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四つ目の日記

それ色々不味いんじゃないですか?

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★前回の尻部分あらすじ。
 魔物を退治し、父さんを探しに行った僕達。
 移動しながらファラさんと話し、父さんの居る場所を発見した。
 もう縛りあげられたフェイさん。
 これは都合がいいと、ファラさんは自身の夢の為に父親を切り捨てた。
 そして今現在、僕達はチームを組んでいる。
 扉の前で食料をこんがんする僕に、牛肉のステーキを投げてくれた。
 やはりファラさんは優しいという結論に達し、決着がついた。
 まだまだ貧乏暮らしが続く中、とある日の朝ファラさんの父親であるフェイさんが現れた。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 ランズ・ライズ・ライト (父)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)


「あれ……お父さん?」

 出社時間なので丁度よく来たファラさんは、フェイさんの姿を見て驚いている。
 何方かというと、会いたくないという表情だろうか。

「ファラアアアアアアアア、会いたかったよファラアアアア! お父さんどれだけ心配したことか! さあ家に帰ろう。お父さん近くに家を建てたんだ」

 フェイさんはファラさんに抱き付こうとしているが、思いっきり嫌がられてヒョイっと避けられている。

「嫌よ! 私は冒険者として一人前になったんだから、お父さんも一人で頑張って!」

 ファラさんが嫌がるのも無理はない。
 それはもはや溺愛できあいというより、ストーカーちっくにまで至っているからだろう。
 しかし、このギルドの中で暴れられるのは大変困ると、スラーさんは頭を抱えていた。

「え~っと、ファラさんのお父さんですよね。出来ればそういう話は外でしてほしのですが……ラビス君も今日は休みでいいので、きちんと話し合って明日また来てください」

 スラーさんは二人を止めようとしているのだが。

「スラーさん、心配してくれなくても大丈夫です! 私は帰りませんから!」

「まさか、まさかあの男の子供をおろさなかったのか?! 奴がお前を変えてしまったのか?! グゥゥ、許さんぞ、クー・ライズ・ライトオオオオオ!」

 二人共あんまり聞いてくれないようだ。
 しかも何故かフェイさんは僕まで睨んでいる。
 子供が居るという嘘をまだ信じているようだ。

「いやそうじゃなくてですね……あ~、ライズ・ライト君、相棒として止めてあげてください」

 困ったスラーさんは、僕に頼み込んで来ていた。

「親子の問題に僕が口を出す話じゃないと思いますけど?」

 僕はそれっぽく断るのだけど。

「ギルドの運営が出来ないので、是非お願いします」

「ああ、そうですね」

 二人の追いかけっこで、ギルド内部は相当ぐちゃぐちゃにされていた。
 僕は結局受け入れるしかなかったらしい。
 二人を落ち着かせる為には?
 とりあえず、子供がいない事でも伝えてみようかな。

「落ち着いてくださいフェイさん、僕とファラさんに子供がいるなんて嘘ですからね。この人冒険者になりたくて嘘ついてただけですよ」

「なにいいいい、だったら孫は居ないのか?! 貴様、ことごとく私の楽しみを奪いやがってえええええええええ!」

 フェイさんは狂気の表情で僕に襲い掛かって来た。

「私から敵視を奪うなんてやるわねクー」

「ちょっと、言ってないで助けてくださいよ! 僕は別に悪くないでしょう!」

 ファラさんが休憩し、代わりに僕が逃げ始める。
 しかし、ここで逃げてもギルドの被害が増すばかりだ。
 僕はギルドの出口を目指して走って行った。
 その途中。

「ヨメ、ワタシ、キタ!」

 ミアさんが出社して来た。

「おはようございますミアさん! ちょっと急ぐのでファラさんに事情を聞いてください!」

 僕はミアさんの横をすり抜けるように通り抜け、出口の前にやって来た。

「貴様ああああ、ファラだけでなく、その子にまで手を出したのかあああああああ?!」

 その他愛無いやり取りに、フェイさんは更に怒りをにじませている。

「出してませんって!」

 僕は否定して直ぐにギルドの出口を開けるのだけど。

「ウプ……」

 僕の頭はアーリアさんの胸に埋もれた。

「あらクーちゃん、お姉さんと付き合う気になったのかしら。だったら今日はお休みにしてお部屋にでも行きましょうか?」

 アーリアさんは気楽にそんなことを言ってきた。

「……そうか、貴様は女の敵であるのだな。ファラの為、世界の女性の為に、死にさらせえええええええええ!」

 その言葉に、フェイさんの怒りは最高値にまで達してしまったようだ。
 その鎧からは紫電がほとばしり、自身の力を見せつけている。
 やはり冒険者にでもなったのだろう。
 ってそんなことを考えてる場合ではない。

「お姉さんごめんなさい、今は先を急ぎますんでえええええええ!」

 僕は攻撃が来る前に、アーリアさんの脇を通り抜け町の外へと走り出した。

「逃がさんぞおおおおおおお!」

 しかしフェイさんも追い駆けて来ている。
 浮遊し左右に移動するのを見ると、魔法使い系の職業なのか?
 でも浮遊できる職業なんて聞いた事がないんだけど?

「クフフ、随分と驚いているようだな。教えてやろう、この力は魔王様から頂いたものだ! お前などには決して手の届かない力なのだあああああ!」

 フェイさんから発せられた言葉は、ハッキリ言って問題発言である。

「えええええ、魔王の力ああああ?! ってそれ駄目じゃないですか! 人としてどうなんですかそれ。恥ずかしくないんですか?!」

 僕は走りながら抗議するが。

「煩い黙れええええ! この私の気持ちが、貴様などにわかるかああああ! もうこれで消し炭にしてやろう。邪悪の稲妻、デビルズ・ライトニングウウウウウ!」

 っと僕の言葉に聞く耳を持ってくれない。
 しかも魔法まで唱え、僕に攻撃を仕掛けて来た。
 フェイさんの鎧から漏れ出る雷撃の力が、突き出した腕に絡みつき、掌へと流れている。

「行けええええええええ!」

 力の波動が集約すると、紫電の塊が現れた。
 それが僕の方に飛ばされるが、かなり横へとそれて行く。
 力の制御が上手くいっていないのだろうか?

「きゃああああああああ!」

「なんだ。魔族の襲撃か?!」

「誰か、誰かあああああああああ!」

 しかし町の中にはそれなりに人が居て、危険なことこの上ない。
 今回人に当たらなかったのは幸運だけど、何度も発射されれば怪我人が出てもおかしくない。
 この力の威力によっては死人も出るだろう。

「フェイさん何してるんですか、町の中で力を使わないでください!」

 僕は走りながら注意をするのだけど。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 フェイさんは聞いてはくれない。
 魔王に師事したというのは本当だろうか?
 何にしろここまで見境なしだと、町中に出たのは失敗だったかもしれない。

「黒雲よ嘶け、クラウド・ザ・ストライク!」

 フェイさん小さな黒雲を呼び出し、雷撃を落としている。
 でも。

「ぎゃあああああああ!」

 命中精度が低いらしく、町の人達の近くに流れて行ってる。
 どうも僕には全く当たらないようだ。
 フェイさんは、ワザと外して僕を脅しているようにも見えなくもないが。

「クッ、外したか。やはりまだ慣れないようだ。しかし……お前で練習してくれるわあああああああ!」

 この感じだと本気で狙っているように感じる。
 何時か当てられてしまいそうだ。
 何か手を考えなければ。

「ハッ、思いついた!」

 僕は方法を思いつくが、やれるかは微妙なところだった。

「やらないと逃げれなそうだし、やるしかない!」

 覚悟を決めた僕は、測量士の武器である鉄棒を四本取り出した。
 それを両手に二本ずつ指に挟む。

「結界の内なる電力よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」

 そして呪文を唱えながら、両腕を上空へと振り上げた。
 これで僕一人分の結界が完成して魔法が掻き消えるはずである。
 しかし、これは禁断の方法なのだ。

「いけえええええええええええええ!」

 フェイさんから気合を入れて放たれた雷撃は、振り上げた鉄棒の先に引き寄せらせるように落ちて行く。
 しかし魔法は掻き消え、それ自体にダメージを食らわないのだが。

「ぬああああああああ、やっぱり来たあああああああ!」

 代わりとなる数字の石が、遥か上空から結界の中へ落ちて来る。
 逃げても追い駆けて来る様に数字の石が移動し、僕の頭の上へと振って来る。
 自分で出したとはいえ、あんな物を食らっては本当に死ねるかもしれない。

「にゃあああああああああ!」

 とにかく数字を見て計算している暇はない。
 とりあえず百を速度に回し、残りは全て使用時間だ。
 そう決めた瞬間、頭の上に来ていた石の数字は消えていた。

 しかし、僕は何故こんなギャグ展開で命を懸けなければならないのだろう。
 そのことは家でゆっくり考えるとして、今はフェイさんを引きはがさなければ。

「貴様あああ、一体何をしたあああ!」

 何が起こったのか分かっていないフェイさん。
 しかし。

「教える訳がないでしょおおおおおおおおおおお!」

 移動速度を増した僕は、フェイさんの視界から消えて行った。


「ハァハァハァ……なんとかまけたようだ。しかし魔王の部下になっちゃったのか。これはギルド案件かなぁ」

 僕はフェイさんから相当離れ、建物を使って身を隠している。

「うおおおおおおお、何処へ行ったああああ!? クー・ライズ・ライトオオオオオオオオオ!」

 フェイさんの声がする上空を見ると、大声を出しながら町の中を見回している。
 下手に動いたら見つかるだろう。
 しかし簡単に動かなければ、空を飛べるとはいえ、僕一人を探し出せないはずだ。
 まあ三年も待ち続けたフェイさんが諦めるとは思えないし、隙を見ながらギルドに逃げ帰るとしよう。

「よし、今だ!」

 そして僕は、フェイさんが視線をそらす度に一回ずつ移動を繰り返す。
 どうやらまだ時間は切れていないようで、労せずギルドへ避難した。
 やっと帰って来たギルド内部には、殆どの人が居なくなっている。
 アーリアさんやデッドロックさん、ミアさんも居ないようだ。

「おや、お帰りなさいライズ・ライト君。無事逃げ切れたようでなによりです」

 スラーさんが僕を出迎えてくれている。
 そしてもう一人。

「大変だったわね。私も心配していたわ」

 ファラさんは、そう言って椅子に座りながらお茶を飲んでいる。
 どう見ても心配している様には見えない。
 僕の問題というよりは、ファラさんの問題だと思うのだけど。

「ただいま帰りました。え~っと、それでですね、え~っと……ファラさんに残念な知らせがあります。今騒ぎを起こしているフェイさんですけど、どうやら魔王に師事したみたいです」

 僕は二人に、フェイさんが魔王側についたと伝えた。

「それが本当なら由々しき事態ですが」

 フェイさんは顎に手を当て、考えを巡らせている。

「はぁ? 流石にそこまではしないでしょ。お父さんだってそこまで馬鹿じゃ……」

 ファラさんは自分の父親だからと少しは信じているようだが。

「出て来ないというのなら、魔王に頂いた力により、この町全ての人間に天罰を与えてやろう! もちろん、ファラちゃんは助けるけどなぁ!」

 そんな信頼を裏切るように、町中にフェイさんの大声が聞こえて来る。
 もう自分で宣言しちゃったもんだからギルドとしても動かざるを得ないだろう。

「はぁ、どうやらそこまで馬鹿だったようね。面倒だけど娘として止めなければならないようね」

 ファラさんはため息をついて首を振っている。
 しかし呆れられているとも知らず、フェイさんは言葉を続けている。

「チィッ、出て来ないようだな。どぅあったらあああ! 本当にやってやるぞおお! 明後日だ。明後日の日の出と共にこの町を消滅させる! 逃げたい者は逃げるがいい。しかああし、クー・ライズ・ライト、お前が逃げるのだけは許さん! もし町を救いたいというのであれば、その三日の内に、ファラちゃんを連れて我が愛の家にまで来るのだな。待っているぞ、クー・ライズ・ライトオオオオオ!」

 町の外ではゴロゴロと雷が鳴り、ドギャギャンと何処かに落ちている。
 フェイさんは、どうしても僕を叩きのめしたいらしい。
 それから声が遠ざかり、雷の音が聞こえなくなった。
 愛の家とやらに帰ったのだろう。

「ふむ、町のピンチらしいですね。まあ相手が雷を扱うと知っていれば何一つ問題はないのですが。この町には測量士の結界が作られていますからね」

 スラーさんは落ち着いている。
 じつは町の中全体を囲うように、測量士の結界が作られている。
 相手の能力が分かっているのなら別に問題無く対処できるのだ。
 だがそれはジョーカーの一つであるから、ギリギリまでは使われることはない。

「スラーさん、じゃあこのまま放置するんでしょうか?」

 僕はスラーさんに対応を聞いたのだけど。

「相手は魔王の配下です。となれば放置するわけにはいかないでしょう。というわけで、相手の戦力調査に行ってきてくださいライズ・ライト君」

 と言われてしまった。

「あ、やっぱり僕が行くんですね……」

 僕に決定されたようだ。

「当然です。もちろんラビス君にも行って貰わなければならないでしょうけどね。いいですよね?」

「はい、もちろんです。お父さんには一度反省させて地獄を見せますから」

 スラーさんの言葉にファラさんは頷き、剣の手入れをし始めた。

「肉親なのに容赦ないですねファラさん」

 僕は少し同情して話しかけたのだけど。

「肉親だからでしょ。二度と調子に乗らないように叩きのめしてあげるわ」

 ファラさんは、叩きのめせる場があって嬉しそうだ。
 その気持ちも分からなくはない。
 父さんがあんな感じになったのならば、僕としても滅んでもらいたくなるだろう。
 しかし、僕とファラさんのチームには、もう一人メンバーが居る。

「そういえばミアさんは何所へ?」

 僕はスラーさんに、ミアさんの居る場所を聞いてみた。

「ああ、今日は仕事にならないだろうと思いましたから、ミアは別のチームと合流させました。まだ新人なので一つでも経験を積んでもらわないと困りますからね」

 養子だからという訳ではないが、ミアさんとは適度な距離感を保っているようだ。
 きっとファラさんも、こんなお父さんが欲しかっただろう。

「じゃあ僕達二人で行くってことですか? あの人だけが相手なら得に問題はないですけど、他に手下とか魔物とかが居たらちょっと辛いんですけど」

 僕は増員が欲しいとスラーさんに頼み込んだ。
 変な対応したらまた借金が増えるからと、僕も学習しているのである。

「ふ~む、そうですねぇ……今ギルドに残っている人となると……」

 スラーさんはギルド内部を見回している。
 今残っている中にはアーリアさんやデッドロックさん、ツキコさんも居ないようだ。
 まあ他にも知り合いは数人居るには居るのだけど、全員目をそらしている。
 面倒そうだし関わり合いたくないのだろう。

「……では、ディザリア・エルス・プリースト君にお願いしようか」

 で、スラーさんは一人を選び出した。
 その当の本人はバッと立ち上がり、不適な表情を向けている。

「フフーン、この私を選ぶだなんていい度胸なないの。まあ手伝うのはいいのだけどね。私以外のチームはどうなるのかしら?」

 赤い髪を腰まで垂らし、自信満々に言い放つのがディザリアさんだ。
 プリーストと家名があるだけあって、回復魔術が得意な家系なのだけど、彼女自身は回復魔法を使わない。
 むしろ真逆である攻撃魔法を好んで使う人だ。

 この人が選んだ職業は、バスターメイジという破壊を信条とするものである。
 普通のウィザードがコツコツ積み上げるように一つ一つ魔法を覚えるとするならば、バスターメイジは広域魔術を熱心に使う。
 というか、他の細かい技は一切ない。

 魔法以外の技能としては、レベルが上がれば消費魔力を抑える技術を学び、時間による魔力回復量が上がったりする。
 戦闘になれば、力の続く限り魔法を撃てるだけ撃つだけの人だ。
 まあ魔物に囲まれた時なんかは居てくれると心強いが、それ以外だと過剰威力になるだろう。

 弱点としては、魔法力と魔力以外の力が、一つたりとも上がらないことだ。
 超強力魔法が使える一般人だから、接近戦にはめっぽう弱い。
 僕と同じ後衛タイプで、僕とは真逆の魔法殲滅型だ。

 ちなみに、職業形態が安定する以前にもこういう人達は存在していた。
 ある存在は敵を倒す為周り吹き飛ばしたり、ある存在は一撃必殺の信条をもっていたりするとかだ。
 さらに一回の戦いで魔力をあるだけ使い続けるなんて人もいる。
 まあ全員を総合すると、過剰威力万歳の人達だ。

 だったらいっそ、職業の一つとして作り出そうとしたのが、このバスターメイジという職業なのである。
 まあ魔物調査という観点からしてみれば、一番向いていない人だろう。
 そんな職業のディザリアさんが、上司であるスラーさんを机の上から見下ろしている。

「他の人には二人でも丁度よさそうな仕事を回しましょう。ですからお願いします」

 スラーさんそんな態度に気にせず、ディザリアさんの質問に答えている。

「フフ~ン、だったらやりましょう。魔王の配下ぐらい小指の先っちょの力でぶっつぶしてあげるわよ。ついでに魔王も居たならひねり潰してあげるわよ、アーッ八ッハッハー!」

 ディザリアさんは大口を開けて笑っている。

「あの、一応私のお父さんだし、殺したら駄目だからね」

 ファラさんは一応止めている。
 本当に一応だろう。
 表情には心配の欠片も無いし。

「大丈夫、私は分かっているわ! 殲滅こそ正義だと! さあ行きましょうある物全て全滅よ。アーッ八ッハッハー!」

 ちょっと心配なこのディザリアさんを引き連れて、僕達はフェイさんの城に向かう事になった。


 僕達はディザリアさんをチームに加え、フェイさんの愛の家とやらを探している。
 今は町の外に出て、そのアリかを探っていた。
 確か近くに引っ越して来たと言ってたし、そう遠くではないはずだけど、まだそれらしき物は見つかっていない。
 まあ町は安全だし急ぐことはないのだけど、それよりも今はディザリアさんが問題を起こしている。

「アーッハッハッハ、これでッ、止めえええええ!」

 ディザリアさんから撃ちだされるのは、僕達の周り全面を燃やし尽くす様な、特大の炎がだった。
 本物の炎だったら僕達も燃え尽きているかもしれない。
 ちなみに相手はゴブリンの一体だ。
 過剰威力もはなはだしい。

「あの、ディザリアさん。流石にこれはやり過ぎでは?」

 僕は、注意の気持ちを込めてそう言ってみたのだけど。

「魔力を心配してくれるのね? 私はまだまだやれるわよフッフッフ!」

 ディザリアさんは全然聞いてはくれなかった。
 まあ僕の周りには人の話を聞かない人が多いし、こんなものかもしれない。
 ちなみに隣に居るファラさんは。

「やることがなくて暇だわね。体がなまっちゃいそうだわ」

 腕を回し、準備運動を続けている。
 魔物は出会った瞬間ディザリアさんが退治してしまう。
 職業の特性で、自然魔力回復量が多いのは分かったのだけど、それでもいずれ魔力が無くなるんじゃないだろうか?

「魔物はっけええええん! クワイエット・ブレイブスタアアアアア!」

 とても静かではない大地の爆発が起こり、一面に岩の散弾が飛ぶ。
 僕達がまだ見ていない魔物は、ボロクズのようになって倒されていた。
 しかしこんな人を連れて行けと言われるとは、もしかしてスラーさんは、全滅させて来いと言っているのだろうか?

「おっとと、魔力が尽きた。二時間ぐらい休憩しましょう。全開したら全力で暴れてあげるわよ。アーッハッハッハ!」

 ディザリアさんは役立たず状態と化しているのに、随分偉そうだ。
 膨大な魔力も無くなってしまえば、町に居る一般人にしかすぎない。
 それがバスターメイジである。
 もしかして、邪魔だったから僕達に押し付けたんじゃ?

「休憩するのを待ってる時間はないわ。今はお父さんを見つけないといけないし。クーあんたが背負ってやれば?」

 ファラさんが僕に命令を出している。

「えっ、何で僕が?」

 っと僕は聞き返したのだが。

「あんた暇でしょ。どうせ結界作らなきゃ役立たずだし」

 ファラさんは測量士の弱点を指摘した。
 まあその通りなのだけど。

「アーッハッハッ! 私の為に働きなさい!」

 その当の本人ディザリアは、立ち上がり高笑いをしている。
 なぜそんなに偉そうなのか。
 しかし、僕だって後衛なのである。
 こんな重そうな物を運んでいたら、本番で疲れ果てて頭も回らなくなるだろう。

「ファラさん、普通に歩いて貰えば良いんでは? 歩いていても魔力ぐらい回復するでしょう」

 僕は当然のことを指摘した。

「それもそうね、じゃあ歩いて貰いましょう」

 まあ当然だし、ファラさんも納得してくれたようだ。

「折角私の体に触れるチャンスだというのに、惜しいことをしたわね。もう二度とないかもしれないわよ。アーッハッハッハ!」

 ディザリアさんは僕のことを荷車ぐらいにしか思っていないのだろう。
 こんな感じでフェイさんの住処を探している。
 しかし、ディザリアさんは魔力が回復する度に魔法を撃つから、とても目立って仕方がない。
 どうせ目立つのならフェイさんから来てくれると早いのだけど。

「やっぱり来ないよね」

 僕は辺りを見回すのだけど、誰も来る気配はない。
 近くに居たら気付かない訳はないのだけど、こっちの方向じゃないのだろうか?

「何してんの、早く行くわよ」

 ファラさんとディザリアさんは、僕がグズグズしている間に先に進んで居たようだ。

「あ、はい。行きます行きます」

 僕は返事をして町の周りを回って行く。
 そして愛の家とやらを発見したのは、町の南方を探索していた頃だった。

「あれ、あれなんでしょう?」

 僕は町の近くにあった看板を発見した。
 その看板を見ると、矢印があり、『我が娘ファラちゃんとの愛の家はこちら。
 ファラちゃん、早く来て! お父さん待ってるよ!』っと書かれている。
 近くを通る冒険者たちが、チラチラとそれを見つめて通り過ぎて行く。

「ふう、お父さんったら、どうやら本気でやられたいようね」

 そう言ったファラさんは、その看板をバラバラに破壊していた。
 きっと恥ずかしかったのだろう。

「じゃあ行きましょう。お父さんが待っていますよファラさん」

 僕は普通に話しかけただけなのだけど。

「煩い!」

 ファラさんからは怒鳴られてしまった。
 僕達は矢印の通りに進み、幾つかの看板を叩き壊して進んで居る。
 そしてやっと発見したのが愛の家というやつだろう。
 大きな城という訳ではないが、そこそこ立派な屋敷だった。

 綺麗な真っ白い壁や、金に縁どられた窓枠、屋根は落ち着いたグリーンに染められている。
 屋敷を覆うように造られた塀の内には、立派な庭園が造られているのだが。

「気のせいかしら、なんか魔物達が庭園の手入れしてるんだけど……」

 ファラさんがその光景を見て驚いている。
 魔王の配下だから魔物の扱いも出来るんだろうか?

「いや、気のせいじゃないですね。間違いなく魔物が手入れしています。魔物って芸を覚えるんですね」

 僕は何となくその雰囲気に見とれてしまっていたのだけど、そんな場合ではなさそうだった。

「フッフッフ、魔物はっけえええええん! ペンタストラム・アルファ・ストーン!」

「えええええ!?」

 いきなりの魔法に驚いた僕は、ディザリアさんを止められなかった。
 生き生きとして凶悪な土系統の魔法を放ってしまう。
 もう魔法を撃てるだけの魔力が回復してたのだろう。

 綺麗だった庭園はグッチャグチャに変わり、庭に居た魔物達は全滅している。
 そして新品の愛の家とやらは、僕達が入る前に崩れ去ってしまった。
 こんなに早く魔力が回復するとは、恐るべしバスターメイジ。

「アーッハッハッハ! 一瞬で倒してやったわ。アーッハッハッハ!」

 そんな光景に、ディザリアさんは満足げに笑い続けている。

「……お父さん、まさか戦う前に死んじゃうだなんて……」

 ファラさんは、お父さんのことを悲しんでいるようだ。
 しかし、ファラさんのお父さんとはいえ魔王の手下。
 僕達が調査を終えれば、本格的な退治が始まるだろう。
 意外と最後が見られて良かったのかもしれない。

「私が根性を叩き直すはずだったのに……残念だわ」

 どちらかというと、殴れない悲しみの方が強いようだ。
 もうちょっと悲しんであげた方がいいのでは?
 まあ、終わったし、帰ろうかななんて思っていると。

 後ろから何かを落とすような、ドシャッという音が聞こえて来た。
 何だと振り向くと、顔を真っ青にしたフェイさんが、買い物袋を落としていた。

「……わ、私の愛の家が……」

 もしかして町に買い物に行ってたのだろうか。
 まあ、こんな町の外に家を建てれば食料にも困るよな。
 その為に助かったのだから良かったかもしれないけど。

「アーッハッハッハ! 現れたわね魔王の手下め。この私が退治し……ぐええええええ!?」

 その出現に黙っていなかったのがディザリアさんだが。

「あんたちょっと黙って」

 ファラさんにより髪の毛が引っ張られ、その首を背後にそらされた。
 体力的にも筋力的にも一般人のディザリアさんは、前衛で力強いファラさんには抗うこともできないのだ。
 今までやりたい放題だったから、扱いがだいぶん雑になっている。

★ちょっとしたあとがき
 町の結界について。
 測量士によりつくられた町の結界は、どの属性にも対応できるように何重にも張り巡らされている。
 冒険者としてはレア職業の測量士だが、ギルド職員としてはポピュラーなものだ。
 町中では超重要な役割を任されて、その結界の維持に努めている。
 魔王であれなんであれ、町の中へ来てしまえば確実に封殺できてしまえるのだ。
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