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9・最終章 依頼人◯天野伊織

炎の色

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俺は涼くんの部屋を出て、斜め向かいのドアをノックした。

「森内くん~俺だけど。あまねです」


待つこと十数秒後、森内くんがドアを開けてくれた。



森内くんは、ひどくやつれていた。

「同じ寮生になったけどなかなか会えないから、心配していたんだ。中に入ってもい」
最後まで言いきらずに、森内くんは俺を引っ張って部屋の中に入れてくれた。






そのまま、抱きついて離れない。

「あ、えと、森内くん……」

森内くんの身体は少し震えていた。

「どうしたの?  聞いていい?」

俺は森内くんをベッドに座らせて、俺はそばの床に座った。震える森内くんの左手を、両手で包んであげた。

「オ、オレ……あまねくんにひどいことした」

「え」



「そのことで、責められて……」




遅かった。

すでに、『呪いのメェー様』と接触したあとだった。




俺は震える森内くんの手をさすってあげた。



しばらく、金子先輩と佐久間さんに会わないようにさせよう。2人とも弱みを握られているなら、脅されて森内くんに危害を加える可能性がある。

金子先輩はスポーツ推薦で進学が決まっているから、特に危うい。

俺の部屋に避難させようか。












「俺は大丈夫、って話すよ。誤解だ、って」




当事者が「違う」と訂正すれば、きっと『呪いのメェー様』は次のターゲットに移るだろう。移る途中で、叩けばいい。
まずは森内くんを助けよう。



そう考えた。




それなのに。





「オレ、毎晩呼ばれてて……」




この一言で、すべてがくずれた。


「え……」



寮母さん、最近夜はいないと言っていた。

森内くんが部屋にいないと思ったら、事務室奥にある宿直室にいたんだ。

「オ、オレ……」




血の気が引いた。







11月27日に投稿された俺は、12月に入って喜多嶋先輩とのことを聞かれた。

━━━どんなこと、したんだ?

━━━オレにもやってくれる?

そう言って、俺の髪を舐めるように撫でてきた。


それから?





俺にこう言った。

━━━あまねのそういう困惑した顔、エロいじゃん。頭押さえつけて、しゃぶらせたいなあ。

まるで獲物を定めるかのように、ハ虫類のような不気味な瞳で見つめてきた。







まさか。





だが、憔悴しきった表情をみれば、それは明白だった。




彼は指示役じゃない。


彼自身も、罰を与えていたんだ。




3人とも、実行犯だった。





目の前にいる森内くんが、生気を失った人形のように見えるのは。

『呪いのメェー様』のせいなのか。


「い、いつから」

「年末、寮に来てから……」




俺はなにしてた?


ケントさんちに外泊してた。




涼くんは?


俺を心配して、ケントさんちに来てた。




ほとんどの生徒が帰省している年末年始。




寮母さんもいない夜。




森内くんは1人だったんだ。











激しい憎悪が沸き立った。






おそらく、俺には視えない『もや』が現れていることだろう。





俺はこんなこと、望んでなかった。



勝手に第三者が投稿して、よく調べもせずに偽善者ぶったあいつらが仕返しをした。


己の欲のために。



よい行いをしたのだと。



厄を祓うかのように、問題のある生徒を入院や退学させ、自分たちが咲月学園を守ったつもりなのだろう。


それは、それはさぞかし自己肯定感が高まり悦に入ったことだろう。







燃やしてやる。








あいつも、燃えてこの世からなくればいい。





「……俺が、代わる」

「え……」

「……俺が話をつけるから」

「で、でも……」

「森内くんは悪くない。次の水曜日に、サッカー部部室に呼び出せる?」

「たたたぶん。でも……」

「心配しなくて大丈夫だよ。終わらせるから、水曜までいっしょに過ごそう?  俺の部屋にいればいい。学校もいっしょに行こう」

「あまねくん……」

森内くんは、静かに涙を流した。

俺は膝を立て、泣き止むまで森内くんを抱きしめた。

俺の部屋に連れていこう。

俺じゃ頼りないだろうけど。

でも、森内くんを助けられるのは俺だけだ。








胸に秘めた炎の色は、青かった。


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