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序章 女王様の呼び出し

放課後①

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「なあ」

 俺の横に座る財部たからべ豪介ごうすけが、空を見上げながら言う。

「お前考えたことない?」
「何を」
「女がさ、下の毛をどうやって手入れしてるかとか」

 空には千切れ雲が足早に流れている。それを財部は眩しげに目で追っている。まさに「春」というにふさわしい、うららかな日差しと眠気を催しそうな空気に、俺たちは取り巻かれている。

「普通に剃刀とか使うんだろ」
「それって不便だと思わねえ? どうやって剃るんだよ」
「男も剃らねえか?」
「お前剃るのかよ?」
「いや、剃らねえな。でも男で剃る奴もいるかもしれねえ」

 財部はあきれたように俺の顔を見て下を向き、「普通剃らねえよ」と言って、200ミリリットル入り紙パックの野菜ジュースをストローで吸う。

 この財部豪介は俺の幼馴染で、今もクラスは違えど同じ高校に通っている。腐れ縁は認めざるを得ないが、一部のマニアックな人々の間で通用する「お腐れな」縁はない……つもりだ。ただ今日のように何となく学校帰りに一緒になれば、俺はヨーグルトドリンク、こいつは野菜ジュースを買い、こうして河川敷の芝生に腰を下ろして川面の水鳥や空を眺めて時間を潰したりする。

 すぐ近くには、空を見上げるのに具合がよさそうなベンチがある。なのに俺たちはなぜかそのベンチを避け、地面に胡坐あぐらをかいているのだった。

「まあとにかく女はさ、下の毛を全部剃るか、パンツからはみ出ないように形を整えたりするわけよ」
「よく知ってんなお前」
「いや、知らねえけどそういうもんだろ? でさ、ケツの穴の回りまで生えた毛を剃るのって大変じゃね?」
「……確かにな」
「鏡見ながら剃るにしても、手元が狂うと傷だらけだし。それに」

 「それに」で言葉を切った財部が、意味ありげに俺の顔を覗き込む。目がギラギラしてて気持ち悪い。

「どういう体勢でやってると思う? 俺は……」
「やめろ」
「どうした」
「お前の世界に引きずり込まれたくない」
「そうか。まぁ俺は、女がベッドの上ででんぐり返って、ケツの穴の先に立てた手鏡を見ながらこうやってカミソリ動かしてる図しか想像できないわけよ」

 財部は右腕を斜め下に伸ばし、手先をひねってカミソリを使う仕草をする。
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