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5・④再び
コーチってこんな人だったのか
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サッカー部のコーチ堂本智也は28才独身で、よく寮の当直に入っていた。
日曜の朝、食堂に行くと彼がサッカー部の1年とともに朝食をとっており、俺たちに気付いて大きく手を降った。
「おーい、涼、あまね。こっちに来いよ」
フレンドリーな性格で、部員でない俺にも良くしてくれる人だった。
「はよーございまーす。瑛二がいるんで、オレら向こうで食べまーす」
コーチにあいさつをすると、涼くんは瑛二をジロリと一瞥し、水を取りに行った。
「うっわ。涼怒ってる? 瑛二何したんだよッ」
「何もしてません」
「いやいやいや、涼が怒るの珍しいだろ」
「勘違いです」
「誰の」
「オレのっす」
「謝れ!!」
ゴツン、と瑛二の頭を小突いていた。
「涼がいなくちゃ今日の練習も回らないだろ」
「あー、コーチ、今日休みまーす」
遠くから涼くんが返事をする。
堂本コーチはガックシと、頭を垂れた。
俺は少し離れたところでその様子をうかがい、平和なやり取りに笑みがこぼれた。
コンコン、
「あまねー」
食堂から戻ってしばらくすると、部屋にコーチがやってきた。
「お疲れ様です」
「昨夜の瑛二のこと聞いたわ、ごめんなー」
「え? ああ、俺はなにも……」
「それなんだけどさ、オレ、1年にあまねのこと言っちゃったんだわ。それで、瑛二お前のこと気になってるんだと思う」
「え? え……と、何の話ですかね?」
俺は検討がつかず、コーチが何を言っているのかわからなかった。
「いやー、この前あまりにも1年がたるんでてな、あまねが苦労人で、サッカーやりたくてもできないんだぞ、って言っちゃったんだわ。ほら、家庭環境とか悪いってやつ」
俺は、血の気がひいた。
「それでお前たちは恵まれてるんだからもっと励め、って、まあ叱咤激励ってやつよ。あまねの名前は出してないけど、瑛二気付いたんだろうな」
なんてことを言うんだ。
俺が敢えて言わずにいたことを、なぜこの人がバラしてしまうんだ。
「同情して、あまねの行動を気にしてたみたいだな」
それがイヤなんだよ。
俺は、そうされたくなかったから、言わなかったんだ。
「それでさ、涼が今日練習行くの説得してくれない? 試合形式でやるのに、どうしても人数ギリギリなんだわ。あー、あまねでもいいよ?」
最悪だ。
「イヤです」
俺は、それしか言うことができなかった。羞恥と怒りと、悲しみと、感情が爆発してコーチにぶつけそうになる。
「……じゃあさ、この話も1年にしようかな。お前、1年のとき2年の喜多嶋と同室だったろ。進級してすぐに、あいつ寮離れて、今はわざわざ遠い実家から通ってるんだってな」
「……」
「あまねの身体に溺れたって話だぞ」
「!!」
「骨抜きにしたんだってなぁ。やるじゃん」
このコーチ、いい人だと思ってたけど、俺の思い違いだったようだ。
は虫類のような不気味な眼差しで、俺をなめ回すように見てくる。
俺は思わず後ずさりした。
「どんなこと、したんだ?」
コーチは徐々に距離を縮めていき、窓際まで俺を追いつめた。
「オレにもやってくれる?」
逃げ場はない。
瑛二のような体格のコーチは、腕を窓に当て、俺を完全に囲った。
髪を舐めるように撫で、
「どっちがいいか選んで。涼を説得する? それとも喜多嶋のこと話していい? あー、これ話したら、尾ひれついて淫乱なあまねってウワサになるかもなぁ。誰とでもヤる、男が大好き、舐めるの大好き、見られるの大好き、」
「やめてくださいッッ」
「それとも、オレとちょっと遊ぶ?」
「━━ッ」
「はい、選択肢3つなー。10秒以内に選べよ」
俺にも、『もや』が現れた気がした。
日曜の朝、食堂に行くと彼がサッカー部の1年とともに朝食をとっており、俺たちに気付いて大きく手を降った。
「おーい、涼、あまね。こっちに来いよ」
フレンドリーな性格で、部員でない俺にも良くしてくれる人だった。
「はよーございまーす。瑛二がいるんで、オレら向こうで食べまーす」
コーチにあいさつをすると、涼くんは瑛二をジロリと一瞥し、水を取りに行った。
「うっわ。涼怒ってる? 瑛二何したんだよッ」
「何もしてません」
「いやいやいや、涼が怒るの珍しいだろ」
「勘違いです」
「誰の」
「オレのっす」
「謝れ!!」
ゴツン、と瑛二の頭を小突いていた。
「涼がいなくちゃ今日の練習も回らないだろ」
「あー、コーチ、今日休みまーす」
遠くから涼くんが返事をする。
堂本コーチはガックシと、頭を垂れた。
俺は少し離れたところでその様子をうかがい、平和なやり取りに笑みがこぼれた。
コンコン、
「あまねー」
食堂から戻ってしばらくすると、部屋にコーチがやってきた。
「お疲れ様です」
「昨夜の瑛二のこと聞いたわ、ごめんなー」
「え? ああ、俺はなにも……」
「それなんだけどさ、オレ、1年にあまねのこと言っちゃったんだわ。それで、瑛二お前のこと気になってるんだと思う」
「え? え……と、何の話ですかね?」
俺は検討がつかず、コーチが何を言っているのかわからなかった。
「いやー、この前あまりにも1年がたるんでてな、あまねが苦労人で、サッカーやりたくてもできないんだぞ、って言っちゃったんだわ。ほら、家庭環境とか悪いってやつ」
俺は、血の気がひいた。
「それでお前たちは恵まれてるんだからもっと励め、って、まあ叱咤激励ってやつよ。あまねの名前は出してないけど、瑛二気付いたんだろうな」
なんてことを言うんだ。
俺が敢えて言わずにいたことを、なぜこの人がバラしてしまうんだ。
「同情して、あまねの行動を気にしてたみたいだな」
それがイヤなんだよ。
俺は、そうされたくなかったから、言わなかったんだ。
「それでさ、涼が今日練習行くの説得してくれない? 試合形式でやるのに、どうしても人数ギリギリなんだわ。あー、あまねでもいいよ?」
最悪だ。
「イヤです」
俺は、それしか言うことができなかった。羞恥と怒りと、悲しみと、感情が爆発してコーチにぶつけそうになる。
「……じゃあさ、この話も1年にしようかな。お前、1年のとき2年の喜多嶋と同室だったろ。進級してすぐに、あいつ寮離れて、今はわざわざ遠い実家から通ってるんだってな」
「……」
「あまねの身体に溺れたって話だぞ」
「!!」
「骨抜きにしたんだってなぁ。やるじゃん」
このコーチ、いい人だと思ってたけど、俺の思い違いだったようだ。
は虫類のような不気味な眼差しで、俺をなめ回すように見てくる。
俺は思わず後ずさりした。
「どんなこと、したんだ?」
コーチは徐々に距離を縮めていき、窓際まで俺を追いつめた。
「オレにもやってくれる?」
逃げ場はない。
瑛二のような体格のコーチは、腕を窓に当て、俺を完全に囲った。
髪を舐めるように撫で、
「どっちがいいか選んで。涼を説得する? それとも喜多嶋のこと話していい? あー、これ話したら、尾ひれついて淫乱なあまねってウワサになるかもなぁ。誰とでもヤる、男が大好き、舐めるの大好き、見られるの大好き、」
「やめてくださいッッ」
「それとも、オレとちょっと遊ぶ?」
「━━ッ」
「はい、選択肢3つなー。10秒以内に選べよ」
俺にも、『もや』が現れた気がした。
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