50 / 125
恋愛編
49
しおりを挟む
殿下がチョコレートを一つ取って口に運ぶ
「ん…美味いな」
「……本当ですか?」
「あぁ
うん…こっちのクッキーもいいな。ワインが飲みたくなる味だ」
「チーズですものね
お口に合いましたか?」
「もちろん」
「よかったです、安心しました」
「もしよければ、また時間があるときに作ってくれないか?」
「はい、畏まりました
次は何を作りましょう…
殿下は何か好きなものはございますか?」
「リクエストを聞いてくれるのか?
そうだな…」
和やかに会話を交わしながらも、私は思考を巡らせていた
最近、殿下の様子がおかしい気がする
詳しく言うならば、私がゲームの記憶を取り戻してからだ
あの日から、口ごもったり目をそらしたり、黙り混んだり慌てたり、急に不機嫌になったり…かと思えば笑って、いきなり私を昔の愛称で呼んでみたり、今みたいに上機嫌で話してみたり…
正直、情緒不安定だと思う
前はもう少し落ち着いておられたと思うのだけど…
これほど感情を表に出されることもなかったような…
自分の知っているアルベルト皇太子殿下という人間は、穏やかな笑顔で面倒がらずに年下の私の話し相手をしてくれる、親切な少年
加えて、貴族の間で流れる噂でも勉学に励む優秀な皇太子だと評判だった
もっとも、それは昔の話であり、本人ともそれほど親しくしていなかったためここ数年のことはわからないのだが…
この数年の間に何かあったのかしら…?
…そう言えば、昔とは言葉遣いも少し変わられたような…
考えるが、殿下の思考も気持ちも全くわからない
…次に帰省する時は、積極的に社交場に出て情報収集しなくてはいけないわね…
学生という身分に胡座をかき、貴族の勤めを疎かにしていたのがいけなかった
幸い、もうすぐ冬季の長期休暇がやってくる
そこで最近の殿下や、殿下の周囲の噂を集めることにしよう
私は紅茶を飲みながらそう心に決めた
________________________________________________
楽しい時間派の過ぎるのが早い
久しぶりにセシリアと終始和やかな時を過ごし、気がつけばずいぶん時間がたっていた
遠慮して一人で帰ろうとする彼女を少し強引に寮まで送り、今は自室への道を歩いている
今日はいい日だった
先日は偶然とはいえ、俺よりも先にレオナルドが彼女の手作りの菓子を食べたことが面白くなく、今日は俺にも作ってくれるよう頼もうと思って呼び出したのだ
だがまさか先回りして持ってきてくれるとは…
嬉しさに固まっていたら危うく誤解されそうになったが、その誤解が解けた上に自分の気持ちを伝えることもできたので、結果としてはよかったと思う
彼女が自分のために作ってくれた菓子を食べ、語らいながら穏やかな時間を共に過ごす
これぞまさに理想の婚約者同士だ
口許を緩め、満足気に一つ頷く
これからも積極的に二人で過ごす時間を作っていこう
そして開いてしまった距離を少しずつ埋めていければ…
顔を綻ばせながら帰路をたどっていると、後ろから声がかけられた
「アルベルト」
「…レオナルド?」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべた友人が近寄ってくる
「休日に外に出るなんて珍しいね
どうしたの?」
「部屋にセシルを招いていたんだ
今は送りに出てきて、帰るところだ」
答えるとレオナルドがわずかに驚いたような表情をする
「セシリア嬢を?」
「あぁ」
「ふーん…そっかぁ」
意味深に呟くレオナルドに俺は眉を寄せた
「何か言いたげだな?」
「ん?いや?仲がいいようで羨ましいなぁと思ってね」
いつもと変わらないレオナルドの笑顔
しかし、今日はその笑みがどことなく胡散臭く見えた
「ん…美味いな」
「……本当ですか?」
「あぁ
うん…こっちのクッキーもいいな。ワインが飲みたくなる味だ」
「チーズですものね
お口に合いましたか?」
「もちろん」
「よかったです、安心しました」
「もしよければ、また時間があるときに作ってくれないか?」
「はい、畏まりました
次は何を作りましょう…
殿下は何か好きなものはございますか?」
「リクエストを聞いてくれるのか?
そうだな…」
和やかに会話を交わしながらも、私は思考を巡らせていた
最近、殿下の様子がおかしい気がする
詳しく言うならば、私がゲームの記憶を取り戻してからだ
あの日から、口ごもったり目をそらしたり、黙り混んだり慌てたり、急に不機嫌になったり…かと思えば笑って、いきなり私を昔の愛称で呼んでみたり、今みたいに上機嫌で話してみたり…
正直、情緒不安定だと思う
前はもう少し落ち着いておられたと思うのだけど…
これほど感情を表に出されることもなかったような…
自分の知っているアルベルト皇太子殿下という人間は、穏やかな笑顔で面倒がらずに年下の私の話し相手をしてくれる、親切な少年
加えて、貴族の間で流れる噂でも勉学に励む優秀な皇太子だと評判だった
もっとも、それは昔の話であり、本人ともそれほど親しくしていなかったためここ数年のことはわからないのだが…
この数年の間に何かあったのかしら…?
…そう言えば、昔とは言葉遣いも少し変わられたような…
考えるが、殿下の思考も気持ちも全くわからない
…次に帰省する時は、積極的に社交場に出て情報収集しなくてはいけないわね…
学生という身分に胡座をかき、貴族の勤めを疎かにしていたのがいけなかった
幸い、もうすぐ冬季の長期休暇がやってくる
そこで最近の殿下や、殿下の周囲の噂を集めることにしよう
私は紅茶を飲みながらそう心に決めた
________________________________________________
楽しい時間派の過ぎるのが早い
久しぶりにセシリアと終始和やかな時を過ごし、気がつけばずいぶん時間がたっていた
遠慮して一人で帰ろうとする彼女を少し強引に寮まで送り、今は自室への道を歩いている
今日はいい日だった
先日は偶然とはいえ、俺よりも先にレオナルドが彼女の手作りの菓子を食べたことが面白くなく、今日は俺にも作ってくれるよう頼もうと思って呼び出したのだ
だがまさか先回りして持ってきてくれるとは…
嬉しさに固まっていたら危うく誤解されそうになったが、その誤解が解けた上に自分の気持ちを伝えることもできたので、結果としてはよかったと思う
彼女が自分のために作ってくれた菓子を食べ、語らいながら穏やかな時間を共に過ごす
これぞまさに理想の婚約者同士だ
口許を緩め、満足気に一つ頷く
これからも積極的に二人で過ごす時間を作っていこう
そして開いてしまった距離を少しずつ埋めていければ…
顔を綻ばせながら帰路をたどっていると、後ろから声がかけられた
「アルベルト」
「…レオナルド?」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべた友人が近寄ってくる
「休日に外に出るなんて珍しいね
どうしたの?」
「部屋にセシルを招いていたんだ
今は送りに出てきて、帰るところだ」
答えるとレオナルドがわずかに驚いたような表情をする
「セシリア嬢を?」
「あぁ」
「ふーん…そっかぁ」
意味深に呟くレオナルドに俺は眉を寄せた
「何か言いたげだな?」
「ん?いや?仲がいいようで羨ましいなぁと思ってね」
いつもと変わらないレオナルドの笑顔
しかし、今日はその笑みがどことなく胡散臭く見えた
1
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~
柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。
大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。
これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。
※他のサイトにも投稿しています
転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!
アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。
その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。
絶対火あぶりは回避します!
そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。
当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。
私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。
だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。
そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。
だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。
そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。
悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~
可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】婚約破棄をして処刑エンドを回避したい悪役令嬢と婚約破棄を阻止したい王子の葛藤
彩伊
恋愛
乙女ゲームの世界へ転生したら、悪役令嬢になってしまいました。
処刑エンドを回避するべく、王子との婚約の全力破棄を狙っていきます!!!
”ちょっぴりおバカな悪役令嬢”と”素直になれない腹黒王子”の物語
※再掲 全10話
白丸は悪役令嬢視点
黒丸は王子視点です。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる