と婢鬼はよじれ合ったまま飛び狂った。この悪夢のような空をどこへ向かおうとしているのか。そんなことは空白になった頭の中から消えていた。
よきかな。
日がどこから差しているのか、この「境」には確かに光がある。ただ空中には熱がこもり、風の途絶えた中を黒煙が切れ間もなく視界を遮っている。
ことさらおどろおどろしく飾った草子絵などとは違う、掛け値なしに本物の地獄とは、このようなものではないのか。それは日常のすぐ近くにあり、いつでも俺たちを飲み込もうとして待ち構えている。
婢鬼と睦み合う快楽のさなかで、俺はぼんやりとそんなことを思った。
──おおお、びょう、てき、せい、せい、くし、ほさ、い…… よく、せん、せい、せい、くし、ほさ、い……
いつの間にか顔だけ女人に戻った婢鬼は、黒髪を振り乱しつつ恍惚境のうちからわめき続けている。そうして婢鬼の身体を味わっている俺も、我知らず心中で理趣経を唱え始めていた。
そうやって経文を唱和することの思いもかけぬ心地よさに、俺は陶然として意識まで失いそうになる。
──よい、よい、よい、わか、ぎみ、さま、の、
──ん……我の、何がどうした。
──く、くち、づけが、ほ、ほしい。
この婬欲の権化めが、我が接吻まで望むか。婢鬼の蛇体を絞りこちらも絞り上げられながら、覚悟を決めた俺が顔を近づけようとすると、婢鬼は激しく首を左右に振る。
──なにとぞ、なにとぞ!
──いかがした。
──尊きご龍顔はあまりに恐れ多く。なにとぞ、あの、凛々しき男子のお顔に、おもどりあそばせ。
──左様か。
そうだ。これは運命なのだ。
俺のファーストキスは如鬼神に与えられる定めだった。よい、くれてやろう。既に俺の貞操は爾にくれてやったも同然なのだから。確と受け止めるがよい。
龍の頭を人間のそれに戻した。歓喜に震え滂沱の涙とともに見つめてくる婢鬼を、初めて愛おしいと感じ、唇を合わせる。
婢鬼の歓喜が唇を、舌を通じて伝わってくる。蛇体は熱を加え一層おびただしく「ぬめり」を絞り出して、俺の身体を締め付けてくる。俺は「お情け」を彼女に与える瞬間が近づいていると覚った。
そうだった。俺は何も知らない。
──爾。よくよく思わば、我は爾の来し方をほとんど知らぬ。
──え?
婢鬼がひるんだ一瞬のすきに、俺は彼女の口の中へ飛び込んだ。
さらに俺に戸惑う暇も与えず、婢鬼は自らの蛇体から不可解な粘液をとめどもなく噴き出させてきた。案に違わず俺に巻き付いた婢鬼の蛇体は、そのぬめりに任せて龍体を絞り上げつつ前後に動き始めたのだった……。
婢鬼の粘液は俺の全身に行き渡り、鱗の下にまで浸透してくるようだった。飛沫を散らしながら絞り上げてくる彼女の動きは淫靡の極みであり、その感触が、こちらの身中に妖しい火を点じつつあるのを覚って俺は狼狽した。
──うう、よさぬか、爾。
──いかがで、ござりまするか若君様、ご承知のごとく注連縄とは一対の蛇が睦み合うの図、あああ、若君様とわたくしは今、まさに一本の注連縄となり睦みおうておりまする! さあ諸共に、和合大歓喜のさまを現示いたしましょうぞ、おお、よきかな、よきかな!
尾から頭の先まで、雷撃のように快感が貫いた。
俺はもはや自分を制御することもできず、彼女の動きに合わせて身をよじらせ始めていた。彼女が前進する動きに合わせて俺も前に進もうとし、互いに互いを絞り上げる。粘液は俺と婢鬼の肌のすき間で攪拌されて白く泡立ち、飛び散り、あるいは縄に結ばれた紙垂そのままに、玉を結んだ糸となって風に舞い虚空の底へしたたり落ちてゆく。
俺は知った。注連縄とは、この世界の根源的な力が発現している瞬間を、永遠に静止させんとするシンボルだったのだ。
蛇頭を振り回し、二つに裂けた真っ赤な舌を震わせながら、婢鬼は絶え入るばかりの声で痴れ言をわめき続ける。
──近い、近い、若君様のお情けが間もなく、わたくしめの胎中に! ありがたや、ありがたや!
──されど爾、それは、無明と申すものにあらざるか。
──いかにも無明にござりましょう! 五障ある身はこれすなわち無智無明、ありがたきおなさけにすがるを以て等正覚を成すものなれば、無明なるわたくしの声をお聞き入れくださるこそが大慈大悲ではござりませぬか? おお……わ、か、ぎ、み、さ、ま、よ……
ああ……美少女に捧げるはずだった俺の貞操。それは、西域生まれの元破壊神に奪われてしまうのか。だが、それもよい。よいのだ。
黒煙が濃く立ち込める空中を、俺と婢鬼はよじれ合ったまま飛び狂った。この悪夢のような空をどこへ向かおうとしているのか。そんなことは空白になった頭の中から消えていた。
よきかな。
日がどこから差しているのか、この「境」には確かに光がある。ただ空中には熱がこもり、風の途絶えた中を黒煙が切れ間もなく視界を遮っている。
ことさらおどろおどろしく飾った草子絵などとは違う、掛け値なしに本物の地獄とは、このようなものではないのか。それは日常のすぐ近くにあり、いつでも俺たちを飲み込もうとして待ち構えている。
婢鬼と睦み合う快楽のさなかで、俺はぼんやりとそんなことを思った。
──おおお、びょう、てき、せい、せい、くし、ほさ、い…… よく、せん、せい、せい、くし、ほさ、い……
いつの間にか顔だけ女人に戻った婢鬼は、黒髪を振り乱しつつ恍惚境のうちからわめき続けている。そうして婢鬼の身体を味わっている俺も、我知らず心中で理趣経を唱え始めていた。
そうやって経文を唱和することの思いもかけぬ心地よさに、俺は陶然として意識まで失いそうになる。
──よい、よい、よい、わか、ぎみ、さま、の、
──ん……我の、何がどうした。
──く、くち、づけが、ほ、ほしい。
この婬欲の権化めが、我が接吻まで望むか。婢鬼の蛇体を絞りこちらも絞り上げられながら、覚悟を決めた俺が顔を近づけようとすると、婢鬼は激しく首を左右に振る。
──なにとぞ、なにとぞ!
──いかがした。
──尊きご龍顔はあまりに恐れ多く。なにとぞ、あの、凛々しき男子のお顔に、おもどりあそばせ。
──左様か。
そうだ。これは運命なのだ。
俺のファーストキスは如鬼神に与えられる定めだった。よい、くれてやろう。既に俺の貞操は爾にくれてやったも同然なのだから。確と受け止めるがよい。
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婢鬼の歓喜が唇を、舌を通じて伝わってくる。蛇体は熱を加え一層おびただしく「ぬめり」を絞り出して、俺の身体を締め付けてくる。俺は「お情け」を彼女に与える瞬間が近づいていると覚った。
そうだった。俺は何も知らない。
──爾。よくよく思わば、我は爾の来し方をほとんど知らぬ。
──え?
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