悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき

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本編

5(回想)

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「アルベルト、セシリア嬢に庭園を案内してさしあげたら?」


お茶をしながら一通り会話を楽しんで満足した皇后の提案により、アルベルトとセシリアの二人は護衛騎士やお付きのメイドたちをを引き連れて庭園を散策することになった

天気の話や季節の花の話をアルベルトがふると、セシリアがそつなく答える
そんな子供らしくないやり取りを繰り返しながら歩いていると小さな湖にたどり着いた

「あ、こんなところまで来てしまったね
そろそろ戻ろうか」

そう言ってアルベルトが来た道を戻ろうとすると、それまで返答するだけだったセシリアが初めて自分から口を開いた

「あの・・・あれは噴水、ですか?」
「え…?」

話しかけられたことに若干驚きながら彼女の視線をおうと湖の中央
水がドーム型に流れている場所が目にうつる

あぁ・・・見慣れていなければ珍しいだろうな・・・

「あれは魔法で水を流して作っている東屋みたいなものだよ
中に簡単なテーブルセットが置いてあってお茶をしたり出来るようになってるんだ」

説明してやるとセシリアの瞳が僅かに見開かれ、より興味深そうにそれを眺める

「そうなのですね…
橋などは見あたりませんが、あそこまではどうやって?」
「魔法だよ
湖の一部を凍らして上を歩いたり、逆に水を遮って湖の底を歩いたりね
魔法の使えないメイド達はボートを使ったりもする」
「なるほど・・・」
「・・・」
「…えっと、よければ行ってみるかい?」

問いかけると、彼女がぱっとこちらを振り返る

「よろしいのですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます!」
「!あ、あぁ…」

照れたような、嬉しさを隠しきれないような笑みでお礼を言われて思わず口ごもる

…なんだ
子どもらしい顔も出来るんじゃないか…

ほんのりと熱をもった頬を隠すように顔をそらし口を開いた

「…なら、早速行こうか」
「はい!」
「じゃあ、向こうに渡れるように…」

大人の誰かにしてもらおう、という言葉は途中で止まる

パキッパキパキ
パキパキッ…!

「!?」

物音に驚いてそちらを振り向くと、セシリアが湖に向かって手を伸ばしていた
そして、その手の先は…

「できましたわ
殿下、参りましょう?」

水の東屋に向かって真っ直ぐ延びる、氷の道が出来ていた





ラピス皇国は、ラピスラズリを媒体にして水を操る魔法の使い手達が暮らす国だ

平民は魔力が弱いものが多く、ほとんどの者が桶にはった水に波紋をたたせる程度の魔法しか使うことが出来ない
身分が上がれば上がるほど使える魔法が多くなり、上級貴族や皇族になると水分を含むものなら血液なども含め、自由自在に操るほどの魔力を有する

しかし、魔力はあっても産まれながらに魔法が使えるものは殆んどいない
親や家庭教師から基礎を教えられ、13歳になると魔法学校に通って実技や応用を学ぶのが一般的である
従って、13歳以下の年齢で魔法を使えるものは殆んど居ない
使えたとしても平民と同じ程度で、下級魔法が使えると天才だと言われている
実際、7歳のアルベルトは空のグラスを水で満たすという下級魔法が使うことができ、それだけで天才だ、神童だと持て囃されているのだ

それなのに、セシリアは…

「殿下?」

事も無げに魔法を…しかも広範囲の水を綺麗に凍らせるという上級魔法を使いけろっとしている
魔力切れを起こすことも、得意になることもなく、当たり前の事のように…

「殿下…?どうなさいました?」
「ぁ…いや、なんでも…」

不思議そうにこちらを伺うセシリアに何とか返事を返しながらも、アルベルトは動揺を隠せない
ちらりと後ろを伺うと着いてきていた数人のメイドや護衛騎士達も唖然としている

「天才だ…」

護衛騎士の誰かの呟きが、彼の耳にはやけに大きく聞こえた


これがアルベルトとセシリアの初交流
そしてアルベルトが産まれて初めて敗北感を感じた瞬間であった
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