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蕾
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しおりを挟む「っ!?」
差し出した手を掴まれ、驚いて手を引くとそのまま御簾が捲られて業平殿が入ってきた
一瞬の出来事に理解が追いつかず、ぽかんと遮る物がなくなったためにはっきりと見える彼を見つめる
「おや、そのような瞳で見つめてくるなど…ずいぶん大胆ですね」
からかうように言われ、慌てて手を振り払い、背を向けて扇で顔を隠した
頭の中は混乱状態
何?
何で入ってくるの?
こんなこと、彼が元服してからは一度もなかったのに・・・
動揺する私とは裏腹に、余裕ありげに口を開く
「何故顔を隠すのですか?
夫婦なのですからそのようなことをしなくともよいのでは?」
「ま、まだ結婚してませんもの!」
「近いうちにそうなるのですよ?
同じようなものです」
楽しそうに言いながら扇を奪う彼
抵抗もむなしく簡単に扇は彼の手の中に渡った
唖然とする私を見て更に笑みを深めた業平殿の手がこちらに伸びてくる
そして―・・・
「・・・・・・え、え?」
気が付けば私の身体は温かく大きいものに包まれていた
自分のものではない香がほんのり香る
少し顔を上げると悪戯っぽい表情をした業平殿の顔が、触れそうなほど近くにあった
「っ!?」
顔に熱が集まり、どくどくと体中が波打っている感覚が襲う
「おや、どうしました?
口をパクパクさせて…池の鯉のようですよ?」
「!?っ~!!」
いつものような憎まれ口を叩かれたが、言い返すことが出来ない
悲しくもないのにじわりと目が潤んだ
せめてもの抵抗としてキッと睨みつけてみるが効果があるのかは分からない
「・・・まぁ、今はこれくらいにしておきましょうか」
ぼそりと呟かれて身体が離された
「さて、今日はもうお暇しますね
また参ります」
「・・・は、い」
なんとかそれだけ答えた私に、彼は笑みを残して去っていった
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