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9・最終章 依頼人◯天野伊織

スキル

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喜多嶋先輩を見送ったあと、涼くんから
「盗られてたんだ?」
と確認してきたから、俺は仕方なく答えた。

「先輩に、無断でニットベストを交換されてた。俺の手元にあったのは先輩のやつ。着たくなかったの」

「あまねは秘密が多いなぁ」

「涼くんだって、いろいろ内緒にしてるじゃん~」

「オレが秘密にしてるのはあまねのため。……なあ、バストバンドつけてみる?」

袋から出して、涼くんはTシャツの上から巻いてくれた。少しきついが……あ、楽かも。

「どう?」

「楽に動かせる~」

「これ、折ったおわびにやるよ。あとエッチもしてやる」


なんでセックスしなきゃいけないんだっ。

また俺をふしだら勇者にするつもり?


「バカなの?」

あきれて、涼くんを見下した表情で見つめた。

涼くんはそんなこと気にせず、俺にキスしてこようとする。

「ちょ、しないよ?」
両手で涼くんの身体を押そうとするが、涼くんはふわっと俺を抱きしめて逃がしてくれない。

「ケント先生とはしばらくお預けだろ」

そうささやいた涼くんの吐息が、熱い。

うなじにかかる手も、熱い。

腰にまいた腕もまた、熱い。

「りょ、涼くん、なんか興奮して、る?」

「してる」

「なんで」

「あまねに、2回もバカなのって言われたから」

えー?  どういうこと?

「オレ、あまねに負けず劣らずのMなのかなあ?  あまねに冷たく言われたら、なんかゾクゾクする。手錠でつながれたあまねに罵られて、すげえ興奮した」

「しないでよ……」

「いやでも、なんだろな?  なんか変……チンコ挿れられたくはないし……。あまねのチンコは舐めたい……喘ぐあまねをみたい……罵られたい……」

「複雑すぎて俺にはわかんないけどっ?」

ちょ、ちょっと涼くんが意味わかんない性癖を言い出してきた。難解すぎるっ。

「ででも涼くん、俺のことよく押さえつけるじゃん。SかMで言ったらSでしょ」

俺は押さえつけられるの好きだけども。
強引にされちゃうと、ドキドキする。

「いや、そうだと思ってたんだけどさ……なんだろう?  あまねのチンコ舐めながらよしよしされたいみたいな?  おねだりされて必死に腰ふるみたいな?」

「涼くん……ほんとバカなの?  俺でそういう妄想しないでっ」

はぁ、と涼くんの胸元で、ため息をもらした。


「オレ、あまねのこと本当に好きだからね。10年後ならあまねのこと全部支えられるけど、今のオレにはできないからあきらめた。ケント先生の方が、お金あるし、医者だし。でも、あまねを助けられるのはオレだと思う」

涼くんは、本当に俺のこと守ろうとしてくれたんだな。
少し前の俺なら、うれしく思う発言だった。


「ケントさんと涼くんが探偵事務所やったら楽しそうだなって思ったけど、いつか俺と開く?  宿屋経営しながら」
対等でいたい俺は、死なない前提で協力し合う未来の話をする。
涼くんは喜んでくれた。

「それ楽しそう。この『なんでも屋』もそんな感じじゃん。報酬がないだけで。ケント先生とだと毎日ケンカになりそうでイヤだ。直哉さんの時もひどかったよ?」

直哉さん。二見凛さんの時、じゃなくて結城直哉さんの時か。

「じゃあ、涼くんの気が変わらなかったら開こうね。さ、『呪いのメェー様』のことノートに書くから、手を離して」

絡めた腕を外すと、涼くんはTシャツの上からトレーナーを着せてくれた。

見つめてくる涼くんの瞳には欲情と愛情が入り交じっていて、少し恥ずかしくなった。


ひと呼吸し、俺はペンとコドアラノートを取り出す。

『なんでも屋』のノート。もうずいぶんとページが埋まった。



「『呪いのメェー様』、オレ聞いたことあるわ。だいぶ前だけど」

「え?  ほんと?  俺クラスの女子が『地獄のメェー様』って言ってるのは終業式あたりで聞いたけど」




名前/罪名・投稿日


中条昂輝/暴力・11/6

濱松悠成/タバコ・11/25


「天野くんから相談されたのは、この2人のことなんだけど、残りも書いていくからちょっと待ってて。百瀬くんがスクショ取っててさ」


「え?  ちょっと待って。これ、伊織からの依頼?」

「そうだけど」

「なあ~、なんでそんなに伊織と仲良くなってるんだよ~この小悪魔めっ!!」

「えっ、なに?」
涼くんが悔しそうに言うもんだから、俺は驚いて肩をすくめた。

「オレのこと避けまくって、伊織にかくまってもらってたんだろっ!」

ああ……。

嫉妬してるのかな?

ケントさんは静かに嫉妬するけど、涼くんは表にしっかり出してくれる。天野くんもだけど、表情ころころ変わってかわいい。

「涼くん、かわいい」
ちゅ、と軽くキスをした。
さっきは拒んだくせに、つい。

涼くんは口を押さえて、頬を赤らめた。

「ま、まじで小悪魔……」

ほんとだ。
俺、小悪魔になっていってるのかも。
いや、ビッチか。

「そういえば、俺のこと3年をたぶらかすビッチだって、メェー様に投稿されたんだ。天野くんには涼くんもたぶらかしたんですか~って聞かれちゃった。ごめんね、俺ビッチで?」

「あまねぇ~……」

「でもさ、さっきのでわかったでしょ。そういう噂になってるけど、嘘ではなかったんだ。本当に喜多嶋先輩、俺に惚れてた。溺れて、それが怖くて寮を出たみたい。涼くんも、俺に溺れてるって噂になりそうだね」

自嘲気味に話してしまった。

「喜多嶋先輩、同じ部屋でつらかっただろうな。オレも溺れそう。いや……もう溺れてるわ……」

ペンを持つ俺を涼くんは再びぎゅっと抱きしめてきた。喜多嶋先輩は好きじゃなかったけど、涼くんに抱きしめられるとドキドキする。


ちょっと気を抜くと、堕落してしまいそうだ。
だめだだめだ、と自分に言い聞かせると共に、先ほどの涼くんの言葉を脳内で反復する。

涼くん、おねだりされて興奮するって言ったな。
罵られるのも好き。

ということは。
俺がしたい時に、おねだりできる。したくない時は、強くたしなめればいい、ということ?

俺が、勇者が、仲間をコントロールできる?

意のままに、動かせる?

服従、されられる?


「━━━さっきさ、俺、喜多嶋先輩イヤだったけどがんばって対応したんだ。ごほうびくれる?」
俺は涼くんの膝に手を置き、さする。

「え、なに?」

期待を込めた瞳を、俺は欲を絡めて見つめる。

「キスしてよ。涼くんの唾液飲みたい」


そのまま視線を外さず、口を開いた。
「俺の口に、垂らして」
舌先を出して誘う。

「あまねが望むなら、いつでもしてやるよ」

毒牙にかかった涼くんは、嬉しそうに唇を近づける。
そうして、俺の舌先に蜜を垂らしてくれた。

俺は冷静に、溺れることなく性欲を満たす術を覚えた。

まるで勇者が新しいスキルを覚えたかのように。

脳内で、レベルが上がる音がした。















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