30 / 102
5・④再び
水曜日、バイト先で
しおりを挟む
今週も水曜日に、cafeリコのバイトが入った。
先々週、先週に続き、平日は3回目だ。どうしてもシフトが埋まらなかったらしく、ピンチヒッターとしてかりだされていた。
あれから、4日たったが、ケントさんからは連絡が来ない。一縷の望みを持って、ケントさん自身からの連絡を待ったが、ラインも電話も来なかった。あの女性が言っていたことは本当だったのだと、落胆した。
神崎家、堂本コーチ、そしてケントさん、と心を深く傷つけることが重なり、なかなか浮上できずにいるが、そんな中で涼くんがいてくれたことが救いだった。涼くんのおかげで、沈みきったままではなく、空に浮かぶ月が確認できる程度の深さまで回復できていた。
それでも、現実はゆらりと揺れ、自分の位置が定められずにいた。
閉店間際、2階の客がいつもより早くいなくなったようで、店長の千尋さんが降りてきた。
「あまねくん、今週もごめんな」
と、千尋さんが言った。ベテランの亜矢子さんが1ヶ月ほど遅番ができなくなり、閉め作業のできるバイトがいなかったようだ。
「俺は大丈夫です、千尋店長の方こそ連勤なんじゃないですか?」
「そうなんだよ~、特に今まで亜矢子に任せっきりだったから、時間かかるし最悪。今日も亜矢子が帰るときに嫌味言っちゃったわ」
「あはは、亜矢子さん帰りずらかったでしょうね。あ、千尋店長、2階もうノーゲスなら、俺どっちも閉め作業やりますけど」
「あー、ほんとー? 助かる」
「じゃあ2階ちょっと片付けてくるんで、その間だけ1階お願いします」
「ありがとー、オレほんとコーヒーマシンの洗浄嫌い」
「も~、カフェの店長が何言ってるんすか」
しばし談笑したあと、俺は2階に上がり、カウンターの片付けとレジ閉めをし15分で下に降りてきた。
「早いな、ありがと。ここも今帰ったわ」
「21時45分か、俺残りやっときますよ。1人でもいつもより早く終わりそう」
「えー、助かる~じゃ、あとヨロシクな」
はい、と答えて俺はテーブルの片付けに向かった。
いつもより早く終わり、1人で従業員入り口から出ると、駐車場から誰かがこちらに歩いてきた。忘れ物かな?と思い、様子をうかがうと、「神崎くん? だよね?」
と声をかけてきた。
「はい」
「あー、良かった。あのさ、南城町に住む黒木さんておばあちゃん知ってるよね」
「ああ、はい」
薬物転売疑惑の渦中にあった志村千鶴さんの担当の患者さんで、俺はひと月ほど前に話を聞きに行った。
「急に亡くなられてね、いっしょに通夜に来てくれないかな。お金とか服とかは気にしなくて大丈夫」
「そうなんですね……わかりました」
「車で連れていくね」
と言い、その女性は俺を車にいざなった。
駐車場の外灯を消したため、よく顔が見えなかったが、俺の名を知っているということは黒木さんと仲のよい方なのだろう。若いので、もしかしたらお孫さんかもしれない。
「あ、あの、黒木さんのお孫さん、ですか?」
「そうなの、よくわかったね」
ホッ、と胸を撫で下ろした。
駐車場にはまだ2台停まっており、そのうち奥の車に案内された。
助手席の後ろに座ると、黒木さん(というか不明だが)静かに発進した。
赤信号で停まったとき、明るいコンビニの外灯で彼女の顔が照らされ、横顔が見えた。
どこかで見た気がする。正面から見ればわかるかな、と思ったが、薄暗くてよく見えなかった。
南城町に入る頃、俺は寮に電話するのを忘れてたので、電話をかけていいか尋ねると、
「運転に集中できないから、着くまで待ってて。もうすぐだから」
と苛立った様子で言われた。
祖母が亡くなって、気が立ってるようだ。
……気が立つかな?
そうして、カフェから20分ほどで黒木さんのうちにたどり着いた。山と田んぼに囲まれたポツンとした一軒家で、車のライトを消すと真っ暗で何も見えなかった。
「神崎くん、ごめん、スマホの明かりで照らしてくれる?」
「あ、はい。……自宅でお通夜、珍しいですね」
「田舎だからね」
だからといって、こんなに真っ暗なのは疑問だ。
「ほんとにここですか?」
と、
うしろを
振り向いた、瞬間
気を失った━━━━━━
先々週、先週に続き、平日は3回目だ。どうしてもシフトが埋まらなかったらしく、ピンチヒッターとしてかりだされていた。
あれから、4日たったが、ケントさんからは連絡が来ない。一縷の望みを持って、ケントさん自身からの連絡を待ったが、ラインも電話も来なかった。あの女性が言っていたことは本当だったのだと、落胆した。
神崎家、堂本コーチ、そしてケントさん、と心を深く傷つけることが重なり、なかなか浮上できずにいるが、そんな中で涼くんがいてくれたことが救いだった。涼くんのおかげで、沈みきったままではなく、空に浮かぶ月が確認できる程度の深さまで回復できていた。
それでも、現実はゆらりと揺れ、自分の位置が定められずにいた。
閉店間際、2階の客がいつもより早くいなくなったようで、店長の千尋さんが降りてきた。
「あまねくん、今週もごめんな」
と、千尋さんが言った。ベテランの亜矢子さんが1ヶ月ほど遅番ができなくなり、閉め作業のできるバイトがいなかったようだ。
「俺は大丈夫です、千尋店長の方こそ連勤なんじゃないですか?」
「そうなんだよ~、特に今まで亜矢子に任せっきりだったから、時間かかるし最悪。今日も亜矢子が帰るときに嫌味言っちゃったわ」
「あはは、亜矢子さん帰りずらかったでしょうね。あ、千尋店長、2階もうノーゲスなら、俺どっちも閉め作業やりますけど」
「あー、ほんとー? 助かる」
「じゃあ2階ちょっと片付けてくるんで、その間だけ1階お願いします」
「ありがとー、オレほんとコーヒーマシンの洗浄嫌い」
「も~、カフェの店長が何言ってるんすか」
しばし談笑したあと、俺は2階に上がり、カウンターの片付けとレジ閉めをし15分で下に降りてきた。
「早いな、ありがと。ここも今帰ったわ」
「21時45分か、俺残りやっときますよ。1人でもいつもより早く終わりそう」
「えー、助かる~じゃ、あとヨロシクな」
はい、と答えて俺はテーブルの片付けに向かった。
いつもより早く終わり、1人で従業員入り口から出ると、駐車場から誰かがこちらに歩いてきた。忘れ物かな?と思い、様子をうかがうと、「神崎くん? だよね?」
と声をかけてきた。
「はい」
「あー、良かった。あのさ、南城町に住む黒木さんておばあちゃん知ってるよね」
「ああ、はい」
薬物転売疑惑の渦中にあった志村千鶴さんの担当の患者さんで、俺はひと月ほど前に話を聞きに行った。
「急に亡くなられてね、いっしょに通夜に来てくれないかな。お金とか服とかは気にしなくて大丈夫」
「そうなんですね……わかりました」
「車で連れていくね」
と言い、その女性は俺を車にいざなった。
駐車場の外灯を消したため、よく顔が見えなかったが、俺の名を知っているということは黒木さんと仲のよい方なのだろう。若いので、もしかしたらお孫さんかもしれない。
「あ、あの、黒木さんのお孫さん、ですか?」
「そうなの、よくわかったね」
ホッ、と胸を撫で下ろした。
駐車場にはまだ2台停まっており、そのうち奥の車に案内された。
助手席の後ろに座ると、黒木さん(というか不明だが)静かに発進した。
赤信号で停まったとき、明るいコンビニの外灯で彼女の顔が照らされ、横顔が見えた。
どこかで見た気がする。正面から見ればわかるかな、と思ったが、薄暗くてよく見えなかった。
南城町に入る頃、俺は寮に電話するのを忘れてたので、電話をかけていいか尋ねると、
「運転に集中できないから、着くまで待ってて。もうすぐだから」
と苛立った様子で言われた。
祖母が亡くなって、気が立ってるようだ。
……気が立つかな?
そうして、カフェから20分ほどで黒木さんのうちにたどり着いた。山と田んぼに囲まれたポツンとした一軒家で、車のライトを消すと真っ暗で何も見えなかった。
「神崎くん、ごめん、スマホの明かりで照らしてくれる?」
「あ、はい。……自宅でお通夜、珍しいですね」
「田舎だからね」
だからといって、こんなに真っ暗なのは疑問だ。
「ほんとにここですか?」
と、
うしろを
振り向いた、瞬間
気を失った━━━━━━
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
冬月シバの一夜の過ち
麻木香豆
BL
離婚して宿なし職なしの元刑事だった冬月シバ。警察学校を主席で卒業、刑事時代は剣道も国内の警察署で日本一。事件解決も独自のルートで解決に導くことも多く、優秀ではあったがなかなか問題ありな破天荒な男。
この男がなぜ冒頭のように宿無し職無しになったのも説明するまでもないだろう。
かつての女癖が仇になり結婚しても子供が産まれても変わらず女遊びをしまくり。それを妻は知ってて泳がせていたが3人目の娘が生まれたあと、流石に度が超えてしまったらし捨てられたのだ。
でもそんな男、シバにはひっきりなしに女性たちが現れて彼の魅力に落ちて深い関係になるのである。とても不思議なことに。
だがこの時ばかりは過去の女性たちからは流石に愛想をつかれ誰にも相手にされず、最後は泣きついて元上司に仕事をもらうがなぜかことごとく続かない。トラブルばかりが起こり厄年並みについていない。
そんな時に元警察一の剣道の腕前を持つシバに対して、とある高校の剣道部の顧問になってを2年以内に優勝に導かせるという依頼が来たのであった。しかしもう一つ条件がたったのだ。もしできないのならその剣道部は廃部になるとのこと。
2年だなんて楽勝だ! と。そしてさらに昼はその学校の用務員の仕事をし、寝泊まりできる社員寮もあるとのこと。宿あり職ありということで飛びつくシバ。
もちろん好きな剣道もできるからと、意気揚々。
しかし今まで互角の相手と戦っていたプライド高い男シバは指導も未経験、高校生の格下相手に指導することが納得がいかない。
そんな中、その高校の剣道部の顧問の湊音という男と出会う。しかし湊音はシバにとってはかなりの難しい気質で扱いや接し方に困り果てるが出会ってすぐの夜に歓迎会をしたときにベロベロに酔った湊音と関係を持ってしまった。
この一夜の過ちをきっかけに次第に互いの過去や性格を知っていき惹かれあっていく。
高校の理事長でもあるジュリの魅力にも取り憑かれながらも
それと同時に元剣道部の顧問のひき逃げ事件の真相、そして剣道部は存続の危機から抜け出せるのか?!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる