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本編

10(回想)

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レオナルドから話を聞いた後
やるせない思いに襲われ、練習場に行く気になれなかったアルベルトは、気分がすぐれないと伝えて彼と別れて落ち着くために人気のない裏庭を歩いていた

しかし、その間も先程の話題について考えることをやめられない

セシリアが優秀なのはあの湖を凍らせた時から知っていたはずだ
そのはずなのに、もやもやした感情が次々と沸いてきて収まらない

俺が2年かけてもクリア出来なかったことを、たった数ヶ月でクリアしてしまったのか…

ぐっと唇を噛み締める

これが自分と近しい者でなければ、レオナルドと同じくすごい奴がいるものだと思うだけてすんだだろう
それどころか、自分の国の出身だと知れば、そんな優秀な人物が自国から出たことを誇りに思ったかもしれない

セシリアだからこれほどまでに感情が乱れてしまうのだ

自分を慕ってくれている、かわいい年下の少女
大事な幼馴染みで、婚約者候補のセシリアだからこそ

負けたくなかった
敗けを認めたくなかったのだ

敗北感、嫉妬心、虚無感、情けなさ…
様々な負の感情が渦巻き、アルベルトを襲う

そんな感情に飲み込まれそうになり抗おうと強く目をつぶった瞬間

「アル様?」

聞きなれた、しかし今一番聞きたくなかった声が自分の名を呼んだ

声の方をゆっくりと振り返る
そこには予想していた通り、年下の幼馴染みが立っていた
 
「セシル…」

名前を口にすると嬉しそうに微笑んで近寄ってくる

「やっとお会いできましたわ」
「あぁ…」
「同じ学校でも学年が違うとなかなかお会いできないものなのですね」
「まぁ、な…」
「頻繁に会えるようになると思っておりましたのに…少し寂しいです」
「…そうか」

無邪気に話しかけてくるセシリアに、アルベルトはそっけない言葉しか返せない
いつもと様子が違うのを不思議に思ったのか、セシリアが顔を覗き込んできた

「アル様?どうかされました?」
「…いや、なんでもない」
「ですが、いつもとご様子が…
それに顔色も悪いような気がします…」
「…大したことはない
日差しにあてられただけだ」

そう誤魔化すと心配そうに眉を寄せる

「今日は暑いですものね…倒れてしまっては大変ですわ
…少し失礼致します」

そう言うと、セシリアはおもむろにアルベルトの手をとった
何事かと思い手を引こうとするが、引き留めるようにきゅっと力を込められる
そして彼女は驚く彼を安心させるように微笑むと、そっと目を閉じた

次の瞬間アルベルトの体を冷気がめぐる

「!」

驚いて目を見開くアルベルト

「…どうでしょう?
少しは涼しくなりました?」
「…」
「アル様?まだご気分、優れませんか…?」

セシリアが心配して話しかけてくるがアルベルトは返事を返せなかった

今、なにを…?
もしかして、魔力を流したのか?
…いや、そんなはずない
魔力を他人に流すのは上級の応用だぞ…?
学生が出来ることじゃない…

「…何を、したんだ?」

何とかそれだけ口にすると、彼女は首をかしげて当然のように答えを口にした

「アル様の血流にのせて、ほんの少しだけ冷たい魔力を流させていただきました」
「本当は血液の温度を少しだけ下げるのが一番効くとは思うのですけれど、私はまだそれは取得していないのです
未熟者で申し訳ありません…」

その言葉はアルベルトのプライドは粉々に打ち砕かれた
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