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四つ目の日記

その成長はどうなんですか?

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★前回の後ろの方のあらすじ。
 ディザリアさんを加えた僕達は、フェイさんの住処を探っている。
 しかし中々厄介な人のようで、魔物が出て来たら大規模魔法を確実に撃ち込むのである。
 直ぐに魔力が無くなってお荷物と化すディザリアさん連れて、町の周りを探し続けて行く。
 僕達が町の南方向へ進むと、大きな看板を発見した。
 そこにはフェイさんの住処の場所が書かれている。
 その場所に向かったのだが、魔力が溜まってしまったディザリアさんにいきなり殲滅されてしまった。
 しかし運良く助かっていたフェイさんは、その光景を見て荷物を落とした。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 ランズ・ライズ・ライト (父)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
 ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)


「で、お父さん、言い訳があるのなら聞いてあげても良いわよ」

 ファラさん片腕でディザリアさんを無力化して、片腕で剣を向けながらしゃべっている。
 とうぜん相手は、自分のお父さんであるフェイさんだ。

「……ふう、そんなの決まってるじゃないか! お父さんファラちゃんにずっと会いたかったんだよ! 来てくれるって言ったのに、結局一回も来てくれないし。寂しかったんだあああああ!」

 そう言って手を広げたフェイさんは、ファラさんに向かって抱き付こうとしていた。
 あわよくばキスでもしようと、その口をタコのように突き出している。

「馬鹿なことして、お仕置きよ!」

「ぐああああああああ!」

 ファラさんにカウンター気味で殴られたフェイさんは、足を上にして地面を滑って行く。
 しかし前衛職としてレベルを上げているファラさんの一撃にも、フェイさんは耐えてしまった。
 普通に立ち上がってコキコキと首を鳴らしている。

「ふむ、愛のある一撃だ。ステキだよファラ。……そして貴様だ。貴様だあああああ、クー・ライズ・ライトオオオオオ! 私とファラちゃんとの時間を奪った罪は重いぞおおおおおおおおお!」

 フェイさんからは物凄い殺気が放たれている。
 娘を奪われた親の殺気というのだろうか?
 余りの強烈さに体がビクッと反応した。

「落ち着いてくださいフェイさん。ファラさんとの時間なら今からでも作れば良いじゃないですか。もう魔王の手下なんてやめて楽隠居でもしたらいいんじゃないでしょうか?」

 僕はとりあえず説得をこころみた。

「なめるなああああああああ!」

 僕は優しく言ったつもりなんだけど、何故かフェイさんは更に怒ってしまった。
 怒りと共に、鎧からバチバチと雷光を放っている。
 説得は不可能かもしれない。

「クーをやらせる訳がないでしょ!」

 自分の父親を止めようとファラさんが動くのだけど、あんなよく分からない電撃の鎧に触っても平気なのかと疑問がわく。
 僕はファラさんの腕を掴み動きを止めた。

「たあああああああ!」

「ほわあああああ!?」

 はずだったのだけど、腕にしがみ付いた僕ごと引きづられてしまった。
 ファラさん、力やばい。
 しかし突撃したことで、敵よりも厄介なのをフリーにさせてしまったのだ

「アーッハッハッハ! やっと自由になったわ。こうなればもう全滅よ。全員覚悟しなさああああい!」

 ディザリアさんの口から不穏な言葉が漏れ出ている。

「全滅って何いいいいい!?」

 僕は今、何をするべきか脳裏で悩んでいる。
 手を放して止めに行って間に合うのか。
 それとも何か別のことがやれるのではないのかと。

 結界の構築は正面だけならできなくはない。
 例えどれほどの規模だとしても、結界内にさえ入ってしまえば無力化できる。
 まあたぶんギリギリ死なないぐらいの攻撃が来ると予測はできる。
 しかし、この人が何を使うのか分からないのが問題だろう。

「ディザリアさん、出来れば電撃系のものでお願いします!」

 僕は一部の望みをかけてディザリアさんへお願いすると。

「アーッハッハッハ! いいわその願い聞き届けましょう!」

 嬉しいことに、僕の言葉を聞いてくれる知能は残っていてくれたらしい。
 僕はディザリアさんの呪文が始まる前に、背中から鉄棒を四本取り出した。
 味方の魔法に使うなんて初めてだけど、たぶん大丈夫なはずだ。
 大丈夫であってほしい。

「結界の内なる電力よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」

 どんな魔法か分からないから、僕は上方に鉄棒を向けた。

「ペンタゴン・アルファ・ライトニング!」

 僕とディザリアさんの魔法が、ほぼ同時に発動する。
 これで間に合ったと喜ぶ僕だが、上から来ると思っていた攻撃は、じつは掌から前方に飛ばされたのだ。
 辺り一面に踊り狂うような白色の電撃が伸びて行く。
 それに対処するように僕は鉄棒を移動させようとするのだけど。

「やっぱり間に合わないよねええええええええ!?」

 その速度たいるや、あッと言うことすらできない。

「しびいいいいいいい……」

 僕とファラさんの体には、死なないまでも痛みと痺れで動けないぐらいのダメージが残った。

「ハッハッハ、雷の攻撃が私に通じると思っている愚かさよ!」

 でも雷を操るフェイさんには、全くなにも効果がないようだ。
 一応普通の人間だと思うのだけど、魔王に改造でもされたのだろうか?
 それとも着ているあの鎧が雷の攻撃を防いだとか?

「アーッハッハッハ! 私が雷の攻撃しか出来ないと思ったら大間違いよ! 食らいなさい、オクタゴン・オメガ・ダークネス!」

 ディザリアさんは、名前からして凶悪そうな魔法を使おうとしたのだけど。

「……あ、ちょっと魔力が足りないわ。だったら違う魔法を使えばいいだけのことよ! ペンタゴン――」

 ディザリアさんはまた魔法を使おうとしている。

「させると思うのかああああ! サンダアアアア!」

 ディザリアさんより先に、フェイさんの魔法の方が早く完成してしまう。
 僕でも知っている初級の魔法だけど、それゆえにとても早く発射したのだ。
 紫色の稲妻が、能力的に一般人のディザリアさんにぶつかった。

「ああん、痛いわ……」

 例え初級魔法でも、ディザリアさんは大ダメージを受けて体を地面に倒れててしまう。
 衣服を崩す姿は色っぽいのだけど、今はそんな場合ではない。
 僕達はこの痺れが収まるまで行動ができないのだ。

「ふむ、これは私にとってチャンスなのかな? ではファラちゃんを持ち帰ると……いやその前に、邪魔な男を抹殺してから……いやでも万が一にもファラちゃんが治ってしまうと厄介だ。まずは愛の抱擁とキスをしてからにしよう」

 フェイさんこの機会にと、ファラさんに両手を広げて向かって行く。
 口をタコのようにする光景はどこかで見たことがあるのだけど、今のファラさんでは抵抗できない。

「……ぅぁぁぁぁぁぁ!」

 フェイさんはファラさんをガッツリと抱きしめ、頬ずりを堪能したあげくに、頬にキスをしまくっている。
 とうぜん凄く嫌そうにしているファラさんだけど、まあ久しぶりの親子の再開なのだし、このぐらいは我慢してほしい。
 そう、僕の命の為に。

 まあファラさんも、やられているばかりではない。
 痺れながらも少しずつ拳を握りしめている。
 そして。

「グゥゥゥゥゥ……ひっつくなああああ!」

 その力が解放されたのは、十数秒経った後だった。

「ぬおおお!?」

 フェイさんも少しで我慢しとけばよかったのに、娘との時間が愛おしくて出来なかったのだろう。
 またも足をおっぴろげて飛んで行く。

「あっ、治ったわ」

 ファラさんはちゃんと動けるかを確認し、フェイさんに突撃していった。
 僕の方も随分マシになり、動けるようになっている。
 フェイさんが起きる前に、まずは陣地作りから始めなければ。

「ちょ、ファラちゃんやめて。お父さん痛いんだけど。もうちょっと優しくしてくれると嬉しいな」

「煩いわね!」

 ファラさんがフェイさんをボコっている間に。
 そう思った僕は、手早く十メートル四方の結界を完成させた。
 どうぜあのぐらいじゃ倒せないだろうし。

「くぅうう、ファラちゃんに殴られるのも中々の喜びだが。……だっしゅつ!」

 フェイさんは空を浮遊して逃げている。
 殴られたところをウットリとして撫でている姿は、まるで変態のようである。
 村に居た時にはもう少し真面だった……いや、そうでもないだろうか?

「お父さん、本当にやめてくれないと本気でぶっ殺すわよ!」

 ファラさんのイライラ度も溜って来ているようだ。

「ファラ、恥ずかしがらなくてもいいのだよ。さあお父さんの胸に飛び込んでおいで」

 フェイさんは空の上で両腕を広げている。

「誰が恥ずかしがっているのよ!」

 とうぜんファラさんは飛べないので、行くことが出来ない。
 行けたとしても行かないだろうけど。

「さてと、ファラとの甘いひと時は一度中断しなければならない。それもこれもが、クー・ライズ・ライトオオオ、貴様のせいだああああああ!」

 フェイさんは僕を見て怒っているが、僕の方にも言いたいことはある。

「フェイさん、僕別にファラさんと付き合ってるわけでもないんですよ? 冒険者になったのも家を出たのも僕がたきつけた分けでも無いですし、別に僕関係ないですよね?」

 と言ってみたが、別にあおってるわけじゃない。
 それでもフェイさんの表情にはビキビキと青筋が立つ。

「ここまで来て罪を認めないとは、もはや万死に値する! この私が引導を渡してやろう! ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」

 そのフェイさんの怒りに呼応するように、鎧から発する紫電が天に昇っている。
 その紫の電流は、空に大きな黒雲を造り出した。
 町を覆い尽くす黒雲からは、なにもしなくても雷光がいなないている。

「くおおおおおお、全世界の妬みの力よ! 嫉妬の力よ! この私に力をおおおおおおお! このゴミクズに捌きをおおおおおおお!」

 ファラさんは全能力を使って僕を攻撃するつもりなのだろう。
 しかし、もう勝ちは確定しているのだ。

「結界の内なる電力よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」

 僕は結界を発動させた。
 ちなみにファラさんとディザリアさんは、この結界内からは退避している。
 それも僕一人を狙わせる為だ。

「しぬええええええええ、パンデモニウム・メテオ・ライトニングウウウウウウウウウ!」

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオという音。
 それに続き現れたのは、結界を越える規模の落雷の一撃。
 その速さたるや、人であれなんであれ、生物が避けられるものではない。
 だから、結界に届いたのも一瞬である。

「なにいいいいい!?」

 自身最高の魔法を消されて驚いているフェイさん。
 この結界内に落ちたのは、一の数字と続く八つの零。
 一億という数字である。
 こんな数値は雷でしかあり得なかっただろう。

「やり過ぎてもなんだし、全部二百を増やしてあとは秒数に回します! じゃあフェイさん、覚悟してください!」

「うおおおおおおお、ぐはああぁぁぁぁぁ……」

 地面を踏み抜いた僕は、空に居るフェイさんに雷光のようにぶつかった。
 着ていた鎧はバラバラに砕け散り、意識を失ったフェイさんが落下して行く。

「おっと」

 最後は娘のファラさんに受け止められ、無事に地面に叩き落とされた。


 無事にフェイさんを倒した僕は、一応その能力値を資料に書き込んでいる。
 鎧がなくなってもう能力は使えないかも知れないが、この数値は魔王の力を推し量るものだ。
 充分に有用な物になるだろう。

 名前 :フェイ・ステラ・ラビス
 レベル:42
 HP :440
 MP :500
 力  :65
 速  :85
 大  :172
 危険度:2 ただし、ファラさんに関することになると危険度10
 技  :雷の魔法だけを使う。
     確認されている魔法一覧。
     サンダー。クラウド・ザ・ストライク。デビルズ・ライトニング。
     パンデモニウム・メテオ・ライトニング。

 考察 :魔王に力を与えられた人間。
     胸の鎧に力が与えられている可能性が高い。
     空中浮遊する為に、接近戦はかなり大変。
     案外頑丈だから結構しぶとい。
     雷の魔法を防いでしまえばほとんど無力化できる。
     自身が使うからか、雷の魔法に効果はない。
 (注意)パンデモニウム・メテオ・ライトニングは、速さや威力、規模までも凶悪なので、発動してしまえば全滅必死。
     防ぐことが出来ないのなら、発動前に止めるしか手はない。


「これでいいかな?」

 僕はできる限りの資料を書き終えた。
 その作業をしている間にも、ファラさんはフェイさんを縛り上げていた。
 あとはギルドに運んでしまうだけだろう。

「クー、その資料を貸しなさい。私は先にギルドに報告しに行くわ」

 僕の書いた資料をパシッと奪い、ファラさんは町に戻って行った。
 とんでもなく雑な扱いをしていても、この人はファラさんのお父さんである。
 ちゃんと無力化できたからと報告しにいくのだろう。
 ……ん?

「あれちょっと、この二人を僕が運ぶんですか!?」

 今ここに倒れているのは、フェイさんとディザリアさんなのだ。
 ファラさんが居なくなっては、どうあっても僕が運ばなければならない。
 いや、ディザリアさんを起こしてしまえば、一人だけで済むかもしれない。

「起きてくださいディザリアさん。二人を運ぶのは大変なんです。自分の足で歩いてください」

 僕は気付けにと、ディザリアさんの頬を引っぱたいた。

「ふぐぅ……」

 よく分からない声をあげて、何の反応もみせてはいない。
 威力が弱かったのかと思った僕は、もう少し強めにパシッと叩いたが。

「…………」

 息はしているようだけど、全く反応がなくなってしまった。
 一体なぜ……?

「……あっ、効果時間がまだ切れてないや」

 どうやら一般人のディザリアさんに対してやり過ぎてしまったらしい。
 一億となると、何分……いや何時間……じゃない何日か?
 普通に計算したら何週間となってしまうけど、強化時間も無限に続く訳ではない。
 気を失ったり眠ったりした時点で効果は消失するのだ。

 まあ強化されている今の僕なら、二人ぐらい楽に運べるだろう。
 そう思って持ち上げてみるものの、自分より体積があるものを持つにはコツがいるらしい。
 変に運んだら怪我をさせてしまいそうだ。
 流石に女性を引きづるのは駄目だろう。

「……よし、フェイさんを引きずって行こう」

 この人頑丈だし、多少の怪我なら平気だろう。
 僕はディザリアさんを背に担ぎ、フェイさんの足を引きずりながら町まで帰って行く。
 途中でロープが切れそうになって若干慌ててしまったけど、無事にギルドまで到着した。

「強化されてるとはいえ、やっぱり疲れるなぁ」

 今日はそこそこ騒がしかったというのに、ギルド内部は何時も通りである。
 まあ町へのダメージなんて知れたものだったし、騒ぐまでもないのだろう。
 ファラさんは……と見回すと、今はスラーさんと話しているらしい。
 僕も行ってみるとしよう

「ただいま帰りました。あ、スラーさん、これお土産です」

 僕は背負っていたディザリアさんと、引きずっていたフェイさんをスラーさんに渡したかったのだけど。

「ディザリアさんは要りませんよ。邪魔ならその辺にでも寝かせといたらどうですか? まあ、そちらの人には色々聞きたいことがありますけどね」

 スラーさんは、ディザリアさんを受け取ってはくれない。

「スラーさん、この人助けたことにして口説いてみてはどうですか? 結構いい体していますし」

 養女も居るスラーさんだけど、じつは独り身である。
 だからもう少し勧めてみた。
 だが決していい想いをさせて、借金を待ってもらおうなんての考えではない。

「ああ、私、スラーとなら結ばれても……」

 と、背後からはまんざらでもない声が聞こえてきている。
 ディザリアさん、本当は起きているんでは?
 だったら早くおりてほしい。
 で、返事は……。

「すみませんが、ギルド内で女性との関係は望みませんので、丁重にお断りします」

 スラーさんからは断られてしまったらしい。
 後ろの人は無言だが、腕にはなんか力が入っている気がする。
 首が締まるからやめてほしい。

「クー、スラーさんは紳士なのよ、あんたも見習いなさい」

 ファラさんからも怒られてしまった。

「あー、はい」

 僕は適当に返事をして、背の荷物を先に降ろすことにした。
 近くにあった長椅子に寝かせようとするのだけど。

「勝手に振られてもらったら困るんですけどねええ!」

「ぐああ苦しい……本当に苦しいからやめてくださいディザリアさん!」

 首元を締め上げ僕の意識を奪おうとして来る。

「ぬあああ!」

 しかしまだ強化状態が続く僕は、なんとかパシっと振り払う。
 後ろを見ると、ディザリアさんは絶対起きているはずなのに、寝たふりを続けているようだ。
 僕はかまわずスラーさんとファラさんの下へ戻って行った。

「それでは彼の処遇を話しましょうか」

 スラーさんがフェイさんの話を始めた。

「あの、スラーさん、お父さんのことは私からも謝ります。ですから、死なない限りは何をしてもいいので許してあげてください」

 意外とひどいことを言ってるけど、まあファラさんも心配しているのだろう。

「ラビス君、この人は魔王の手下と名乗ってしまいました。国としても許すわけにはいかないでしょう」

 スラーさんが言うことは当然のことだ。
 どんな理由があっても、人を襲う側についてしまっては許されないだろう。

「そうですか……」

 その答えに、娘であるファラさんは少しだけ悲しんでいるように見えた。
 しかし、その足はフェイさんを足蹴にして踏みつけている。

「しかし、私としても部下を悲しませるのは本意ではありません。こちらとしてもギリギリまでは上と掛け合ってみましょう。まあ安心してください。やったことが石畳を焦がした程度ですから、魔王側の情報と引き換えなら充分に釣り合うでしょう。とうぜん、この人が話してくれないというのなら無理な話ではありますが」

 やはり僕の尊敬するスラーさんは違う。
 部下を気遣う心遣いまで持っている。
 出来れば借金もまってください。

「それは大丈夫です。お父さんにはは知らないことまで喋らせてあげますから!」

 ファラさんは決意したように頷いている。
 フェイさんに拷問でもするのかもしれない。

「……いえ、嘘をつかれるとあとあと混乱してしまいますから、取り調べは王都でやることになるでしょう。あとのことは私に任せて、本来の仕事に戻ってください」

 やはり王都に護送されるらしい。
 あとは国の判断を待つしかないだろう。
 でも、ファラさんは諦めてはいないようだ。

「あの、待ってください。私も王都に同行してはいけませんか?」

 ファラさんは、スラーさんに同行を申し出る。

「まあ、気持ちは分からないでもないです。ではラビス君一人の同行は許可しましょう。ですが、ライズ・ライト君の同行は認めません。いいですね?」

「はい、大丈夫です」

 ファラさんは納得しているようだけど。

「えつ、何でですか?」

 僕はスラーさんい聞き返した。

「君は私に借金を返さなければならないでしょう。無駄に休んでまた借金を作るようなことはさせたくありません。もし支払いが滞るようなことがあれば……」

 スラーさんの眼光が鋭くなっている。
 やはり待ってはくれないようだ。

「喜んで残らせてもらいます!」

 そしてフェイさんは西の王都へ護送されることとなり、ファラさんも同行することになった。
 相棒の僕はこの町に残されてしまったらしい。
 まあついて行けなかった一番の原因は、お金の問題なんだけど。

 となかくこれでフェイさん襲撃事件は終わった。
 これからは平和な時間が訪れるだろう。
 たぶん?


 ファラさんと一度チームを解消してしまった僕は、ミアさんと一緒に別のチームと合流している。
 ちなみに僕達が入ったチームは、何故か勝手にクジ引きで決められていた。

「クーちゃん待っていたわ、お姉さんのチームへようこそ」

 まあ知り合いであるアーリアさんの所だったので多少は気楽だけど、もう一人は喋ったことがない人だ。

「よろしくな!」

 爽やかに返事をしたのは、グリア・ノート・クリステルという女の人だ。
 かなり背が高い人で、茶髪で片目を隠している。
 怪我をしている様には見えないから、そういう髪型なのだろう。
 僕から見ても随分と凛々しく見える人だ。

 ギルドに居る人なので、僕としても多少の情報は知っていた。
 アーリアさんが防御担当だとすると、グリアさんは攻撃を担当している。
 前衛のグレートソードという職業に就いている。

 名前にソードとあるが、別に剣だけを使う訳ではない。
 武器種問わず、人が持てる限界ギリギリの超重量武器を扱うのを得意とする。
 今グリアさんが持っているのは、人の大きさぐらいあるぶっとい剣だけど。

 他の職業よりも圧倒的に力持ちで攻撃特化だ。
 ただし、両手武器を使うから隙も大きい。
 逆に言えば、防御の手段があれば力強い攻撃を発揮し続けるので、アーリアさんとの相性はいいだろう。

「ワタシはミアだ! ヨロ!」

 そして、こちらのチームのミアさんも、ピョンとジャンプして手を挙げた。
 ファラさんから勉強を強要されていたから、多少言葉を喋れる様になっている。
 四人となった僕達は、町の周りを回ってチームワークを上げようとしていた。

「ミアさん、ローゼリアリザードが来ましたよ。もう調査済みなので倒しちゃってください!」

「ウン、ワカッタぞヨメ!」

 僕の指示でローゼリアリザードに突っ込んで行くミアさん。
 その近くに、更に敵を見つける僕。

「ハッ?! 彼方からはオークファイターが三体向かって来ています! お姉さん、グリアさん、お願いします!」

「了解よクーちゃん!」

「ああ、私達に任せろ!」

 という感じで、アーリアさんとグリアさんは指示に従っている。
 別に僕はサボっているわけではない。
 直ぐ戦闘が終わってしまうから出番がないだけだ。

「ミアさん、あっちからもオークファイターが来ています。今日は大量ですね!」

「マカセろ!」

 今日はチーム感覚を養うために、四人で町の外を回っているだけだ。
 まだ慣れないミアさんにとっても、この慣らしは必要ものである。
 そんな日が三日続き、随分と連携が取れて来た頃。

「地下通路の調査ですか? 下水ですよね?」

 僕はスラーさんから、少し難易度の高い仕事を受けていた。

「いえ、違います。ギルドの地下にある非常用の通路の方ですよ。あそこも随分放置していますからね。これもいい機会ってことでお願いします」

 ギルドにある地下通路とは、万が一町が襲われて結界が壊れた時の為の脱出通路のことだ。
 秘密裏に管理されているので、存在を知っているのはギルドの人間だけだろう。
 しかしそれ故に冒険者の出入りもなく、僕も入ったことはない。

「じゃあ通路に入り込んだ魔物の退治ですかね?」

「そうですね。それと並行して地下通路の調査もお願いします。変な魔物が穴を繋げている可能性もありますから」

「はい分かりました。じゃあ皆さん大丈夫ですよね?」

 僕は一緒に行く三人に意思を確認した。

「ヨメ、ワタシはイイぞ!」

 ミアさんはピョンピョン跳んで返事をしている。

「大丈夫よクーちゃん。お姉さんに任せなさい」

 アーリアさんは僕にくっ付いて来た。

「私に問題はないよ。アーリアが行くのなら私も行くさ」

 グリアさんも大丈夫だということで、僕達はスラーさんに地下通路への道を案内された。

「さあここです」

 スラーさんが案内してくれたのは、僕達が入れないかなり奥の部屋のようだ。
 進んで行くと、スラーさんは鍵のかけられた頑丈な扉の前に足を止めた。
 ここが地下への道らしい。

「ではお願いします。皆さんが入られたらこの扉は再び封印されますから、出口から脱出してくださいね。ではこれが出口の鍵です。無くしてしまえば二度と出れませんから気を付けてくださいね」

 僕はスラーさんから、地下通路の地図と、出口の鍵を受け取る。

「あ、はい」

 そして扉には鍵が掛けられ、出ることができなくなった。
 一応確認の為にノブを回して見るが、ちゃんと鍵がかかっているようだ。

「クーちゃん、お姉さんが先に行くわね」

「敵は私が倒すから、安心していいよ」

 アーリアさんとグリアさんの二人も、相当に自信がありそうだ。

「はい、お願いしますねお二人共」

 僕はそう返事をして、地下への階段を進んで行く。
 アーリアさんが先頭に立ち、グリアさん、ミアさん、最後尾には僕が護っている。
 しかし、先頭を進む二人が、いきなり引き返して来た。

「いやああああああああ!」

「ちょ、まっ、きゃああああああああああ!」

 先頭のアーリアさんとグリアさんの可愛らしい悲鳴が聞こえ、勢いよく僕の横を通り抜けて行く。

「出して出して出して出して!」

「開けて開けて開けて開けて開けて!」

 二人はもう閉められたてしまった扉を叩き、スラーさんを呼んでいる。
 でも向うからの反応は無く、たぶんスラーさんは部署に帰ってしまったのかもしれない。

 でもアーリアさんが逃げるなんて、どんな魔物が?
 ゴクリと喉を鳴らし前を確認するも、何もない。
 ……いや、何か小さな物体が無数に動いている。

「こ、これは……黒鉄虫ですか?」

 カサカサと動いている黒鉄虫は、一匹や二匹ではない。
 僕の足元を抜ける数は百匹を優に超えている。
 ちなみに黒鉄虫とは、台所とか色々なところでみかけるアレである。
 嫌いな人にとっては相当キツイ光景だろう。
 もしかしてこの扉に鍵がかけられているのって、黒鉄虫が逃げ出さない為だったり?

「ゴチソウだ。ワタシくう!」

 ミアさんは一匹を手に掴み、ごちそうを見つけたように、キラキラした表情で口に運ぼうとしている。
 別に害がないならいいのだけど、後ろに居る二人に引かれると困る。
 これは止めた方がいいだろう。

「駄目ですよ絶対。こんなもの食べたらお腹壊しますからね」

 僕はミアさんの肩に手を置き、食べるのを引き止めた。

「エー、オイシイぞ」

 じつはもう食べたことがあるのだろうけど、その辺はツッコまない方が幸せだろう。

「お姉さんアレだけは駄目なの! 開けて、開けて、開けて、開けて、開けて!」

「やだ、帰る。お家に帰る! 私を帰してええええ!」

 アーリアさんとグリアさんは、扉を叩いて泣きわめいている。
 あれだけ自身がありそうだったのに、三秒で戦力外となってしまった。
 しかし何時までもここに居ても、スラーさんは戻って来ないだろう。
 この部屋自体かなり奥にあるし、そもそも人が来ない場所なのだ。

「あのお姉さん、ここで待っていても帰れませんから、もう先に進みましょうよ。ここから出ないと黒鉄虫は居なくなりませんよ」

「やだやだやだやだやだやだやだやだ!」

 僕はアーリアさんに声をかけたのだけど、しゃがみこんで首を振って否定された。

「あの、グリアさん、話しを……」

「きゃああああああ、いやああああああ、だめえええええええ!」

 グリアさんにも声をかけたのだけど、しゃがみ込んで両手で耳を塞いでいる。
 これでは話を聞いてくれないだろう。
 僕は泣いている二人を慰めながら、三十分ほど説得し続けた。


★あとがき、という名の何か。
 ミアさんの言葉で、カタカナ文字の中に平仮名が混じってるのは仕様です。
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