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9・最終章 依頼人◯天野伊織
森内くんの同室者
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「ねえ、森内くんのルームメイト、今誰だっけ?」
涼くんの部屋で、もう少しだけ話すことにした。
「あそこ入れ替わり激しいもんな。毛利が1人で使ってたのかな。そんで、あまねが入院してるころ瑛二の隣が空いて、移動した」
「じゃあ森内くんだけか。ん、ちょっと待って。2年の始めに松尾くんいたよね。特進Bの。その時、中村くんといっしょだったな。中村くんて、今どこだろ? 見かけないね」
「あー、中村いたね、中村鴎我。スポーツコースでバレーだっけ。確か入院してる?」
入院?
「え、なんか気になる。何月だろ」
「あまね、部屋近かったのに知らないの?」
「俺、色んな人とおしゃべりするタイプじゃないでしょうが。陰キャですけど? 情報に疎い人間ですけど?」
ややイヤミをこめて言ってやった。陽キャでリア充で情報通の涼くんとは正反対の人間なんだよっ。
「陰キャってほどじゃないだろ~、すねないの。えーと……オレがサッカー部のヘルプに行くころにはいなかった気がするから、夏じゃない?」
「『呪いのメェー様』じゃないよね?」
「え……」
百瀬くんがスクショし始めたのは11月からだ。メェー様の呪いが始まったのがサッカー部の3年からだとすると、6月くらいからになる。
「鴎我ならラインわかる。それとなく聞いてみるか」
「うん」
調べてみると、あの部屋は年度始めに特進科2年B組の松尾くんと普通科スポーツコース2年2組の中村くんがルームメイトだった。
松尾くんが4月に成績不振で中退し、代わりに5月から毛利くんが入寮している。
中村くんは7月に入院し、その後自宅療養しており、一旦退寮して休学中だそうだ。
1人になった毛利くんは、仲のよい瑛二のとなりの部屋が空いたので12月に移動したらしい。
俺と涼くんもだけど、今年度はけっこう入れ替わってるな。
中村くんからの返事は、一言だけ返ってきた。
金子先輩にやられた、と。
涼くんが、電話して詳しく聞いてみると、サッカー部でも1番2番を争う体格の良い金子先輩から暴力を受け、階段から落とされたそうだ。
暗闇で見えなかったのと、中村くんにも非があったらしく警察沙汰にはならなかった。周りには自分の不注意で落ちたと言っているそうだ。
「非、って?」
涼くんが突っ込んで聞いたが、中村くんは答えなかった。
ただ、相手が金子先輩なのは確実だということだ。
「金子先輩、サッカー部だよね。寮生だよね。……聞いてみる?」
「出た、無鉄砲。金子先輩と戦うことになったら、あまね瞬殺だぞ」
「意外に暴力はないんじゃない~? スポーツマンでしょ」
「そのスポーツマンが闇落ちしてたら、危険だろ」
闇落ち……。
なんて、パワーワード。
「じゃ、明日サッカーの時にオレが聞いてみるよ」
時刻はすでに0時を回ろうとしていた。
「このまま、ここで寝ていきなよ」
歯磨きしたし、確かにこのまま寝てもいいが。涼くん、むらむらこないのかな。
「俺はいいけど……」
「オレもいいよ?」
「……ヤりたくならない?」
「最近ずっとだから慣れた」
「えっ、ず……」
ずっと?!
「よ、よく俺の舐めるだけで止めれたね?!」
「あまねがケガしてるし、あまねがイヤがることしたくない」
りょ、涼くん~。
なんていいやつなんだ。
「だから、ケント先生じゃなくてオレにしなよ。考えておいて」
そう言うと涼くんは軽く抱きしめてくれた。
俺、なんでケントさんの方が好きなんだろ。
ごめんね、涼くん。
幸せな気持ちと申し訳ない気持ちを胸に秘め、抱きしめながら眠った。
翌朝、一度部屋に戻ろうとした時、階段で3年生とすれ違った。4階の個室にいる特進科の3年生に会うのはまれだ。まだ6時半だが、すでに寮を出る様子だった。
「おはようございます、浦木先輩」
「あ、神崎くん! おはよう」
威勢のいい返しに、朝から元気だなあと思いつつ、熱い目線に気づいて立ち止まった。
「な、なんかありましたか?」
「あー、いや。神崎くんてさ、すっごく頭いいんだろ? 験担ぎに、なんかもらえないかな」
「えっ」
「全国模試、1番なんだろ」
「あ、あぁー……」
「校内のテストはわざと間違えてるってほんとか?」
「ええーっ」
俺は返答に困った。
「ずいぶんと前から、3年の間では噂があってさ」
「そうなんですか……」
「シャーペンとかくれない? あ、交換でもいいよ」
交換。
喜多嶋先輩がよぎる。
俺は仕方なく、先輩と部屋に戻りリュックからペンケースを取り出した。
「これで、いいですか?」
「ありがとう!! これで来週の試験、がんばるわ。オレのシャーペン、これでいい?」
浦木先輩から黒の細いシャーペンを受け取った。
「わざわざ、ありがとうございます。先輩、あの……聞いてもいいですか?」
「うん?」
「俺の噂って、……3年生での噂って、校内テストのことだけですか?」
「ああ、そうだよ。あ、あとめちゃくちゃ家庭環境悪い、ていうのも聞いたことあるけど。見えないな?」
「そんな噂あったんですね、知らなかったな~」
俺はにこっ、と笑って、噂を否定した。
「やっぱ噂だったか。でも全国模試は1番だろ? これは喜多嶋から聞いたから」
「あはは。たまたまですよ~。でも先輩の試験うまく行くように、願掛けときますね♡」
喜多嶋先輩めぇ~!!
内心めらめらと怒りが燃えたが、表情に出さず浦木先輩にエールを贈った。
「まじでありがと!! じゃ、」
ドアがバタンとしまり、俺は記憶をさかのぼることにした。
あ、ダメだ。
頭痛くなるから、朝食食べてからにしよう。
涼くんの部屋で、もう少しだけ話すことにした。
「あそこ入れ替わり激しいもんな。毛利が1人で使ってたのかな。そんで、あまねが入院してるころ瑛二の隣が空いて、移動した」
「じゃあ森内くんだけか。ん、ちょっと待って。2年の始めに松尾くんいたよね。特進Bの。その時、中村くんといっしょだったな。中村くんて、今どこだろ? 見かけないね」
「あー、中村いたね、中村鴎我。スポーツコースでバレーだっけ。確か入院してる?」
入院?
「え、なんか気になる。何月だろ」
「あまね、部屋近かったのに知らないの?」
「俺、色んな人とおしゃべりするタイプじゃないでしょうが。陰キャですけど? 情報に疎い人間ですけど?」
ややイヤミをこめて言ってやった。陽キャでリア充で情報通の涼くんとは正反対の人間なんだよっ。
「陰キャってほどじゃないだろ~、すねないの。えーと……オレがサッカー部のヘルプに行くころにはいなかった気がするから、夏じゃない?」
「『呪いのメェー様』じゃないよね?」
「え……」
百瀬くんがスクショし始めたのは11月からだ。メェー様の呪いが始まったのがサッカー部の3年からだとすると、6月くらいからになる。
「鴎我ならラインわかる。それとなく聞いてみるか」
「うん」
調べてみると、あの部屋は年度始めに特進科2年B組の松尾くんと普通科スポーツコース2年2組の中村くんがルームメイトだった。
松尾くんが4月に成績不振で中退し、代わりに5月から毛利くんが入寮している。
中村くんは7月に入院し、その後自宅療養しており、一旦退寮して休学中だそうだ。
1人になった毛利くんは、仲のよい瑛二のとなりの部屋が空いたので12月に移動したらしい。
俺と涼くんもだけど、今年度はけっこう入れ替わってるな。
中村くんからの返事は、一言だけ返ってきた。
金子先輩にやられた、と。
涼くんが、電話して詳しく聞いてみると、サッカー部でも1番2番を争う体格の良い金子先輩から暴力を受け、階段から落とされたそうだ。
暗闇で見えなかったのと、中村くんにも非があったらしく警察沙汰にはならなかった。周りには自分の不注意で落ちたと言っているそうだ。
「非、って?」
涼くんが突っ込んで聞いたが、中村くんは答えなかった。
ただ、相手が金子先輩なのは確実だということだ。
「金子先輩、サッカー部だよね。寮生だよね。……聞いてみる?」
「出た、無鉄砲。金子先輩と戦うことになったら、あまね瞬殺だぞ」
「意外に暴力はないんじゃない~? スポーツマンでしょ」
「そのスポーツマンが闇落ちしてたら、危険だろ」
闇落ち……。
なんて、パワーワード。
「じゃ、明日サッカーの時にオレが聞いてみるよ」
時刻はすでに0時を回ろうとしていた。
「このまま、ここで寝ていきなよ」
歯磨きしたし、確かにこのまま寝てもいいが。涼くん、むらむらこないのかな。
「俺はいいけど……」
「オレもいいよ?」
「……ヤりたくならない?」
「最近ずっとだから慣れた」
「えっ、ず……」
ずっと?!
「よ、よく俺の舐めるだけで止めれたね?!」
「あまねがケガしてるし、あまねがイヤがることしたくない」
りょ、涼くん~。
なんていいやつなんだ。
「だから、ケント先生じゃなくてオレにしなよ。考えておいて」
そう言うと涼くんは軽く抱きしめてくれた。
俺、なんでケントさんの方が好きなんだろ。
ごめんね、涼くん。
幸せな気持ちと申し訳ない気持ちを胸に秘め、抱きしめながら眠った。
翌朝、一度部屋に戻ろうとした時、階段で3年生とすれ違った。4階の個室にいる特進科の3年生に会うのはまれだ。まだ6時半だが、すでに寮を出る様子だった。
「おはようございます、浦木先輩」
「あ、神崎くん! おはよう」
威勢のいい返しに、朝から元気だなあと思いつつ、熱い目線に気づいて立ち止まった。
「な、なんかありましたか?」
「あー、いや。神崎くんてさ、すっごく頭いいんだろ? 験担ぎに、なんかもらえないかな」
「えっ」
「全国模試、1番なんだろ」
「あ、あぁー……」
「校内のテストはわざと間違えてるってほんとか?」
「ええーっ」
俺は返答に困った。
「ずいぶんと前から、3年の間では噂があってさ」
「そうなんですか……」
「シャーペンとかくれない? あ、交換でもいいよ」
交換。
喜多嶋先輩がよぎる。
俺は仕方なく、先輩と部屋に戻りリュックからペンケースを取り出した。
「これで、いいですか?」
「ありがとう!! これで来週の試験、がんばるわ。オレのシャーペン、これでいい?」
浦木先輩から黒の細いシャーペンを受け取った。
「わざわざ、ありがとうございます。先輩、あの……聞いてもいいですか?」
「うん?」
「俺の噂って、……3年生での噂って、校内テストのことだけですか?」
「ああ、そうだよ。あ、あとめちゃくちゃ家庭環境悪い、ていうのも聞いたことあるけど。見えないな?」
「そんな噂あったんですね、知らなかったな~」
俺はにこっ、と笑って、噂を否定した。
「やっぱ噂だったか。でも全国模試は1番だろ? これは喜多嶋から聞いたから」
「あはは。たまたまですよ~。でも先輩の試験うまく行くように、願掛けときますね♡」
喜多嶋先輩めぇ~!!
内心めらめらと怒りが燃えたが、表情に出さず浦木先輩にエールを贈った。
「まじでありがと!! じゃ、」
ドアがバタンとしまり、俺は記憶をさかのぼることにした。
あ、ダメだ。
頭痛くなるから、朝食食べてからにしよう。
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