翠の桜

れぐまき

文字の大きさ
上 下
13 / 43

7

しおりを挟む

「そろそろきちんと返事を返してくださってもよいのではありませんか?」

部屋に入って来るなりいつもの軽口もなくそう言われ、私は首を傾げた

「何のことでしょう?」

問うと彼は眉をしかめる

「文の返事に決まっているでしょう」

「文…?」

文の返事なら毎回ちゃんと返している
…確かに時間はかかっているがそこは大目に見てほしい
そう伝えると彼は眉間の皺をさらに深くした

「…貴女、私の話を理解していないのですね」

呆れを含んだ声音で言われてむっとする
業平殿はため息をついて言葉を続けた

「私が言っているのは“いい返事”が欲しいという意味です」

「いい返事…?」

「貴女から帰ってくるのは私の求婚をかわすものばかり
私達は既に認められた婚約者同士なのですよ?
そろそろ了承の返事をいただかないと先に進めないでしょう」

「さき・・・?」

「…契りを交わすという事ですよ」

「・・・・・・・・・・・なっ!?ちぎ…!?なんて事を言うんですか!?!?破廉恥な!!」

思わず声を荒げるが、彼は動じない
それどころかにやりと見慣れた笑みを浮かべた

「何を言っているんですか?夫婦になるという事はそういうことでしょう…まさか知識がない訳ではないですよね?」

からかうような声音

確かに知識がないわけではない
女房やお姉さま方からその手の教育は受けている
だが自分の身に起こるとなると話は別だ

それも幼い頃から兄弟のように育ってきた業平殿が相手など・・・

顔が燃えるように熱い
おそらく私の顔は真っ赤だろう
彼の笑顔が憎たらしい
キッ!と睨み付けると綺麗な笑みで返される

「恥らう姿も可愛らしいですが、私もそんなに長い間待って差し上げられるほど余裕がないんです。早々に覚悟を決めてください」

「か、覚悟・・・?」

「あぁ、無理なら無理でも構いませんよ?少々強引になりますが、不可能でもないですし」

「な!?さっきと言っていることが違うじゃないですか!!」

「気にしないでください」

「気にします!!」

「ま、そういうことですから」

「どういうことですか!?!?」

「そういうことです」

立ち上がる業平殿

「では今日はこれで。次は満月の夜に参ります
それまでに覚悟を決めていてくださいね」


そういって去っていく彼

次の満月の夜って…




明後日じゃなかったっけ・・・?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

紫の桜

れぐまき
恋愛
紫の源氏物語の世界に紫の上として転移した大学講師の前世はやっぱり紫の上…? 前世に戻ってきた彼女はいったいどんな道を歩むのか 物語と前世に悩みながらも今世こそは幸せになろうともがく女性の物語 注)昔個人サイトに掲載していました 番外編も別に投稿してるので良ければそちらもどうぞ

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...