泣く男

いち こ

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初めての仕事①

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         四      

俊が《やすらぎ斎場》に十七時三十分ちょうどに着くと、すでに春香がエントランスの近くで待っていた。
やすらぎ斎場には、『斎木(さいき)裕仁(ひろひと)葬儀会場』と看板が出ている。北海道は雪の降る関係からか、花輪は通夜会場の中に置かれる事が一般的である。

エントランスに入ると、通夜会場の中にずらりと並んだ花輪が見えた。二人で花輪を見る。
「『北海道教育委員会』『北海道校長会』とあるわ。『札幌北高PTA一同』ともある。教育関係機関からのお供え
が多いわ。教育関係者の人ね。昔、教師をやっていた人かしら」

「そうだなあ。花輪の多さと、会場の大きさから見て、教育者なら納得いくね」
 二人が囁いていると、多くの弔問客が詰めかけてきた。最近は家族葬が増えているが、そこは、家族葬の斎場ではなかった。
 
大広間を覗くと、椅子がざっと三百脚は入っている。多くの弔問客を受け入れる場合、この斎場を使うことが考えられた。

「斎木さんって、知っているか? 俺は知らないぞ。大丈夫か? 本当に」
 俊の質問に春香は俊の顔を睨んでくる。春香も緊張をしているのだろう。真剣な面持ちである。

 春香も一か八かの賭けに出ていた。失敗すると、博士号はおろか、助手の職も得られない。
「行くわよ。必ず成功させるわ。負けないわ」
 
看板を前に、ますます真剣な顔になり、俊に香典袋を渡してきた。
「香典袋? どうする? まったく知らない赤の他人に香典を渡すのか?」
「三千円だけ入れるのよ。五千円は高いわ」
 
春香は小声で語る。
「金を包むの? 三千円だって、赤の他人に香典を渡すのは、変だよ」 

「良いから、言われた通りにして。説明をしている時間はないわ」
「何か、とても悪い詐欺行為をしているような気持ちになるなあ」
 
春香がニヤリとする。また、魔女の笑いだ。
斎場の中に入ると、弔問客でごった返していた。受付で、言われたとおりに香典を渡すと、受付の人がすぐに香典返しを渡してきた。

「このたびは、大変、ご愁傷様でございます」
 挨拶をすると、受付の若い女性二人が丁寧にお辞儀をする。香典返しを見ると、亡くなった斉木(さいき)裕仁(ひろひと)の年齢は八十歳とあった。喪主は、ご子息の斉木陽太(ようた)とある。
 
通夜の会場に入り、会場の前から二十列目で左端の席に並んで座った。俊が左側、春香が横の右側である。
前を見ると、髭を生やして、細面で微笑んでいる白髪頭の斉木裕仁の遺影が見える。良い齢を重ねたように見えた。
 
前の席に六十歳くらいの婦人が二名、座った。
耳を澄ました。白髪頭で薄化粧をしている、向かって右側の婦人が、左隣に話をする。
「斉木校長は最後は肺癌で、勤医協のホスピスでお亡くなりになったそうよ」
 
左側の婦人が、小さめの声を発しながら、顔を顰(しか)めた。
「札幌北高校の大校長もね、最後は死ぬね。人生は儚(はかな)いわね」
どうやら斉木裕仁は、札幌を代表する札幌北高校の校長だった人らしい。参列者が多い理由は、教え子と、人脈の

多さと予想ができた。
「校長ね。教育者だわ。好都合だわ」
 春香は呟くように語って、俊の膝の上にポシェットをぽんと投げてよこした。
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