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そんなにお金が欲しいんですか?

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★前回のあらすじ。
 ファラさんに捕まってしまった僕は、お風呂場に転がされてロープでし縛られていた。
 僕はファラさんから軽く罰を受け、何とか許され、アギアさんの体を二人が洗い清めた。
 町への移送の準備が整い、僕達はアギア(ミア)さんを自分の町へ連れ帰る。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 ミア     (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)


 念の為にミアさんには体全体を隠すローブを着てもらい、やっと移送の準備が整った。
 もちろんその腕は縛りあげられ、剣は布を巻きつけ鞘を作っている。
 フードもなく腕にも剣がなくなっているから、もう手配書の姿とは似ても似つかない。

 これで大丈夫だと、町の入り口にまでやって来ている。
 しかし少し前にファラさんが言っていた言葉が気になった。
 冒険者が襲い掛かって来る的な話をしていたけど、流石にないと思うんだけどなぁ?

「じゃあ進みましょうか」

 僕は三人に声を掛けて町の入り口から移動をしようとしている。

「その女はアンタに任せているけど、移動中に手を出すんじゃないわよ」

 僕は当然のようにファラさんに注意を受けている。
 信用が無いらしい。

「こんな所じゃやりませんって」

「はぁ、こんな所じゃ無きゃやるつもりなの?!」

 答え方を間違えてしまったようだ。
 否定しなければ。

「いやいや、こんな所じゃなくてもやりません!」

「ヨメ、コドモ、クレ」

「何言ってるんですか! そんな事しませんからね!」

 ミアさんは自重してはくれない。
 恥ずかしさとかの教育は受けていないのだろう。

「クーちゃんの誘惑なら負けていられないわ。お姉さん抱いて良いのよ」

 そして知っていても自重しない人。

「いりません!」

 僕は二人の言葉を即座に断った。
 暴力的なファラさんもヤバイが、他の二人はそれ以上に地雷だ。
 お姉さんも相当キツイいが、ミアさんなんて人生が終わるレベルで不味い。
 どう考えても絶対に手を出せない。

 二人からの妙な誘惑を潜り抜け、僕は馬車が倒れていた森の入り口にまでたどり着いた。
 あの横を通り抜ければ、森の街道の始まりだ。

「待って、まずは私が……攻撃してやるわ!」

 ファラさんは懐から投げナイフを十本取り出し、馬車の影に向かって投げつけている
 それは全てガガっと地面に突き刺さっている……のかも?
 正直ここからでは見えないのだが、一応悲鳴などは聞こえてこない。

「チッ、居るならあの辺りだと思ったのだけど、違ったようね」

 いや、まあ襲われるのなら戦わなきゃいけないんだけど、人を傷つけるのはよくないんでは?

「あの、もし人間に当たってたら不味いんじゃないですか?」

「はぁ?! 人を襲って賞金を横取りしようなんて奴はぶっ倒してやればいいのよ! そんな奴等が本当に居たらだけどね」

「お姉さんはあの辺りが怪しいと思うの。ほら、あの木の後ろ辺りよ」

「確かに怪しいわ。いよっと!」

 怪しい場所は徹底的に潰していくファラさん。
 そんなにナイフ持ってたんですね?
 しかし両側に木々が生い茂るここは、隠れる場所が山ほどある。
 木の上や森の少し奥に居たとしたら見つけようがない。

 まあ今回は何所にも居ないとして、馬車の裏側に移動して二人がナイフを回収している。
 森の中の物も回収すると、左右の森を警戒しながら歩き始めた。

「クー、少しだけ聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

 ファラさんは僕に質問があるらしい。

「え、何ですかファラさん」

「あのさ、少し考えてみたんだけど、今回の仕事ってナンバーズの調査じゃない?」

「あ、はい、そうですね」

「でさ、もし私達がこれを連れ帰ったとするわよね? そうすると私達のボーナスってどうなるのかしら?」

 これと言うのは、ナンバーズナインのアギアさんのことだ。
 つまりミアさんのことである。

「あ~? どうなんでしょうね。何分前例がないので分からないんですけど、本人が居るんだから調査の意味はないんじゃないですかね? でも一応調査の仕事はしてるんですし、多分貰えるんじゃないですか?」

「たぶんじゃ困るんだけど! 宿だってボーナスがあるから取ったんだからね! もし出なかったら私の立てていた予定はどうしてくれるのよ!」

「いや、僕に言われてもどうにもならないですよ。そういう交渉はスラーさんに言ってください」

 まあスラーさんが了承しても、ギルドの上層部が許さなければ意味がないのだけど。

「お姉さんが思うに、タダ働き? むしろ宿代でマイナス?」

「あんた一体どうしてくれるのよ!」

 ファラさんはアーリアさんの言葉を聞いて、僕の肩を掴んでガクガクと揺らし始めた。

「お姉さん、あおらないで! 落ち着いてくださいファラさん。ボーナスは出せませんけど、宿代ぐらいなら支払ってもいいですから!」

「そんなはした金で許せるわけがないでしょう!」

 確かにギルドから出るボーナスと、あそこの宿代では金額として相当な開きがある。

「アイツ、コワイ。ワタシ、フルエル」

 ミアさんはアーリアさんの後ろに隠れてしまっている。
 意外と懐かれているのかもしれない。

「お姉さんも怖いわ。決着がつくまで離れていましょうか」

 自分の所為だとは知らないミアさんと、さっきあおっていたお姉さんが、我関せずとのんびりしている。
 しかしどうやらファラさんが何か思いついたらしい。

「あんた、え~っとミアだっけ? もう人は襲わないって約束できる? 出来るのなら逃がしてあげるわ」

「ワタシ、ヒト、オソワナイ! ヤクソク!」

 確かにボーナスは貰えるかもしれないけど。

「いやファラさん、それは不味いでしょ!」

「こいつはもう人を襲わないし、私達も仕事を終えてボーナスが貰える。何も問題ないじゃないの? ギルド員の私達がこいつを連れ帰る必要もないし」

 捕まえるのは仕事ではないし、冒険者の為にもならないけど。

「不可抗力とはいえ捕まえてしまったのだし、逃がすのは不味いんじゃないかなぁ」

「はぁ、心配しなくてもいいわよ。覆面の冒険者に襲われたって言っとけばいいんだから」

 ファラさんは不正をしようと持ち掛けて来ている。

「流石に嘘は駄目でしょう。冒険者なんてどこにも……」

 ハッと気づいた時、僕達の周りに覆面の冒険者達が現れた。
 周りを見ると六人もいて、囲まれてしまっている。
 戦士風の男が四人と、魔導士風の男が二人。
 ファラさんは気付いていたのか?

 何故この冒険者達が覆面を被っているのか。
 そんなのは言われなくても分かる。
 身元を特定しない為だ。

「貴様等、その賞金首を渡して貰おうか。素直に渡すのならば命までは勘弁してやろう」

 道の正面に立っているのがリーダー格の男だろうか。
 剣を向けながら僕達を脅している。

「ほら、居たじゃない」

「いやファラさん、落ち着いてる場合じゃないでしょう。どうするんですかこれ!」

「どうするって、退治するに決まってるでしょ。言った通りに渡した所で、あいつらは私達を殺すわよ。報告されたら取り消されるかもしれないからね。それ以外はないわ」

「クーちゃん、慌てなくて良いのよ。こんな事をするなんて、相手を倒す実力がなくて貧乏な人達だもの。そんなのにやられたりしないわ」

「そうね。そもそも倒したのは私達だし、魔物より強い私達に勝てるかって話よ」

 ファラさんとアーリアさんは慌てていない。
 流石に一人一人がミアさん並とは思えないけど、相手は僕達より多い。
 相手が冒険者だとすると、チーム戦術も気をつけなければ。
 僕は戦闘準備をしようとリュックから鉄棒を取り出すのだけど。

「舐めてるんじゃねぇぞ!」

 僕達のやり取りに我慢できなかった奴が一人、先陣を切って襲い掛かって来た。

「おっと」

 それは僕に向かって来るのだが、アーリアさんはその剣をガッチリ掴んでいる。
 そのまま軽く剣を奪い取り、グローブで相手の顔を殴った。

「ぐあっ?!」

 防御専門のアーリアさんでも、別に攻撃出来ない訳じゃない。
 流石に一発では倒れなかったけど、攻撃手段を失って後ずさっている。

「う~ん、お姉さん思うんだけど、甘すぎ? あ、クーちゃんこれ持っといて」

 アーリアさんは奪った剣を、僕に向かって放り投げた。

「おわああ?!」

 その剣はクルクルと回転して、目の前の地面に突き刺さっている。
 正確に投げたのだと思うけど、もの凄く怖い。
 僕はその剣に手を振れ、簡単に抜けないようにと地面に押し込んだ。
 しかしそれを切っ掛けにしてか、他の五人が攻撃を始めた。

「死ねええええええええ!」

「ぬううううううううううん!」

「らああああああああああ!」

 ファラさんに一人、アーリアさんには二人。
 残っている二人の内一人は術を唱え、もう一人は何もせずに待機している。
 何もしない奴はヒーラーなのだろう。
 もう一人が唱えているのが、氷の魔法だ。

「アイス・コールド!」

 手から放たれた氷の力は、アーリアさんに向かい飛んで行く。

「お姉さん、魔法が来ます!」

「?!」

 アーリアさんの手は二つしかない。
 敵二人で手一杯で、魔法にまでは対処できない。
 どの攻撃を防ぎ、度の攻撃を食らうのかとアーリアさんは思案している。
 結局は氷魔法を受け止め、一人の剣を何とか防具で受け止め軽い傷を負ってしまった。

 ミアさんが手伝ってくれれば簡単なんだけど、冒険者相手に賞金首である彼女を使うのは不味い。
 しかし僕は相当についているらしい。
 あの魔導士が居る位置は、昨日作った結界と、先ほど剣を打ち付けた中に入っている。
 つまりは……。

「……結界の内なる冷気よ。数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」

 魔法が使えるということだ。
 でも相手は冒険者。
 僕の魔法の効果を知っていてもおかしくはない。
 それでも氷の魔法だけは、この結界の内でのみ封じられる。
 他属性を持っていても不思議じゃないが、あとは相手の知識次第だ。

「ファイヤ・ショット!」

 弾丸のような炎の属性攻撃は、僕に向かって撃ち放たれた。
 僕は身を捻って炎をやり過ごすと、攻撃を行った魔導士をもう一度見つめる。
 このまま待つべきか、それとも放たれるタイミングでこちらも魔法を変えてみるべきか?
 どちらにしろ賭けにしかならない。

 僕はこのまま待つことを選択し、そして……。

「アイス・コールド!」

 来た!
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