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10・番外編 昔話をすこしだけ
一時外泊2
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「あまねは嫌がるかもしれないけど、やっぱりあまねのこと、全部知りたい」
入浴後、疲れてソファに横たわる俺に、ケントさんは話しかけてきた。
「涼に、お前が鈍感だ、って言われてそれに引っ張られてたけど……だいぶ、臆病で繊細だろ」
「……そう?」
「制服のこと、聞いたよ。侑李に盗られてたんだな」
「ああ、それね……うん」
「校内テストのことも聞いた。わざと間違えるのは、やっかみを避けるためだろ」
涼くんと会った時に色々聞いちゃったんだな。よく殴っといて聞けるなあ。
「……秋吉くんね、すごくがんばり屋なんだよ。それなのに、俺はカメラアイだから……そんなのズルいでしょ。必死に勉強してる奴が3人くらいいたから、その下になるように調整してた」
カメラアイのおかげで、俺は暗記問題に時間を取られない。その分、俺は物理や数学に力を注いできた。
「……オレが最初の頃に、色んなプレイしてみたいって言ったから、律儀にそれを受け入れてるだろ。マゾかもしれないけど、さすがにやりすぎた。ごめんな」
「え? い、いや大丈夫だよ? できるよ?」
ケントさんにしては話とぶなあ。 俺がさっき萎えてたから、気を悪くしたかな。
「オレに嫌われると思って言ってるだろ。オレはあまねのこと、本当にずっと好きだから。これからはお互いに気持ちいいセックスがしたいんだ」
ケントさんはそう言って、俺の頬を親指で撫でた。
「だから……なんでそんなに緊張してるんだ? その理由を教えてくれ」
「え」
ドキリとした。ケントさん、気づいてたんだ。
「図星だろ。ずっとお前のこと見てたんだからわかる。お前、今日この家に着いてからずっと緊張してる」
「え、えー?」
俺はとりあえずとぼけた。
「今日セックスはしないって言ったし、堂本のことも許した。これからは痛いセックスはしないとも言った。過去の話を聞いても全部受け入れた。なのになんで緊張しているんだ」
「い、言わなきゃダメなの」
「ほらみろ、やっぱり緊張してるんじゃないかっせっかく寛ごうと思って帰ってきてるのに、なんでそんなに身体が強ばってるんだよっ」
ケントさんはわざと、じゃれあうように首を絞めてきた。
「や、やめてっケントさん~っ」
「言えっ!!」
「わ、わかりましたっ言うからっ言うから~っ」
ケントさんはゆるめたその手で、俺の顔を包んだ。
「さあ、言いなさい」
はあー。言いたくない~。
「あ、あのね。……俺さ」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「え」
外部からなら、まずマンションの入り口でチャイムを鳴らす。いきなり家の前なのはこのマンションの住人だろうか。
「こんな図々しい奴一人だろ……」
ケントさんはあきれて、モニターをちらりと見たものの返事をせずに玄関の鍵を開けた。
「ケント先生~あまね、退院したんですか?」
涼くんだった。
「はあ……お前……」
ケントさんはひどく冷酷な声を発したが、涼くんは気にする様子もなく玄関に入り込んだようだ。
俺がリビングのドアを開けて顔を出すと、涼くんは嬉しそうな声で俺の名を呼んだ。
「あまねぇ~!!」
「ま、待てっ!! 手を洗えっ」
「あ、はい~お邪魔します~」
涼くんはたくさんの荷物をかかえて上がり込んだ。これは泊まる気だな。
「涼くん~、またGPSで俺がここにいることわかったんだろうけど、俺退院してないからね? 明日朝には病院戻るよ?」
「え、そうなの?オレ学校の授業もここで受けようと思って、一式持ってきちゃった」
史上初の緊急事態宣言が発動し、通学を禁止された咲月学園の生徒は、リモートで授業を受けているそうだ。もともと、提携する海外の高校とディスカッションしたりしていたため、環境は整っていた。
「涼、ちょっと買い出し行ってくるから、あまねのこと頼むな」
「はーい」
涼くんは持参したサンドイッチを頬張りながら返事をした。
ケントさんが出かけると、俺は涼くんにお願いをした。
「涼くん、大変申し訳ないのですが」
「うん?」
「くっついてもいいですか」
「いいよ~」
涼くんはラグに座って授業を受けるためのセッティングをしていたが、俺に向かって手を広げてくれた。俺はその腕に飛び込み、ハグを受けると、そのまま下にずれてラグに寝転んだ。
涼くんの腰回りに俺の腕が巻きついた形で。
「んん?」
「ごめん、涼くん~俺すっごく眠くて……」
「そうなんだ。……あー、ソファじゃ寝れない?」
「うん……」
涼くんはしがみつく俺の頭をずっと撫でてくれ、俺はいつの間にか眠りについた。
気がつくと、夕方だった。
授業は終わっていたが、俺が手を離さないため涼くんはそのままレポートの宿題をしていたようだ。涼くんのブレザーと、足元には毛布がかけられていた。
「ぐっすり寝てたね。疲れてた?」
涼くんが穏やかな声で話しかけてきた。
「ごめん~、お風呂入ったら疲れちゃって」
俺は上体を起こして、ブレザーを涼くんに返した。キョロキョロと辺りを確認すると、ケントさんはキッチンで夕食を作っていた。
俺はケントさんが料理するのを眺めようとカウンターへ向かう。途中でケントさんと目が合ったが、すぐそらされた。
「あ、ご、ごめんね、ケントさん、涼くんにしがみついて寝ちゃって」
俺は慌てて謝ると、後ろで涼くんがハハ、と声を出して笑った。
「違うよ、あまね。ケント先生、カメラアイのこと全然わかってなかったから、さっき教えてやったんだよ」
「えっ」
「今まで、あまねにひどいことしちゃったこと後悔してうちひしがれてるんだよ」
「うそっ」
俺は急いでキッチンへ入り、ケントさんに近寄る。
「ケ、ケントさん、俺気にしてないからね? ごめんね?」
ケントさんは手に持った鍋を置き、俺を抱きしめた。
「すぐに引っ越しは無理だけど、ソファとベッドは買い直そう」
「か、買わなくていいからっ! ほ、ほら、今日はあれだけど、普段は大丈夫だからっ、ねっ?」
だから言いたくなかったんだよ~っケントさんすぐに買っちゃうから~!!
俺は必死に買わないでとお願いするが、決心は固かったようで、ケントさんは買い直すの一点張りだった。
「りょ、涼くん~! なんで言っちゃったんだよっ」
俺は矛先を変えて、涼くんに小声で詰め寄ると、涼くんはレポートを書きながら横目で俺を見つめた。
「散々ひどいことしてきたの、ケント先生だろ? 自業自得じゃん。オレは今まで気をつけてきたよ」
涼くんはケントさんに聞こえないように、小さな声で返事をした。
フラッシュバック、とでもいうのだろうか。
ケントさんちに久しぶりに帰ってきた時、もしかしてセックスするのかな?と考えたのがいけなかった。心の準備も身体の準備もできていない状態で、ふと考えてしまったせいで。
リビングのソファに寝かされた時に、フラッシュバックが始まってしまった。
俺が今までにこのソファに座って体験したことが、脳内でエンドレスにリピートし続けている。一度この状態に入ると、自分ではどうすることもできない。ソファを見るたびにそれは再生され、浴室に行けば浴室での行為が思い出された。気持ちのいい記憶だけなら心地よいが、ひどい扱いを受けたことを何度も繰り返し見せられると、グラグラと身体が悲鳴を上げた。
「他の記憶を足す、っていう案はどう?」
涼くんは頬杖をついて、突如提案してきた。
「俺が舐めてやろうか?」
「はあっ?!」
「ヤる気がないのに乱暴なエッチのこと思い出してるから辛いんだろ。オレがヤる気にさせてやろうか。ねえ、ケント先生いいでしょ?」
ケントさんはすぐそばまできていた。
「勃たないと思うぞ」
ケントさんは、涼くんの提案にあきれながら答えた。
「それはケント先生だからでしょ」
涼くんは挑発的に返した。
ムカッとしているのが、振り向かなくても気配でわかった。
なっに。
この状況……。
はあ、でも脳内リピートが終わるなら試してもいいかなと俺は考えてしまう。
いやいや、なに考えてるの、俺。
「オレとは違うというなら、やってみろよ」
うわ~、ケントさんが、完全に飲まれてるよ~。
「あまね、涼にしてもらうか?」
ケントさん~っ。
あーもう。
考えるの、もうめんどくさい。
どうとでもなれ。
俺はやれやれとソファに座り、涼くんを見下ろしながら命令してあげる。
「ほら、じゃあ舐めてみなよ」
入浴後、疲れてソファに横たわる俺に、ケントさんは話しかけてきた。
「涼に、お前が鈍感だ、って言われてそれに引っ張られてたけど……だいぶ、臆病で繊細だろ」
「……そう?」
「制服のこと、聞いたよ。侑李に盗られてたんだな」
「ああ、それね……うん」
「校内テストのことも聞いた。わざと間違えるのは、やっかみを避けるためだろ」
涼くんと会った時に色々聞いちゃったんだな。よく殴っといて聞けるなあ。
「……秋吉くんね、すごくがんばり屋なんだよ。それなのに、俺はカメラアイだから……そんなのズルいでしょ。必死に勉強してる奴が3人くらいいたから、その下になるように調整してた」
カメラアイのおかげで、俺は暗記問題に時間を取られない。その分、俺は物理や数学に力を注いできた。
「……オレが最初の頃に、色んなプレイしてみたいって言ったから、律儀にそれを受け入れてるだろ。マゾかもしれないけど、さすがにやりすぎた。ごめんな」
「え? い、いや大丈夫だよ? できるよ?」
ケントさんにしては話とぶなあ。 俺がさっき萎えてたから、気を悪くしたかな。
「オレに嫌われると思って言ってるだろ。オレはあまねのこと、本当にずっと好きだから。これからはお互いに気持ちいいセックスがしたいんだ」
ケントさんはそう言って、俺の頬を親指で撫でた。
「だから……なんでそんなに緊張してるんだ? その理由を教えてくれ」
「え」
ドキリとした。ケントさん、気づいてたんだ。
「図星だろ。ずっとお前のこと見てたんだからわかる。お前、今日この家に着いてからずっと緊張してる」
「え、えー?」
俺はとりあえずとぼけた。
「今日セックスはしないって言ったし、堂本のことも許した。これからは痛いセックスはしないとも言った。過去の話を聞いても全部受け入れた。なのになんで緊張しているんだ」
「い、言わなきゃダメなの」
「ほらみろ、やっぱり緊張してるんじゃないかっせっかく寛ごうと思って帰ってきてるのに、なんでそんなに身体が強ばってるんだよっ」
ケントさんはわざと、じゃれあうように首を絞めてきた。
「や、やめてっケントさん~っ」
「言えっ!!」
「わ、わかりましたっ言うからっ言うから~っ」
ケントさんはゆるめたその手で、俺の顔を包んだ。
「さあ、言いなさい」
はあー。言いたくない~。
「あ、あのね。……俺さ」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「え」
外部からなら、まずマンションの入り口でチャイムを鳴らす。いきなり家の前なのはこのマンションの住人だろうか。
「こんな図々しい奴一人だろ……」
ケントさんはあきれて、モニターをちらりと見たものの返事をせずに玄関の鍵を開けた。
「ケント先生~あまね、退院したんですか?」
涼くんだった。
「はあ……お前……」
ケントさんはひどく冷酷な声を発したが、涼くんは気にする様子もなく玄関に入り込んだようだ。
俺がリビングのドアを開けて顔を出すと、涼くんは嬉しそうな声で俺の名を呼んだ。
「あまねぇ~!!」
「ま、待てっ!! 手を洗えっ」
「あ、はい~お邪魔します~」
涼くんはたくさんの荷物をかかえて上がり込んだ。これは泊まる気だな。
「涼くん~、またGPSで俺がここにいることわかったんだろうけど、俺退院してないからね? 明日朝には病院戻るよ?」
「え、そうなの?オレ学校の授業もここで受けようと思って、一式持ってきちゃった」
史上初の緊急事態宣言が発動し、通学を禁止された咲月学園の生徒は、リモートで授業を受けているそうだ。もともと、提携する海外の高校とディスカッションしたりしていたため、環境は整っていた。
「涼、ちょっと買い出し行ってくるから、あまねのこと頼むな」
「はーい」
涼くんは持参したサンドイッチを頬張りながら返事をした。
ケントさんが出かけると、俺は涼くんにお願いをした。
「涼くん、大変申し訳ないのですが」
「うん?」
「くっついてもいいですか」
「いいよ~」
涼くんはラグに座って授業を受けるためのセッティングをしていたが、俺に向かって手を広げてくれた。俺はその腕に飛び込み、ハグを受けると、そのまま下にずれてラグに寝転んだ。
涼くんの腰回りに俺の腕が巻きついた形で。
「んん?」
「ごめん、涼くん~俺すっごく眠くて……」
「そうなんだ。……あー、ソファじゃ寝れない?」
「うん……」
涼くんはしがみつく俺の頭をずっと撫でてくれ、俺はいつの間にか眠りについた。
気がつくと、夕方だった。
授業は終わっていたが、俺が手を離さないため涼くんはそのままレポートの宿題をしていたようだ。涼くんのブレザーと、足元には毛布がかけられていた。
「ぐっすり寝てたね。疲れてた?」
涼くんが穏やかな声で話しかけてきた。
「ごめん~、お風呂入ったら疲れちゃって」
俺は上体を起こして、ブレザーを涼くんに返した。キョロキョロと辺りを確認すると、ケントさんはキッチンで夕食を作っていた。
俺はケントさんが料理するのを眺めようとカウンターへ向かう。途中でケントさんと目が合ったが、すぐそらされた。
「あ、ご、ごめんね、ケントさん、涼くんにしがみついて寝ちゃって」
俺は慌てて謝ると、後ろで涼くんがハハ、と声を出して笑った。
「違うよ、あまね。ケント先生、カメラアイのこと全然わかってなかったから、さっき教えてやったんだよ」
「えっ」
「今まで、あまねにひどいことしちゃったこと後悔してうちひしがれてるんだよ」
「うそっ」
俺は急いでキッチンへ入り、ケントさんに近寄る。
「ケ、ケントさん、俺気にしてないからね? ごめんね?」
ケントさんは手に持った鍋を置き、俺を抱きしめた。
「すぐに引っ越しは無理だけど、ソファとベッドは買い直そう」
「か、買わなくていいからっ! ほ、ほら、今日はあれだけど、普段は大丈夫だからっ、ねっ?」
だから言いたくなかったんだよ~っケントさんすぐに買っちゃうから~!!
俺は必死に買わないでとお願いするが、決心は固かったようで、ケントさんは買い直すの一点張りだった。
「りょ、涼くん~! なんで言っちゃったんだよっ」
俺は矛先を変えて、涼くんに小声で詰め寄ると、涼くんはレポートを書きながら横目で俺を見つめた。
「散々ひどいことしてきたの、ケント先生だろ? 自業自得じゃん。オレは今まで気をつけてきたよ」
涼くんはケントさんに聞こえないように、小さな声で返事をした。
フラッシュバック、とでもいうのだろうか。
ケントさんちに久しぶりに帰ってきた時、もしかしてセックスするのかな?と考えたのがいけなかった。心の準備も身体の準備もできていない状態で、ふと考えてしまったせいで。
リビングのソファに寝かされた時に、フラッシュバックが始まってしまった。
俺が今までにこのソファに座って体験したことが、脳内でエンドレスにリピートし続けている。一度この状態に入ると、自分ではどうすることもできない。ソファを見るたびにそれは再生され、浴室に行けば浴室での行為が思い出された。気持ちのいい記憶だけなら心地よいが、ひどい扱いを受けたことを何度も繰り返し見せられると、グラグラと身体が悲鳴を上げた。
「他の記憶を足す、っていう案はどう?」
涼くんは頬杖をついて、突如提案してきた。
「俺が舐めてやろうか?」
「はあっ?!」
「ヤる気がないのに乱暴なエッチのこと思い出してるから辛いんだろ。オレがヤる気にさせてやろうか。ねえ、ケント先生いいでしょ?」
ケントさんはすぐそばまできていた。
「勃たないと思うぞ」
ケントさんは、涼くんの提案にあきれながら答えた。
「それはケント先生だからでしょ」
涼くんは挑発的に返した。
ムカッとしているのが、振り向かなくても気配でわかった。
なっに。
この状況……。
はあ、でも脳内リピートが終わるなら試してもいいかなと俺は考えてしまう。
いやいや、なに考えてるの、俺。
「オレとは違うというなら、やってみろよ」
うわ~、ケントさんが、完全に飲まれてるよ~。
「あまね、涼にしてもらうか?」
ケントさん~っ。
あーもう。
考えるの、もうめんどくさい。
どうとでもなれ。
俺はやれやれとソファに座り、涼くんを見下ろしながら命令してあげる。
「ほら、じゃあ舐めてみなよ」
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