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8.5・幕間
逃げた先で
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cafeリコでの問題も解決し、ホッとして寮に戻ったのもつかの間だった。
「りょ、涼くん……」
「あ~ま~ねぇ~!!」
めちゃくちゃお怒りモードの涼くんが玄関そばの待合室に待機していて、見つかってしまったのだ。
「お前、伊織まで使ってオレから逃げるなんて、許さないからな~~!!」
俺はワーッと叫ぶのをこらえながら、早足で自室へと逃げ込もうとした。だが逃げ切れるはずもなく、1階の階段前で捕まった。
手首をねじ曲げられ、無理やり階段側面の壁に押しつけられた。
「ッ━━━━」
「もう逃がさないからな」
「痛い、涼くん」
「なんで避けるんだよっ」
「さ、避けてないよ……」
「ウソつけッ」
そう言って胸ぐらをつかまれた時、ヒビの入ったろっ骨がピキピキと悲鳴をあげた。
「━━━━━ッ!!」
声が出ない苦しさで悶絶し、顔をしかめた。
手を胸元に当てるが、楽になることはなかった。
「…………ッ」
呼吸がうまくできずに冷や汗が止まらない。
涼くんは俺の調子が悪いことに気づき、手をゆるめてくれた。
「だ、大丈夫? ケガしてた?」
「━━━ィじょ、ぅぶ……」
なんとか声を出し返事をしたが、小さく呼吸をするので精一杯で、とても動けそうになかった。
「あ、あまね先パイいた~」
階段上から身を乗り出し、天野くんが声をかけてくれた。
「数学の宿題、教えてください~♡」
「伊織、邪魔するなよっ」
「だって昼から約束してましたもん~冬休みの宿題提出できなくて困ってるんですよ~?」
「はぁっ?」
天野くんは階段を降りて、俺のそばまでやってきた。
そして手を引いてくれた。
「じゃ、一ノ瀬先パイまたね~」
「~~~あまね、あとで部屋行くからなっ」
俺は階段をゆっくりと上がり、談話室そばの天野くんの部屋に招かれた。
同室者の平良くんが先に声をかけてくれた。
「お疲れ様です、あまね先輩」
「おつ、かれさま……」
にこりと笑ってみたが、まだ声を発するのがキツかったのでたどたどしくなった。
「あ、やっぱキツそうですね。今夜ここ使ってください」
「え?」
「たいらぁごめんね~。一ノ瀬先パイ、やっぱあまね先パイのこと追いかけ回してるわ。あまね先パイ、平良は鈴木のとこで寝るんで、今夜ここどうぞ~♡」
「……えっ?」
「いやだから、たぶんあとで部屋に来ちゃうでしょ? ここだったらおれが阻止してあげれますから♡」
「うわ~」
天野くん、やさしい。
でもなんで?
「位置情報アプリ勝手に入れられた話、百瀬から聞きましたよ。あまね先パイのことだいぶ好きなんですかね? まあクラスの女子には流行ってますけど」
と、平良くんが言った。
あ~そういう話が広まってるわけね……。
「あ、いや……それは誤解だから、訂正しといて……」
百瀬くん恐るべし。
「俺がね、この前入院しちゃったから、心配してくれてるだけ」
事件に巻き込まれたことは、咲月学園の学生には伝えていない。知っているのは校長と、一部の先生だけだ。
「そうなんですか。……まあ、今夜はゆっくり寝てくださいね」
「ありがとう、平良くん」
天野くんに手を引かれ、2段ベッドの下に座らせてもらった。
「遠慮せず、横になってください」
お言葉に甘えて、俺は寝転んだ。しばらくすると、落ちついて楽になった。
あー、歯磨きしなきゃ……と思ってると、天野くんが声をかけてきた。
「あまね先パイ、服めくってもいいですか?」
「えー……やだ……」
「昼間も思ったけど、顔色が悪すぎます。ちょっと見せてくださいね~」
「え、あ、ちょっ……と」
天野くんは強引にパーカーをまくりあげた。
胸元から腹にかけて、あちこち赤黒く変色していた。
「うわあ……殴られたんですか?」
「……天野くん、意外と強引だね……」
「いつもはこんなことしませんよ。あまね先パイ危ういから心配になって。これ、骨は大丈夫ですか?」
「……たぶん、ろっ骨にヒビ入ってる」
「えー。……明日病院付き添いましょうか?」
「調べたら、ろっ骨ってなにも治療しないみたい。だから行かなくて大丈夫」
「肺に刺さってるとかないですか?」
「う、う~ん。たぶん……」
「警察とかは?」
「あ、あのね、天野くん。ほんとに大丈夫だから、見なかったことにしてくれない? 虐待でもないからね?」
サッカー部の1年に、堂本コーチが俺の家庭環境をバラしたと言っていた。勘違いしないように否定しておかないと。
「……」
天野くんの怪訝そうな顔が良心に刺さる。天野くんが古賀くんとつきあってるの聞いちゃったし、これは告白しておこうか。
「天野くん、すみません。俺、暴力的な彼氏とつきあってます」
はあ。ついに、涼くん以外に言ってしまった。……喜多嶋先輩もか。
森内くん、にもバレてるっけ?
「……それで一ノ瀬先パイにいえなかったんですね?」
「そうです……。いい人なんだけどね、涼くんがすごく心配してて。あ、殴られたのは初めてだからね?」
「DVですかあ」
「うっ」
いや、なんていうか。どう説明すればいいんだ。
「え、えーとね。彼と涼くんがあまりに束縛してくるからこの前逃げたの。その結果です」
「……だからDVじゃないですかあ」
「……」
……そうなのかな。
つきあってたらわかんないけど、もしかしてこれって世間でいうところのDV彼氏なのかな。
彼女は洗脳されてて別れられないとかなんとか聞いたことある……。
えっ?
俺洗脳されてるのかな?
「そんな彼氏、別れてくださーい」
「ううっ……考えときます……」
他人に言われて気づいた事実。突きつけられると胸にグッサリと刺さる。
「おれ、あまね先パイに相談したいことがあるんですけど~。あ、数学じゃないですよ? 勉強はまた補習の時でいいです」
いやいやその前に勉強しとこうよ、と心の中で突っ込んだが、話を切り替えてくれた天野くんがありがたいので黙っておいた。
「呪いのメェー様って知ってますか~?」
「りょ、涼くん……」
「あ~ま~ねぇ~!!」
めちゃくちゃお怒りモードの涼くんが玄関そばの待合室に待機していて、見つかってしまったのだ。
「お前、伊織まで使ってオレから逃げるなんて、許さないからな~~!!」
俺はワーッと叫ぶのをこらえながら、早足で自室へと逃げ込もうとした。だが逃げ切れるはずもなく、1階の階段前で捕まった。
手首をねじ曲げられ、無理やり階段側面の壁に押しつけられた。
「ッ━━━━」
「もう逃がさないからな」
「痛い、涼くん」
「なんで避けるんだよっ」
「さ、避けてないよ……」
「ウソつけッ」
そう言って胸ぐらをつかまれた時、ヒビの入ったろっ骨がピキピキと悲鳴をあげた。
「━━━━━ッ!!」
声が出ない苦しさで悶絶し、顔をしかめた。
手を胸元に当てるが、楽になることはなかった。
「…………ッ」
呼吸がうまくできずに冷や汗が止まらない。
涼くんは俺の調子が悪いことに気づき、手をゆるめてくれた。
「だ、大丈夫? ケガしてた?」
「━━━ィじょ、ぅぶ……」
なんとか声を出し返事をしたが、小さく呼吸をするので精一杯で、とても動けそうになかった。
「あ、あまね先パイいた~」
階段上から身を乗り出し、天野くんが声をかけてくれた。
「数学の宿題、教えてください~♡」
「伊織、邪魔するなよっ」
「だって昼から約束してましたもん~冬休みの宿題提出できなくて困ってるんですよ~?」
「はぁっ?」
天野くんは階段を降りて、俺のそばまでやってきた。
そして手を引いてくれた。
「じゃ、一ノ瀬先パイまたね~」
「~~~あまね、あとで部屋行くからなっ」
俺は階段をゆっくりと上がり、談話室そばの天野くんの部屋に招かれた。
同室者の平良くんが先に声をかけてくれた。
「お疲れ様です、あまね先輩」
「おつ、かれさま……」
にこりと笑ってみたが、まだ声を発するのがキツかったのでたどたどしくなった。
「あ、やっぱキツそうですね。今夜ここ使ってください」
「え?」
「たいらぁごめんね~。一ノ瀬先パイ、やっぱあまね先パイのこと追いかけ回してるわ。あまね先パイ、平良は鈴木のとこで寝るんで、今夜ここどうぞ~♡」
「……えっ?」
「いやだから、たぶんあとで部屋に来ちゃうでしょ? ここだったらおれが阻止してあげれますから♡」
「うわ~」
天野くん、やさしい。
でもなんで?
「位置情報アプリ勝手に入れられた話、百瀬から聞きましたよ。あまね先パイのことだいぶ好きなんですかね? まあクラスの女子には流行ってますけど」
と、平良くんが言った。
あ~そういう話が広まってるわけね……。
「あ、いや……それは誤解だから、訂正しといて……」
百瀬くん恐るべし。
「俺がね、この前入院しちゃったから、心配してくれてるだけ」
事件に巻き込まれたことは、咲月学園の学生には伝えていない。知っているのは校長と、一部の先生だけだ。
「そうなんですか。……まあ、今夜はゆっくり寝てくださいね」
「ありがとう、平良くん」
天野くんに手を引かれ、2段ベッドの下に座らせてもらった。
「遠慮せず、横になってください」
お言葉に甘えて、俺は寝転んだ。しばらくすると、落ちついて楽になった。
あー、歯磨きしなきゃ……と思ってると、天野くんが声をかけてきた。
「あまね先パイ、服めくってもいいですか?」
「えー……やだ……」
「昼間も思ったけど、顔色が悪すぎます。ちょっと見せてくださいね~」
「え、あ、ちょっ……と」
天野くんは強引にパーカーをまくりあげた。
胸元から腹にかけて、あちこち赤黒く変色していた。
「うわあ……殴られたんですか?」
「……天野くん、意外と強引だね……」
「いつもはこんなことしませんよ。あまね先パイ危ういから心配になって。これ、骨は大丈夫ですか?」
「……たぶん、ろっ骨にヒビ入ってる」
「えー。……明日病院付き添いましょうか?」
「調べたら、ろっ骨ってなにも治療しないみたい。だから行かなくて大丈夫」
「肺に刺さってるとかないですか?」
「う、う~ん。たぶん……」
「警察とかは?」
「あ、あのね、天野くん。ほんとに大丈夫だから、見なかったことにしてくれない? 虐待でもないからね?」
サッカー部の1年に、堂本コーチが俺の家庭環境をバラしたと言っていた。勘違いしないように否定しておかないと。
「……」
天野くんの怪訝そうな顔が良心に刺さる。天野くんが古賀くんとつきあってるの聞いちゃったし、これは告白しておこうか。
「天野くん、すみません。俺、暴力的な彼氏とつきあってます」
はあ。ついに、涼くん以外に言ってしまった。……喜多嶋先輩もか。
森内くん、にもバレてるっけ?
「……それで一ノ瀬先パイにいえなかったんですね?」
「そうです……。いい人なんだけどね、涼くんがすごく心配してて。あ、殴られたのは初めてだからね?」
「DVですかあ」
「うっ」
いや、なんていうか。どう説明すればいいんだ。
「え、えーとね。彼と涼くんがあまりに束縛してくるからこの前逃げたの。その結果です」
「……だからDVじゃないですかあ」
「……」
……そうなのかな。
つきあってたらわかんないけど、もしかしてこれって世間でいうところのDV彼氏なのかな。
彼女は洗脳されてて別れられないとかなんとか聞いたことある……。
えっ?
俺洗脳されてるのかな?
「そんな彼氏、別れてくださーい」
「ううっ……考えときます……」
他人に言われて気づいた事実。突きつけられると胸にグッサリと刺さる。
「おれ、あまね先パイに相談したいことがあるんですけど~。あ、数学じゃないですよ? 勉強はまた補習の時でいいです」
いやいやその前に勉強しとこうよ、と心の中で突っ込んだが、話を切り替えてくれた天野くんがありがたいので黙っておいた。
「呪いのメェー様って知ってますか~?」
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