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本編

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黙り込んだヒロインに、私たちも一緒に黙り込む

言っておくが、この場にいる誰も本気で彼女が殿下を暗殺しようとしたなんて思っていない
彼女はただ頭が足りないだけ
好意を寄せている殿方へのアタックの仕方がだいぶ間違っているだけだと、全員がそう認識している

それをわかっていながら暗殺未遂だ拘束だと騒ぎ立てたのは、あまりにも無礼が過ぎるのと、何を言っても聞き入れない彼女に、そうとられても仕方ないことをしたのだと、次はないと教えるためだった
はずなのだが…

「な、なにいってんのよ…
く、クスリなんて
い、いれるわけないじゃない…
バカじゃないの…?」

言いながらもせわしなく目を泳がすヒロインに、思わず顔がひきつる

…いやいや、あやしすぎるわ…

そう思ったのは彼女を拘束している彼らも同じだったのだろう
第一騎士団長の息子、フランツ・モンティスが困惑したような視線を送ってきた

あぁ…ここで私が狼狽えるわけにはいかないわ

そう思い、内心では同じく困惑しながらも平静を装って口を開く

「言い訳は結構
フランツ、国の騎士団と連絡を取って彼女を引き渡しなさい
そのバスケットの中身も調べさせて」

努めて冷静な声を出すよう意識しながら指示を出す
フランツが頷いて拘束していた生徒達に彼女をつれていくよう声をかけた

「ちょっと、やめて!放してよ!」

可愛らしい顔を強張らせ、キーキーと騒ぎながら連行されていった彼女の後ろ姿を見送り、残っていた騎士科の生徒に私が氷らせて砕け散ったサンドイッチも一緒に持っていくように頼む
全て回収されて運ばれていったのを確認してから、全ての出来事を静観していた殿下方に向き直った




「まずは…
お食事中にお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」

深々と礼をするセシリアに、レオナルドが苦笑しながら答える

「大丈夫だよ、むしろ助けられたね
ありがとう」
「ですが、我が国の者がレオナルド様にまでご無礼を…」
「ホントにいいって
セシリア嬢が彼女をなんとかしようとしてたのは、よくわかってるからさ」
「ですが…結果を出せず…」
「いやいや、それこそセシリア嬢のせいじゃないよ
あれは誰もどうにもできないさ」

なかなか強烈な子だったねと笑うレオナルドに、もう一度礼をしてから今度はこちらを向いた

「殿下…私が至らないばかりに…
申し訳ございません…」

眉を下げ、しょんぼりとしたような雰囲気でそう告げるセシリアに頬が熱をもつのを感じる

八つ当たりをしてしまったあの日以降、彼女が自分の前で感情を見せることはなくなっていた 
だが、婚約発表の日に倒れかけて以来
またうっとりしたり、笑ったり、今みたいに悲しげな表情をしたりするようになった
彼女なりにもう一度歩み寄ろうとしてくれているのだろう

それは嬉しいし、ありがたいと思う
将来共に国を導く相手とは、やはりそれなりの関係を築いていたいから
そして何より、整いすぎた容姿と完璧すぎる振る舞いのせいで冷たく見える彼女が、そうやって感情を表していると…

やっぱり、かわいい、な…

幼少時から好感は持っていたのだ
アル様アル様と慕ってくれるのが心地よく、淡い恋情を抱いていたりもした
だからこそ、彼女に負けることが受け入れられなかった

開いてしまった距離感のせいで、風化してしまったと思っていた恋心
それが彼女からの歩み寄りによって再び動き出そうとしているようだ
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