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3 殲滅

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 卒業した後には、いかに母校であろうと、その制服を着るのはコスプレでしかない。趣味としてもあまりに物悲しく陳腐でつまらない。

 だいたい、俺が着させられている日輪高の詰襟は……いや、この話はやめよう。



 つい先刻の喧騒が嘘のように閑散とした校庭を篝火が照らし、上空には2体の如鬼神が、討ち漏らした者の姿を求め炎の尾を引きながら飛び交っている。残るは朝礼台の指導役教員だけらしいが、直立したままで動じる気配がない。

 虚勢を張っているのだろうか。だとしてもここまでだ。尊姉様、不届きなるあやつの罪障を余さず滅尽しておやりくだされ。

 俺の頭の中に「承知」と伝えた嫋鬼が、朝礼台の上空へ移動した。火焔をたなびかせる虎は一つ大きく旋回してから、一直線に不届き者の頭上に落下した。

 火焔に包まれ、さすがに直立不動を維持できなくなった指揮者は烈しく身をよじり、両手で頭を抱えたまま闇の中へ滅尽してゆく。今や朝礼台は滅霊師が霊を釣るだけではなく、霊をとむらう「弔霊台ちょうれいだい」となった。炎の尾を引いて白虎が空高く跳躍するさまを見上げ、俺は勝利に酔った。

 嫋姉様が俺の正面に舞い降りた。俺にも拝顔を許されている白虎の御姿のまま、油断なく周囲を睥睨しつつ歩み寄って来られ、小動物なら一睨みで絶命するとも伝えられる眼光をこちらへお向けになった。

 ──これでしまいか?

 高揚感のただ中にあった俺は、嫋姉様の意を迎えようと要らざる追従を口にしてしまった。

 ──まことに見事なるお手並み。唐土に威名高き尊姉様の前には、あまたの暴霊も塵埃じんあいに等しき有り様にて……
 ──下手な世辞をいらうな。我は終いかと聞いておる。

 嫋姉様を包む火焔がぱっと勢いを増す。怒気を含んだお声に俺は狼狽し、しどろもどろになった。

 ──お、恐らくは、これにて、終いかと。
 ──恐らく? なんぢ、万端遺漏なき手筈を整えたにあらざるか!
 ──いえ! 準備に抜かりなど、あろうはずは。
 ──ふむ? それにしては随分とあっけないが。生霊549に死霊22。数ばかりは大仰ぢやが……。

 滅した霊の数は親父に報告しなければならない。いつもながら数字にお強い嫋姉様は俺から顔を逸らし、いぶかし気にあたりをうかがう。

 どこか遠くで雷が鳴っている。空気がひんやりとして、湿り気を帯びてきたように感じる。妙だ……。予報では雨の確率は10%だったはず。

 ──爾、気づかぬか。このあたりに漂う「氣」の強さを。
 ──「氣」……でございますか。

 我ながら愚かな物言いをと即座に悔やんだが、なぜか嫋姉様はお叱りにならない。不安の兆しが、かすかに腹の底から持ち上がってくるのを覚える。

 ──いかにも「氣」よ。これほどの念の強さは初めてぢや。法会とは申せ、何を措いても斯様かような場でせざるを得なんだのか。
 ──役儀にござりましたゆえ。
 ──役儀はよいが、この場について父者ててじゃは何ぞ申しておったか。
 ──父は……特に何も。
 ──ほう。父子そろって粗忽者よのう。……ん?

 嫋姉様の顔に緊張が走り、鼻先を空へ向ける。光明真言の梵字が消えて龍体に戻った婢鬼が、黒髪をなびかせつつ俺たちの方へ高度を下げてきた。

 ──若君様あれを!

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