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恋愛編
103
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太陽が真上に上る少し前の、まだ比較的涼しい時間帯
俺とセシリアは朝に決めた通り、数人の護衛騎士とメイドを連れて湖の周りの森にやってきた
森特有の自然の薫りをすーっと吸い込んで深呼吸をしたセシリアが、俺にふわりと笑顔を向ける
「いい天気ですねぇ」
「あぁ、そうだな」
「水辺のせいか涼しくて気候もちょうどいいですし、とてもいい気持ちです
ずっとここにいたいくらい…」
呟くようにそう言って、木々の間から漏れる日の光を眩しそうに見つめた
囀ずる鳥や野に咲く小さな花を見つけるたびに柔らかい微笑みを浮かべ、側によって穏やかに観察している
森の散策を楽しんでいる様子の彼女に、俺はほっと息をついた
よかった
昨日と今日の反応から考えて、この離宮に来た最大の目的
《彼女を楽しませ、喜ばせたい》というものは達成したと思っていいだろう
そして、第二の目的
《彼女と俺の距離を縮める》というものも、今のところ順調だと思ってもいいのではないだろうか
あとは最後の目的…というか目標であり、最大の難関
《彼女と腕を組む》さえ達成でにれば完璧なのだ
問題はどうやって腕を組むかだ
彼女の性格から考えて、ローズマリーのように自分から積極的に来てくれることはまずないだろう
ならば俺から誘わなければならないのだが…
はたして俺にそんなことが出来るのか
何かきっかけでもあればいいんだが…
そんなことを考えつつ目的地の広場に向かって森を進む
チャンスを伺うように隣を歩くセシリアを横目でみやると、同時に彼女が小さく声を上げた
「ぁっ!」
「!」
ぐらりと彼女の体が傾ぐ
どうやら地面から飛び出ていた木の根に足をとられたらしい
後ろからついてきていた護衛の騎士達が動くよりも早く、咄嗟に手を伸ばして彼女を抱き止めた
「…大丈夫か?」
「ぁ…はい…
申し訳ございません」
支えたまま体制を整えてやると、セシリアはすぐに離れて頭を下げる
「殿下こそお怪我はございませんか?」
「あぁ、大丈夫だ
だが、そうか。女性が歩くには少し足元が悪い場所だったな…」
言いつつ、ハッとした
もしかしてこれは俺が伺っていたチャンスなのでは…!?
そうと気づいたなら誘わなければ!
「…」
おい、何をしている
せっかくのチャンスだ
支えるという名目で腕を組めばいいじゃないか!
頭の中で自分が喚いている声が聞こえる
わかっている
わかっているんだ
だが、緊張してしまって言葉が出てこないのだ
「…?」
黙ってしまった俺をセシリアが不思議そうに見つめている
「…」
言葉を探して彼女から目をそらすと、後ろにいた騎士達が視界に入った
手をパタパタと動かして何か俺に伝えようとしているようだ
なんなんだ?俺は今忙しいんだ
…ん?待てよ
…ジェスチャー…
…それならできる!
ハッと気がついてセシリアに向かって腕を付き出した
「…?」
首をかしげるセシリア
「…捕まれ
足元が悪い。手でエスコートするより腕に捕まった方が安定するだろう」
勢いのままにそう言えば、彼女は一瞬目を瞬く
「…ぇっと、ありがとうございます
…では、失礼して…」
そう告げて彼女の手が俺の腕にかかる
俺はそれに満足し、再び歩き始めた
俺とセシリアは朝に決めた通り、数人の護衛騎士とメイドを連れて湖の周りの森にやってきた
森特有の自然の薫りをすーっと吸い込んで深呼吸をしたセシリアが、俺にふわりと笑顔を向ける
「いい天気ですねぇ」
「あぁ、そうだな」
「水辺のせいか涼しくて気候もちょうどいいですし、とてもいい気持ちです
ずっとここにいたいくらい…」
呟くようにそう言って、木々の間から漏れる日の光を眩しそうに見つめた
囀ずる鳥や野に咲く小さな花を見つけるたびに柔らかい微笑みを浮かべ、側によって穏やかに観察している
森の散策を楽しんでいる様子の彼女に、俺はほっと息をついた
よかった
昨日と今日の反応から考えて、この離宮に来た最大の目的
《彼女を楽しませ、喜ばせたい》というものは達成したと思っていいだろう
そして、第二の目的
《彼女と俺の距離を縮める》というものも、今のところ順調だと思ってもいいのではないだろうか
あとは最後の目的…というか目標であり、最大の難関
《彼女と腕を組む》さえ達成でにれば完璧なのだ
問題はどうやって腕を組むかだ
彼女の性格から考えて、ローズマリーのように自分から積極的に来てくれることはまずないだろう
ならば俺から誘わなければならないのだが…
はたして俺にそんなことが出来るのか
何かきっかけでもあればいいんだが…
そんなことを考えつつ目的地の広場に向かって森を進む
チャンスを伺うように隣を歩くセシリアを横目でみやると、同時に彼女が小さく声を上げた
「ぁっ!」
「!」
ぐらりと彼女の体が傾ぐ
どうやら地面から飛び出ていた木の根に足をとられたらしい
後ろからついてきていた護衛の騎士達が動くよりも早く、咄嗟に手を伸ばして彼女を抱き止めた
「…大丈夫か?」
「ぁ…はい…
申し訳ございません」
支えたまま体制を整えてやると、セシリアはすぐに離れて頭を下げる
「殿下こそお怪我はございませんか?」
「あぁ、大丈夫だ
だが、そうか。女性が歩くには少し足元が悪い場所だったな…」
言いつつ、ハッとした
もしかしてこれは俺が伺っていたチャンスなのでは…!?
そうと気づいたなら誘わなければ!
「…」
おい、何をしている
せっかくのチャンスだ
支えるという名目で腕を組めばいいじゃないか!
頭の中で自分が喚いている声が聞こえる
わかっている
わかっているんだ
だが、緊張してしまって言葉が出てこないのだ
「…?」
黙ってしまった俺をセシリアが不思議そうに見つめている
「…」
言葉を探して彼女から目をそらすと、後ろにいた騎士達が視界に入った
手をパタパタと動かして何か俺に伝えようとしているようだ
なんなんだ?俺は今忙しいんだ
…ん?待てよ
…ジェスチャー…
…それならできる!
ハッと気がついてセシリアに向かって腕を付き出した
「…?」
首をかしげるセシリア
「…捕まれ
足元が悪い。手でエスコートするより腕に捕まった方が安定するだろう」
勢いのままにそう言えば、彼女は一瞬目を瞬く
「…ぇっと、ありがとうございます
…では、失礼して…」
そう告げて彼女の手が俺の腕にかかる
俺はそれに満足し、再び歩き始めた
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