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8・依頼人①江崎葵

甘やかすからダメ勇者なんじゃないの

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ガラッ

「あ!!  やっぱスマホ持っていってた」

「涼くん━━━」

湯船に浸かりながらスマホをいじってると、涼くんがいきなりドアを開けた。

「はい、勝手にスマホさわるの禁止~」
そう言ってスマホを取り上げられた。

「な、な、なんだよ~」

「暴走防止のため。ケント先生~、やっぱスマホ持ってた!!  オレもいっしょに入りますね~!!」
大声で、脱衣所からキッチンへ向かって叫んだ。

「えー……」

「なに、そのめちゃくちゃイヤそうな顔。いつも入ってるだろ」

「スマホの方だよ……なんでダメなの」

「危ないから」

「ちょっと涼くん、過保護すぎない?」

「なにがだよ~」


あやしい。なんか隠している。

俺も隠してるけど、涼くんのこの過保護っぷりはなんなの?  ここ半年、俺のことめちゃくちゃ気にしてるよね。



むむむ、と眉間にシワを寄せていぶかしんでいると、涼くんがシャワーをブアッとかけてきた。

「わ゛っ!!」

慌てて顔を背けて、目をこすった。


濡れた前髪を後ろに撫で、洗い場に立つ涼くんを見る。

目があったかと思ったら、涼くんはシャワーを出しっぱなしのまま、湯船に入り込んできた。

「━━━っ!」

乱暴に濡れた前髪を後ろに引っ張られ、浴槽の縁にぶつけられた。

「な、なに━━ッあ゛」

もう片方の手で、首に手をかけた。

「はぁ゛っっ」

「言いなよ。なんで酒飲んだの?」

「な、なにが」

「なにかあったから、飲んだんだろ」

「べ……つに゛━━━は、な゛し……」

少しずつ、力をこめてくる。

「あ゛っぁ゛やめ゛……」

両手で涼くんの右手をつかむが、濡れた手が滑ってはずせない。

「が……ぁ゛は……」

「オレには全部言うって、約束して」

「ぁ゛━━━」

返事ができずに、意識がトびそうになる。

手の力が抜けた時、ようやく涼くんは首を絞めるのをやめてくれた。

「はぁ゛、はぁ゛……」

ただ涼くんの左手はそのまま前髪を引っ張られたままだ。上を向き、荒く呼吸を繰り返した。

「なんで、飲んだの?」

「はぁ、はぁ、……涼くん、ひどい……」

「オレのちんこで勝手にイったやつに言われたくない」

そうだった。
ビールと赤ワインを飲んでベロベロに酔っぱらってしまい、先に迷惑をかけたのは俺だ。

「ごめん……」

「理由を言いなさい」

「今、亜矢子さんからの返事待ちです」

「亜矢子さんに連絡したの?!」

「あ、違う。そっちじゃない……パソコンの方」

「パソコン?」

「『もや』が発現するパソコン。他の店舗にパソコンブースあるのか、今聞いてる」

「……ああ、他県でも『もや』出てるか確認しようとしてるんだ?」


はぁ。とため息がでた。言うのがつらい。


「そう。でも、範囲が違う。cafeリコは外資系で、全世界に店舗ある」

俺は目をつぶった。

「お爺さんが言ってたこと、世界が終わる、ってやつ。……やっぱり、『もや』が『蠱毒』なのかなと思って。俺、何もできなくて……」

「しなくて、いい」

また、涼くんはしなくていいと言ってくれた。

「しなくていいことなんだから、ビールなんかに逃げるなよ」

「ごめん……」

「しかも、料理用に買った赤ワインも飲んじゃったんだってな。ワインはアルコール度数高いんだよ?  バカなの?」

「うう、ごめんなさい……」

「とりあえず、もうcafeリコは辞めな。これケント先生の命令だから。亜矢子さんと店長の件は、オレたちに任せて」

オレたち。

涼くんとケントさん。



なんかさー、甘やかされてるよね。

おれ。



「涼くんたちが、勇者をダメにしてるんじゃん……」
小さくつぶやいた。


勇者やった方がいいのかな?と思ったりしても、やりたくない自分がいて、やらなくていいという仲間がいて。

それって、どうなの。


ほんとに、ほんとに『蠱毒』のこと知ってるの俺だけだったらどうしよう。

そう思うと不安に駆られてしまうんだ。

それでも涼くんとケントさんは、俺にしなくていいと言う。

俺はその言葉に甘えて、ただただ欲望に溺れた堕落人間へと突き進むんだ。






不意に、涼くんがキスをしてきた。


ずっと流れるシャワーの水の音が、いやらしい音をかき消して、俺は舌先に感じる淫らな刺激に酔いしれる。涼くんの愛撫を拒むことなく受け入れ、湯船の中で俺は恍惚とした表情を浮かべた。

「あまねが首絞められてイッたの見て、ほんとに痛いの好きなんだと思った」

「ぁっ……ん」

「首絞めてごめんな。苦しかった?」

「涼くんならいいよ…」

ケントさんちの浴室で、涼くんと快楽にふけるなんて。

淫乱な自分にあきれる。



ぴんぽん━━━


電子音がなり、スピーカーからケントさんの声が聞こえてきた。

「イチャイチャしてないで、早く出ろ」













「ケント先生~なんでいちゃいちゃしてるのわかったんですか」
リビングキッチンへ入ると同時に、涼くんが言い放った。

「りょ、涼くん!」

「お前、あまねのこと好きだろうが」

「バレてました?」

「でも残念だったな。あまねはドMだからお前じゃ無理だ」

「ケ、ケントさん!」

お互いの言い分に、俺は2人の間で冷や汗をかいた。

「えー?  今、風呂場で、オレのちんこ気持ちよーくハメて喘いでましたよ?」

「うそつけ」

キッと涼くんを睨んだけど、ケントさんが失笑してくれたのでホッとした。

「じゃああとで3Pしましょうよ。オレ泊まります~」


い、いやだ……。

ケントさんの顔を見ると、口角が上がっていた。不敵の笑みってやつだ。

「お前、あとで吠えづらをかくなよ?」

「だ、だめ~っ」

半泣きで、ケントさんにすがる。

ケントさんは喉で笑いながら、コンロの前へ行った。

「俺、お腹痛いからトイレ行ってきます……」

そう言って、俺はとぼとぼとリビングキッチンを出た。




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