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プロローグという名の一話

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 さあ勇者よ、世界を救うんだ。
 な~んてことは他人に任せ、今日もギルドで働くよ。
 十六歳になったばかりの少年クー・ライズ・ライトはギルドに努める職員だ。
 時には戦い時には逃げて、冒険に出たりでなかったり、仲間達と一緒にちょっぴりだけ危険な仕事をこなしている。
 魔物の能力値ステータスを測ったり、新種発見ボーナスゲット。
 ギルドは優良企業ですよ。




「や、やだ!?」

「いたあああい!?」

 出現するスライムやゴブリンの攻撃。

「ぐあああああああ!」

 オークの振るう棍棒の強さ。

「た、助けて、助けてええええええ!」

 オーガの放つ無慈悲な一撃。

「熱いいいいいい、ぎゃあああああああ……」

 王の部類だと言われるドラゴンの炎。
 魔物を退治するのは冒険者か傭兵、国の兵士の仕事である。
 だがそんな彼等でも、相手の力を知らなければ激戦は必至だ。
 このアストライアという大陸において、魔物の力の数値化は命題だったという。

 その魔物の体力は?
 力は? 防御力は?

 君は知っているだろうか、魔物に付けられた数値が、一体誰が測量しているのだろうかと。
 それを行っているのは、モンスター測量士と呼ばれるギルド職員達だ。
 僕、クー・ライズ・ライトはその職業につく職員で、今同僚のファラさんと一緒にベイビードラゴンの調査に来ていた。

「へー、あれがベイビードラゴンね、このサイズでも貫禄があるわね」

 薄暗い洞窟の中、同僚のファラ・ステラ・ラビスさんが剣を構え、前に居るベイビードラゴンに狙いを絞る。

「ビビったかぃ嬢ちゃん、なんなら見学してても良いんだぜ?」

 この人はデッドロック・ブラッドバイドさんで、僕達が雇った冒険者だ。
 鎌を持ってニヤリと笑い、ベイビードラゴンの隙をうかがっている。

「冗談言わないで、やるに決まってるでしょ」

「二人共頑張ってください、僕は見学していますね」

 その二人のやり取りを見守り、あんまりやる気を出さないのが僕だ。
 相手はベイビー赤子だとはいえドラゴンだ。
 その危険性は推して知るしかない。
 で、それを推し量るべく行動しているのがギルドに所属している僕とファラさん、もう一人は雇った冒険者のデッドロックさんだ。
 僕としてはドラゴンなんて相手にもしたくないけれど、これも大切な仕事の内である。

「さあ行くわよ!」

 ファラさんが声をかけると。

「おうよ、うおおおおおおおらああああ!」

 二人が飛び出して行く。

「じゃあ二人共、行ってらっしゃーい」

 僕はそれを見まもり手を振った。
 これからベイビードラゴンと戦うのだけど、少し前のことを振り返ってみよう。
 ことの始まりは少し前、僕達の上司、スラー・ミスト・レインさんに呼び出され。

「君達、ちょっと北の町に行って来てください。こちらの手を借りたいそうなんですよね」

 何て言われてしまったからだ。
 ちなみに見た目三十ぐらいの細身のおじさんだ。
 かけたメガネを指で押し上げ、僕達に指示している。

「あの、今日魔道具の安売りがやってるんで断りたいんですけど」

「ハッハッハ、変なことは言わないでくださいねライズ・ライト君、死ぬ気ですか?」

 スラーさんの目が笑っていない。

「いえ、冗談です。やらせて貰います!」

「ならいいのですよ」

 もちろんギルド員である僕達はそれを引き受けた。
 で、ギルドの倉庫で色々用意を済ませた僕達は。

「スラーさん、たぶん泊りになると思いますんで、明日の出勤も付けといてくださいよ。帰らなかったらその次の日もお願いします」

「スラーさん、私の分も忘れないでくださいね」

 報告して出発しようとしていた。

「はいはい、気を付けて行って来てね。途中で死ぬんじゃないですよ」

「ああはい……なるべく気を付けます」

 僕は変なことが起こらないようにと祈っておいた。
 不吉な事を言わないで欲しいけど、それが仕方ないほどに、この仕事は危険がつきものなのだ。
 もちろん必要なら魔物とも戦ったりしなきゃならないし、冒険者以上に気をつけなきゃいけない事は山ほどあるのである。

「じゃあ行って来ます、スラーさん」

 僕はギルドの入り口に立ち、手を振ってに挨拶をした。
 同じようにファラさんも。

「行って来るわねスラーさん。留守はよろしく」

 軽く手を振って扉を開ける。

「行ってらっしゃい」

 僕達がギルドから出ると、ローゼリアの町並みが見えて来た。
 町並みは美しく、完璧な左右対称シンメトリーで構成されている。
 町の中心にある大きな教会から八本の道が伸び、建物の色でさえ統一されていた。
 きっと上空から見たら美しいんだろうけど、今の所それを出来る法術や魔法の類は発見されていない。
 何時かそういうのも出来るのだろうと期待したい所だ。

「え~っと、今日はここから北のミトラの町にまで出張ですね。じゃあ気を付けて行くとしましょうか」

 僕達は町の入り口に向かい、歩きながら話をしている。

「遠いのよねぇ、出来れば馬でも使いたいわ」

「馬って経費で落ちないんですよね。自費で落とさなきゃいけないんで赤字になっちゃいますよ。もし逃がしちゃったり死なせちゃったりしたら借金まみれですね」

「ふぅ、世知辛いわね。じゃあ歩くとしますか」

「そうですね」

 北の町は案外近いけど、徒歩だと八時間はかかる。
 移動だけで一日使ってしまうのだが、移動中にも色々と仕事があるのだ。
 一番美味しいのは新種の発見で、一つ発見する毎にボーナスが貰えたりする。
 敵の攻撃手段や弱点を調べられれば尚いいし、持ち帰れば更にドーンと金額が跳ね上がる。
 そして、発見者が魔物の名前をつけたりも出来るのだ。
 稀に変な名前の魔物が居るのはその為である。

 毎日見回ったりしているし冒険者にもその権利があるから、そんな簡単には見つからない。
 でもこの日は運があったらしい。
 北の町に向かう途中で、ファラさんが何かをみつけたようだ。

「ク―、あれを見て! あれ絶対新種よ、だって頭に角がついたスライムなんて見た事ないもの!」

 ファラさんが遠くにいるスライムを指さしている。

「ええッ?!」

 新種、つまりボーナス。
 その方向には、ファーが言った通りに、真っ直ぐのつのが生えたスライムが動いている。
 目や口も無いからよく分からないけど、たぶんスライムの額の部分についているのだろう。
 長さは五十センチで、腹にでも突き刺されば簡単に死ねそうな物だ。

 体の大きさは結構大きく、縦横共に一メートルぐらいだ。
 角が生えているとは、スライムの定義を覆しそうな奴である。

「えっと、どうしましょうか。戦ってみます?」

「そんなのあったり前じゃない! ボーナスよボーナス、やらなきゃ損よ!」

 ファラさんが張り切っている。
 新種なうえにあまり強く無さそうな奴だ。
 殆どの数値を測ってしまえば後々楽になる。
 そしてお金が入り二度おいしい。

「じゃあちょっと待ってください。映し鏡の魔法でその姿を撮影しますから。攻撃するならそれからお願いします」

「じゃあ任せたわ」

「任されました」

 映し鏡の魔法とは、魔物の姿をボードの内に保存する魔法だ。
 一般には出回っていないギルド専門の魔法である。

「映し鏡よ、彼の姿を写したまえ」

 そう言って白いボードを持って、スライムを見つめた。
 僕の見たその姿が、白いボードに色付きで現れる。
 ちなみに、これをしないと不味いことになってしまう。
 倒してしまうと水分になり、それが居たのか証明できなくなるからだ。

「よし、大丈夫です」

 僕はボードにしっかり写ったスライムを確認した。

「じゃあ戦ってもいいですよ」

「オッケー、まずは斬撃からね」

 ファラさんは短剣を抜き走って行く。

「ファラさん、気を付けてくださいね」

「知ってる!」

 彼女は腰に立派な剣があるのに、わざわざ短い短剣を持ち出し、そのスライムに斬り掛かる。
 相手の動きを見極めながら、ヒュンヒュンとスライムの体を切り刻んだ。
 しかしそれは体の中を通り過ぎるだけで、ダメージがあるようには見えてはいない。

「う~ん、斬撃耐性とりあえず十ね。次は刺突いってみましょうか」

 同じように突いたりしているが、効果は薄い。
 今度は短剣を持ったまま殴り掛かる。
 するとスライムの体はパンと弾けて表面が飛び散った。
 こうして敵の能力値を測って行くのだが、敵も反撃してくるので、実力差がないと結構辛い。
 敵の攻撃を一度受けたりもしないといけないからである。
 まあ、あんな角の一撃を食らえば死にかねないから、予想値で数値をつけるのだけど。

「ク―、私にばかりやらせてないで貴方ちょっと受けて見なさい」

 ファラさんは僕に無茶ぶりをかましてくる。

「えええ、ちょっと怖いんですけど。このぐらいだったら予想値でいけますよね?」

「ダメよ、ちゃんとした数値を測るのが私達の仕事でしょ。冒険者さん達の為にも、人々の為にも行ってらっしゃい」

 戦力調査部は危険が付きまとう仕事だ。
 これも仕方ないことだ。

「分かりました分かりました。じゃあちょっと待ってください。今道具を取り出しますから」

 僕はゴソゴソと荷物の中から四角いキューブを取り出した。
 正方形に切り出された、高さ五十センチのタダの木材なのだ。
 しかし特殊な加工がしてあり、丈夫で尚且つ普通の木よりも断然軽い。
 これに敵の攻撃を受け止め、その深さや長さで数値を測るのが正道というものである。
 その取り出したキューブを、角スライム(仮)の前に構えた。

「さあ来い!」

 それに応じるように角スライム(仮)も体を沈ませ勢いをつけている。
 バンと跳び出し、長い角が僕の体の中心向かって来ていた。
 体に刺さったら死ねるだろう。

「こわ!」

 敵を見ながら角の先にキューブを合わせると、角がそれに突き刺さった。
 その衝撃で僕は後へ吹き飛ばされてしまう。

「いった~……」

 角スライム(仮)は、自分の角に刺さったキューブを嫌がり、暴れている。
 その刺さり具合を見てファラさんが数値を判断していた。

「数値は……六十五か、案外高いわ。でも鉄の盾なら防げそうだわね」

「お~い、僕の方の心配はしてくれないのですか?」

「そのぐらい平気でしょ。じゃあ大体の数値は取ったし、倒しちゃうわね」

 手を貸して欲しかったのに、僕は普通に一人で立ち上がった。

「そうですか? じゃあ任せますね」

 僕はファラさんに後の処理を任せ、戦いを見学することにした。

「あんた偶には働きなさいよ」

「いやでも前衛って大変じゃないですか?」

「あっそ!」

 ファラは自分の愛剣を持ち出し、剣の腹で思いっきり叩きつけた。
 パンとスライムの体の一部が弾け、何度も繰り返すと完全な水に変わってしまう。
 体力値もそこまで高いものじゃないらしい。

「ふう終わった」

「お疲れ様ですファラさん、スライムは……おっと角だけは残りましたね。じゃあこれは持ち帰るって事で」

 僕はホーンスライムの角をリュックにしまい、その数値を紙に書き込んでいく。

 名前 :ホーンスライム
 レベル:15
 HP :40
 MP :0
 力  :65
 速  :35
 大  :100
 危険度:2
 技  :角による突進。
 考察 :角以外に注意する点は特になし。
     真面に食らうと危ないので、ちゃんと見て対処すれば大丈夫。

 ちなみにこの数値の決め方は、大体が主観でしかない。
 基本のこの情報を各地に送り、この魔物に出会った者達の情報が集まる。
 で、使う技が増えたりして修正されたりしていくのだ。
 稀に地域で使わない技とかもあるので注意が必要だけれど。

「ふう、終わりましたよ」

 色々な数値をやっとのことで資料に書き込んだ僕は、それをリュックにしまいこんだ。

「じゃあボーナス確定したってことで、北の町に移動しましょうか」

 ファラさんは剣を鞘に納め、移動の指示をしている。

「そうですね。じゃあ出発しましょうか」

 ボーナス確定の僕達は、うきうき気分で北の町へと進むのだった。


 僕達は北にあるミトラの町にやって来ていた。
 この町の先には大きな山脈が広がっており、町の周りには木々も多く、水場も所々に存在する。
 森には動物も豊富に居て、小さな動物達が町中を駆け回って行く。

 店への被害が多少出ているが、観光として成功しているので、その分補助金が出ている。
 衛星管理もしつかりされていて、危険な魔物や動物は町中には入って来ない。
 そんな町のギルドで、ふっくらとした唇が特徴の女性ギルド職員に今回の依頼を聞いたのだが……。

「ドドドドドドドドドラゴンですか?!」

 僕はその名前に驚いた。

「はい、どうぞお願いします。あ、安心してください、まだベイビードラゴンみたいなので」

 お姉さんが言うベイビードラゴンとは、いわゆる赤ん坊のドラゴンである。
 体長は一メートルから四メートルまでと決められていて、それ以上となるとリトルドラゴンと呼ばれることになる。
 だがその赤ん坊の内であっても、体長の変化は凄まじく、数値化は中々に難しい。
 タイプ・ワン、タイプ・ツー、タイプ・スリーと分けられ、大きさにより資料が変化する。

 どのタイプとしても、資料はまだまだ隙間だらけなのだ。
 だってドラゴンですもの。

「ベビーだったとしてもドラゴンには変わりないじゃないですか! それにですよ、ベビーだったら母親や父親が居たとしてもおかしくないですって! 無理です、無理無理無理!」

 そんなものを二人で相手できるほど僕達は強くはない。

「安心してください、今回受け持ってもらうのは、タイプ・スリーのベイビードラゴンです。巣立ちを終えているはずなので、親は居ないですよ」

 お姉さんが言うタイプ三とは、つまり三メートル以上のドラゴンで、四メートル未満のものなのだ。
 ご両親が居ないからと言って、三メートルは中々大きいとは思いませんか?
 普通のワニだって三メートルも有れば怖いでしょうに。

「それでも、こっちの戦力は一人しか居ないんですよ! どう考えても無理ですって!」

 僕はそれを断るのだけど。

「あのさぁクー、何で戦力が一人なのよ? まさか私一人に……」

 ファラさんは僕に戦えというらしい。

「ファラさん、僕が戦えると思ったら大間違いですよ? そんなの相手に僕ができることはありません!」

「はぁ、クーが当てにならないのは何時ものことだけど。三メートル級か……ちょっとね大変かしらね? 今から人員を呼び寄せるには時間がかかるし、そっちで手を貸してくれる人は居ないのかしら?」

 受付の女の人は暫く考えこんで、答えを迷っている。
 上司に相談しないのは、彼女がそれなりの地位にあるのかもしれない。
 名前を憶えておいた方がいいだろうか?
 僕がネームプレートを見ようとすると、彼女は答えを決めたらしい。

「一人なら当てが有りますね。……では経費はそちら持ちでということで。お金はそちらの上司と、ご自分で交渉してくださいね」

「あ、はい……じゃあそういうことでお願いします……」

 まあ、相手はドラゴンとは聞かされていなかったし、経費は出してくれると思う。

「よかったわねクー、これで戦力は二人になったわ。ありがとう御座います、ディーラさん」

 ファラさんは受付の人の名前を見ていたらしい。
 抜け目のない人だ。
 そして僕のことは戦力扱いしてくれなくなったようだ。

「そうですねー……」

 僕は適当に返事をすると。

「じゃあ少しお待ちを。今呼んで来ますから」

 受付のディーラさんは、ギルド内部から人を呼び出している。
 僕達が待っていると、ディーラさんは男の人を連れて戻って来ていた。
 連れて来た男の茶色い髪は外に跳ね、顎に少しヒゲを生やした三十代を超えたぐらいの人物。
 清々しいほどに防具は何も着けていない。
 武装として、鎌と呼べる物を持っている。
 棒の横ではなく先端に反り返った刃があった。

「いよう若いの、俺を雇いたいとは、中々見る目があるじゃねぇの。俺はデッドロック・ブラッドバイドだ。よろしく頼むぜ。まっ、仲良くやっていこうじゃねぇか」

 そのデッドロックという男が、元気に手を挙げて僕達に挨拶している。
 僕も挨拶をしておこう。

「よろしくお願いします、ブラッドバイドさん」

「デッドロックで良いぜ。一刻とはいえ旅の仲間になるんだ、仲良くやって行こうじゃねぇの」

「よろしくね、と言いたい所だけど、あんた戦えるのよね?」

 ファラさんはどう見ても年上のデッドロックさんに、案外失礼なことを言っている。

「お嬢ちゃん、俺を誰だと思ってんだい? この町一の冒険者っていやぁ、誰もが俺だって言うんだぜ。心配なら道中色々と教えてやるぜ」

 攻撃的に見えたファラさんの口撃も、デッドロックさんは軽くうけながしている。

「へ~、見せて貰おうじゃないの」

 二人の間に、バチバチと火花が散っている気がしてならない。
 ファラさんも対抗心を燃やしているようだ。
 ギルドの紹介だし、たぶん大丈夫だとは思う。

「え~っと、大丈夫なんですよねディーラさん?」

 大丈夫だとは思うが、僕は一応聞いてみた。

「まあ彼なら心配ないでしょう。奇妙な事に、本当に町一番の冒険者なんですから」

「そ、そうなんですね、じゃあ安心だ。あとは、ドラゴンの居る場所の地図と、色々と資料を貰ったら出発しますね」

「ええ、お願いしますね」

 僕はディーラさんから資料を受け取ると、タイプ・スリーの情報を見た。

 名前 :ベイビードラゴン・タイプ・スリー
 レベル:28
 HP :?
 MP :たぶん0
 力  :?
 速  :?
 大  :400以下
 危険度:5
 技  :炎を吐くかもと思われる。
 備考 :たぶん相当堅い。

 これでは普通に何にも分からないじゃないか。
 たぶんってなんだ? 思われるって何だろう?
 吐くのか吐かないのかどっち?
 レベルにしてもきっと適当につけたのだろう。

 兎に角、出来る限りの準備をして向かうしかないだろう。
 ドラゴンの居る場所は、この町より更に北にある山の麓近くの洞窟である。
 僕達三人はこのギルドから必要な物を貰い受け、ベイビードラゴンの居る場所へと向かって行く。

 その道中。
 案の定出現する魔物に、僕達の進行を止められてしまう。
 現れたのは、ウォーウルフと言われる狼タイプの魔物が一体。
 普通は群れで生活しているはずの魔物だけど、辺りに他の仲間は見当たらない。
 逸れと言われるものだろう。
 僕達を警戒しながら、周りをゆっくり回っている。

「ここは俺に任せなよ。このぐらいの相手は俺一人で充分だ」

 デッドロックさんは自分の実力を見せつけようと鎌を構えた。

「へ~、やってもらおうじゃないの」

「危なくなったら手を貸しますから、気を付けてくださいね」

 僕達二人もそれを受け入れた。
 このぐらいの魔物は一人で対応してくれないと、ベイビードラゴンなんかと戦うことはできない。
 いい機会だろう。

「誰に向かって言ってるんだ? このぐらい何でもないぜ! 行くぞオラァ!」

 ウォーウルフに向かって走り出すデッドロックさん。
 鎌を使う攻撃は、かなり洗練されていた。
 相手のウォーウルフは、レベル十九に設定されている。

 その相手に、多少ダメージは受けながらも、リーチのある長い柄と刃で優位に戦っていた。
 デッドロックさんはウォーウルフを圧倒している。
 つまりは、そのレベル値を超える力を持っているということだろう。
 口が達者なだけではないらしい。

 因みにこのウォーウルフは、結構頻繁に出現するので、能力値はガッチリと書き固められている。

 名前 :ウォーウルフ
 レベル:19
 HP :65
 MP :0
 力  :60
 速  :70
 大  :210以下
 危険度:3
 技  :突進からの噛みつき。(ウォーバイト)
     突進からの爪    (ウォークロウ)

 備考:灰色の毛並みと金の瞳が特徴的。
    すばしっこく動く。
    群れでの行動が多く、一体見かけたら周りに注意が必要。
    今の所物理攻撃しか見た者は居ない。

 資料としては、だいたいそんな所である。
 戦いを見続けるも得に書き加える情報も無く、もうそろそろ決着がつきそうだ。

「これで、終いだぜ!」

 大きく口を開いて跳びかかるウォーウルフに、デッドロックさんの鎌が合わされている。
 下から上へと鎌を振り、ちゃんと一人で勝ってしまった。

「おし、先に進むとしようぜ」

 このぐらいは普通だと言わんばかりに、デッドロックさんはこちらに歩いて来る。

「ふ~ん、中々やるもんね?」

 一応その実力を、ファラさんも認めたようだ。

「それじゃあ先に進みましょう。野宿なんて嫌ですから」

 僕達は地図を見て歩き出す。
 意外と多くの魔物を倒しながら、ベイビードラゴンの居るであろう洞窟の前に到着した。


 山の麓にある洞窟の入り口は、大きな大人のドラゴンが通れるものではない。
 ベイビードラゴンが単独で潜り込んでいるのは間違いなさそうだ。
 因みに、強者であるドラゴンが洞窟に居るとなると、かなり広くなければ他の魔物は寄っては来ない。
 この洞窟は長くもないので、ドラゴンは一体しか居ないはずだ。

「はぁ、高い山頂とかになくてよかったですね。皆が移動で疲れちゃう所でしたよ。でも僕は疲れたので一回休憩しませんか?」

 僕は意見を聞くことなく、洞窟の入り口の岩場で腰を下ろした。

「クー、あんた私よりレベル高いくせに、へばってるんなないわよ」

 ファラさんは、冒険者レベルの話を持ち出して来る。

「何、お前が? 冗談言っちゃあいけねぇぜ。だったらもうちょっと活躍しているはずだろう。これじゃあお荷物じゃねぇか」

 デッドロックさんにもお荷物扱いされているようだ。

「残念ながら本当なのよね。冒険者カードが発行されだしてから最初期に作ったんだから、もうレベル三十は超えてるわよね?」

 随分上のレベルに見てくれているけど、まだ三十には届いていない。

「いやいや、まだ二十九ですね。ですけど測量士のレベルがそれだけ上がったとしても、前衛職の半分にも満たないんですから仕方ないじゃないですか。レベルが上がったって一人で戦う事も出来ないんですよ? ファラさんの力なんて僕の倍以上あるでしょうに」

「私が筋肉馬鹿みたいに言わないでくれないかしら。次言ったらはっ倒すわよ」

 ファラさんが少し怒ってしまった。
 フォローしとくべきだろうか?

「いや僕はそんな事思ってません。ファラさんってお綺麗じゃないですか……あいた!」

 ファラさんからビュンと平手が飛んで来て、僕は普通に頬をビンタされてしまった。
 僕は真剣に言ったつもりなのに、揶揄ってるとでも思われたのだろうか?
 何て理不尽な。

「次言ったらはっ倒すって言ったわよね?」

「僕は誉めたつもりなんですけど……」

「ハッハッハ、坊主、災難だったな。女心と秋の空ってやつだ。気にせず次の機会を狙うんだな。ま、それより、万全にしとくのは悪くねぇだろう。俺は休むのには賛成だぜ」

 デッドロックさんには笑われてしまったけど、休憩には賛同してくれたようだ。

「ふう、仕方がないわね。二人共軟なんだから」

 ファラさんも納得し、休憩を始めた僕達は、お互いの能力値を確認している。
 ファラさんは二十三、デッドロックさんが二十二、そして僕のレベルが二十九。
 だが二十九と言っても、後衛職に分類される測量士だ。

 使える技も無ければ、あのホーンスライムに吹き飛ばされるぐらいには弱い。
 あまりにも能力が上がらないから、もうお情けでレベル値を付けられているんじゃないかと思うほどだ。

 敵のレベルが下でも、それは前衛職としてのものなのだ。
 後衛である僕には関係のないことである。

 で、隣に居るファラさんの職業は、相棒である僕は普通に知っている。
 ウェポンテイマーというもので、あらゆる武器に精通し、例えペンの一本や紙の一枚でも刃に変える力を持つらしい。
 僕の護衛を任されているというのに、防御の力はまるで持っていない。
 攻撃専門の職業である。

 デッドロックさんは、ナイトトルーパーと呼ばれる職業だと言っている。
 手に持っている鎌を扱うのに特化し、動きの素早さには定評がある職業だ。
 リーチを生かした攻撃と、回避。
 ダメージを食らわないというスタンスらしい。

 つまり、何方も護衛なのに護衛をしてくれない職業である。
 二人共、紙の盾ではあるけれど、まあ居ないよりはマシなのだろう。
 話を終えた僕達は、休憩を終えて立ち上がる。

「じゃあ休憩も終わりましたし、そろそろ行きましょうか」

「あんた最初はあんなに嫌がってたのに、随分余裕そうよね?」

 ファラさんが不思議がっている。

「戦力がなければ怖いですよ。でも今は戦力が充実していますから、特に怖がる理由がありません」

 僕は正直に打ち明け。

「へ~、そうなの?」

 ファラさんも背伸びしながら立ち上がった。

「ハッハッハ、坊主も中々面白いな。まっ、やる気があるのはいい事だ。じゃあ行って退治してやろうじゃねぇか」

 デッドロックさんはやる気を見せて立ち上がる。
 でもちょっと勘違いをしているようだ。
 僕達の仕事を教えてあげよう。

「えっ? 僕達は退治はしませんよ。あくまでも調べるだけで、後は冒険者に任せる事にしていますからね」

「新種の体力値を測ったり、逃げられ無くてしかなくとかならあるけど、まあ、即逃げが基本よね。倒すにしても全部の数値を測った後だし」

 僕とファラさんの説明に、デッドロックさんはやる気を削がれたらしく、肩を落とした。

「はぁん? そりゃあ俺には向かねぇ仕事だ。今回はいいが、次からは別の奴を雇ってくれや」

「あはは、嫌だというなら無理に誘ったりはしませんよ。じゃあ本番ですよ。行ってみましょうか」

 僕は置いてあったリュックを背負う。

「ええ行きましょう」

「おうよ!」

 休憩を終えた僕達は、もう一度やる気を出し、洞窟の中へ入って行く。
 内部は調べられた通りで、直ぐに奥の広場が見えて来た。
 でもその場所に踏み入れる前に、ベイビードラゴンがこちらに向かって威嚇してきている。
 魔物であれ動物であれ、気配を感じ取るのはままあることだ。
 一応覚えておくとしよう。

 そしてベイビードラゴンだが、色はグリーンとオーソドックスなタイプらしい。
 サイズ感としては、スリーと呼ぶのはギリギリなレベルだ。
 体長四メートルに近い。

 これ以上だと名前がリトルドラゴンになりそうなほどだ。
 何方にしてもドラゴンの情報は殆ど無いし、調べる意味はある。
 とりあえず、目視ではサイズ感が分からないから、映し鏡の魔法で後々判断するとしよう。

「じゃあ俺が奴を引き付けておいてやるよ!」

「あんたに出来るの?」

「俺を舐めんなよ。あんな奴ぐらい余裕よ余裕!」

「あっそ、じゃあ任せた」

 ファラさんは剣を、デッドロックさんは鎌を構えている。
 戦闘準備完了という所だろう。
 跳び出して行く二人に、僕は手を振り見送ることにした。

「じゃあ二人共、行ってらっしゃーい」

「くっ、この瞬間だけはムカつくわ!」

「若いな嬢ちゃん、護衛なんてそんなもんだよ!」

 二人に文句を言われてしまうけど、前に出る職業じゃないのだから仕方がない。
 二人が戦っている間に、僕は準備を始める。
 まずはドラゴンの姿をボードに写し取ろうと、ボードをドラゴンに向けるのだけど。
 二人の動きが邪魔で全部を映すことが出来ない。

「あのちょっと、ドラゴンが隠れるからちょっと退いてくれません?」

 僕は戦闘中の二人に指示を出した。

「はぁ?! こんな戦闘時に何言ってるんだ?! 簡単に言うな!」

 デッドロックさんは、向かって来るベイビードラゴンの爪を躱している。
 隙をつき、鎌を当てた。

「これが仕事なのよ、我慢するのね」

 ファラさんは、振り回されるベイビードラゴンの尻尾を躱し、剣を当てる。
 しかし二人の剣は、かたい鱗に弾かれている。
 ベイビードラゴンの攻撃は、どれもこれも威力が高そうだ。

 振り回される尻尾や爪の攻撃は、直撃したら一発で倒されそうだ。
 攻撃力や防御力も高くて、これで炎も吐くのだろう。
 僕達の戦力では倒す手はない。

 力を調べようとキューブを使おうにも、手で持っていたら僕まで死ねそうである。
 別の方法を考えなければ。
 考えながら二人が退くのを待ち続けていると、やっとその時が来たらしい。
 二人はタイミングを見てドラゴンから離れている。
 今がチャンスだと、僕は白いボードを向け呪文を唱える。

「映し鏡よ、彼の姿を写したまえ」

 ボードにはドラゴンの姿が写し出された。
 僕はそれを見て、しっかりと全身像が写しこまれていると確認した。

「ふう、やっと一つ目の作業が終わった。じゃあ二人共、頑張って戦ってください!」

 戦い続ける二人に、僕は応援の声を飛ばすのだけど。

「やってるから黙ってなさい!」

「グォ、テメェ! あぶねぇだろうが!」

 二人共もう戦いを始めていたらしい。
 またベイビードラゴンに武器を当て、ダメージを与えようとしているけど、あまり効果はないようだ。
 しかし、ベイビードラゴンの速度は確認できていた。
 これで一つの項目が埋められる。

 じゃあ僕も他の準備を進めようと、荷物から棒を取り出し、洞窟の地面に突き立てた。
 なるべく広い範囲で四本の棒を設置し、この広場に四角いフィールドを作りあげる。
 因みに、棒はただの木の棒である。
 今から始めるのは、測量士の魔法である。

「さてと、もうそろそろかな? え~っとなんだっけ? ……結界の内なる炎よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」

 ベイビードラゴンは炎を吐く……かもしれないから準備したのだ。
 二人に攻撃され、自分の攻撃も中々当たらないからもうそろそろ……。

「息で体が膨れ上がっている。おい、炎がくるぞ! 退避、退避だ!」

 正面に立つデッドロックさんは、ドラゴンの動きを見極めていた。

「あ、まだ逃げなくても大丈夫で~す」

 逃げようとするデッドロックさんを、僕は静止した。

「何を言って、うをおおおお?!」

 逃げるタイミングを失ったデッドロックさんは、炎の直撃を受けそうになっている。
 ドラゴンの口から炎が溢れ、そして勢いよく噴射してきた。
 しかしその場所は、僕の創り出したフィールドの内側なのだ。
 炎は僕が造り出したフィールドに流れ、数値となってその温度を示す。

 四百度、
 それがこの炎の温度である。
 冷炎と呼ばれる部類のものだ。

 力も技も持っていない測量士が出来る事と言えば、相手の魔法を数字に変えるというものである。
 ただし、属性を合わせないといけないので、相手が何を使うか知らなければ使えないのだけど。
 ドラゴン、イコール炎ってぐらい単純なものでないと、準備して使うのは難しいのだ。
 それと、いちおう物理攻撃には効果がない。

 因みに熱さはなくなり、炎は数字の岩になって落ちて来るだけだ。
 結構大きいのでぶつかったら危ないかもしれない。

「うをお、あぶなっ! ってなんだこりゃ?!」

 デッドロックさんは、空から落ちる大岩にビックリして避けている。
 うごかなければ当たらないのだけど。

「測量士の魔法って奴よ。炎を数字に変えるんだから出鱈目よね。それは兎に角、知りたい事はだいたい知れたでしょ? もうそろそろ逃げたいんだけど」

 ファラさんは攻撃を躱しながら、退却を求めている。

「え~っと、あとは力の値ぐらいですけど、キューブで調べるのは困難でしょうね。お二人共、これを盾として使ってみます?」

 僕はリュックから攻撃地を測るキューブを取り出し、軽く言ってみるのだけど。

「嫌よ!」

「俺もだ!」

 二人共嫌がっている。
 かなりのリスクがあるから当然だろう。

「ん~? じゃあどうしようかな? あ、思いついた」

 僕はキューブを持ち、相手の攻撃に合わせて投げつけた。
 ドラゴンの尻尾によりキューブは打ち返されて、かなり勢いよく僕の近くを抜けて行く。

「こわ~!」

 キューブは壁に当たり、地面に落ちている。
 僕はそのキューブを拾い上げて、なんとなく力の数値を思い浮かべる。
 それは後で書き込むとして、後は無事に撤退をしなければならない。
 戦っていてもどうせ勝てないから。

「二人共、撤退しましょう! ほら走って。走って!」

 僕は二人に指示を飛ばす。

「ク―、退却は任せるわよ!」

「もう準備はできています」

 ファラさんがこちらに逃げて来る。
 あとはもう一人。

「なんだ、何か有るのか? クソッ、任せるしかないようだな。俺も撤退するぞ!」

 デッドロックさんは攻撃を諦め、全力で逃げ出して来る。
 二人が僕の横を抜けると、ベイビーとはいえドラゴンもそれを追い掛けて来る。
 普通ならどうやっても敵わないドラゴンだが、今の僕は少し違う。

 測量士は力もない後衛である。
 しかし、数字を得た測量士は少し違う。
 使うのは、魔法で作られたのは四百という数字である。
 この数字は僕の力になる。

 自身に力をプラス二百五十。
 速度をプラス七十五。
 強化秒数を七十五秒。
 合計四百。

「よいしょおおおおおおおお!」

 襲い掛かって来る大きなドラゴンを力で地面に押し付け、秒数を数える。
 暴れだすドラゴンを押さえながら三十秒。
 もう二人の姿が見えなくなっている。

 そろそろいいかも知れないと、地面に押さえこんだドラゴンを持ち上げると、奥の壁に向かってぶん投げた。
 死んではいないが、かなりのダメージを受けている。
 これで四十五秒。

 残りはたった三十秒。
 数字の力が無くなれば、一転して元々より弱体化してしまう。
 パワーアップできたとしても、これは仲間が居なければ扱えない不安定な力だ。
 決して前衛のものではない。

 壁にぶつかったベイビードラゴンは、まだ体勢を立て直そうと僕を睨んでいる。
 じゃあ距離も開いたし、早速逃げさせてもらうとしよう。

「じゃあさようならああああああああああ!」

 追い掛けてこようとするドラゴンを軽く振り切り、僕は逃げ続けて仲間へと追い着いた。

 今回の成果。

 名前 :ベイビードラゴン・タイプ・スリー
     またはリトルドラゴン成りたて。
 レベル:30
 HP :まだ不明だけど200以上は有ると思われる。
 MP :0
 力  :150
 速  :70
 大  :400以下か400以上かは不明。
     映し鏡の魔法で判断願う。
 危険度:5
 技  :400度の炎を吐く。
 備考 :防御力は相当高い。
     レベルや力が足りないとダメージも与えられない。
     対策には強力な武器が必要。
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