上 下
3 / 74
序章 女王様の呼び出し

生徒会室①

しおりを挟む
 俺は生徒会室のドアを開けた。元は「来客用集会室」だったというその部屋は優に教室二つ分の広さがあり、中央に会議用テーブルが鎮座している。入口から向かって左側には小ステージが設けられ、壇上の右端に「生徒会旗」が立てられていた。生徒会長の水際佳恵はテーブル奥の椅子に座って俺を待ち構えていた。

「待っていたわよ座光寺君。無数の首輪を重ねてトライバルに首を長くしたくらいに待ちかねたわ」

 教室二つ分の広さだけに、生徒会長の声は無駄に劇的効果を伴って反響する。もちろん言っている意味は不明だ。

「何なのかよく分かりませんが、お疲れ様です」
「何をおっしゃるウサギさん。聞いてしまったからにはあなたも共犯者」
「共犯……って何のですか」
「とぼけるのが上手ね。意図せずしてマイノリティーへの偏見を共有してしまったという意味の共犯よ。『トライバル』という単語の用法に疑問を感じたら電光石火のタイミングで指摘しなくては駄目! ところで」

 水際さんはテーブルの下から右手を上げた。その手には文字盤付きのアナログ時計のようなものが握られている。

「これが何か分かる?」
「いいえ」
「湿度計。あなたを待つ間、スカートの内側の湿度を測っていたの。私のスカートの内側は、……外側よりも湿度が7度、高い」

 湿度計の目盛りを読んだ水際先輩が、何か言えと目で促してくる。要らぬことは口にしない方がいいと思って黙っていると、詰問が始まった。

「ひと口にスカートの内側といっても、測定部位によってまったく違う。一括りにはできない! あなたそう思っているわね」
「いいえ、全然」
「そうかしら? スカートの内側のどのあたりで測定したのか、多大な興味があるんじゃなくって?」
「だからありません」
「いいわ。無理に答えなくても」

 水際さんは湿度計をテーブルに置いて立ち上がった。テーブルを回って俺に歩み寄ってくる。

「私はこの聖往せいおう学園の生徒会長にして、見ての通り超絶的な美少女。成績は学年でトップ。言うなればJKの中のJK、『ザ・JK』なわけよ。間違えないで、『JFK』はアメリカ合衆国第35代大統領、私は『ザ・JK』。その『ザ・JK』がスカートの内側の湿度を測定したデータを、あなたに提供しているのよ? そう、CIAもMI6もモサドもつかんでいない情報を! これどういうことか分かる?」

 真正面に来た生徒会長様に、俺はネクタイをねじり上げられた。水際様は身長171センチの俺とほぼ同じぐらいの上背があるのだ。

「さ、あ、どういうことなん、でしょうか?」
「とぼけているのね。それともあなた、私のスカートの内側の極秘事項ばかりか、身の程知らずにも貞操まで要求しようというの?」
「ぜんっぜん、そんな気はありません!」
「ひどい!」

 生徒会長はネクタイを離し、オーバーアクションで横を向いた。
しおりを挟む

処理中です...