上 下
13 / 102
2・依頼人④小野寺瑛二

コンビニ1

しおりを挟む
寮の近くにあるコンビニまで送ってもらい、チャリを車から下ろしていると、一ノ瀬に会った。

「あまねー!  今週も外泊してたんだろ。あ、もしかして『ケント先生』の車?」

「そう。一ノ瀬、買い物?」

「うわー!!  かっけー!!  これ、ランドローバーじゃん」

「ナニソレ」
俺はきょとんとしたが、一ノ瀬はそれを無視し、興奮気味にケントさんに話しかけた。


「はじめましてー、ケント先生。オレ、一ノ瀬涼て言います。あまねの同級生です。車、めっちゃカッコいいすね!!」

「ありがとう」

「わー、ディフェンダーかぁ♡♡   実物見るの初めてかも。乗り心地良さそー♡♡」

一ノ瀬の、語尾にハートマークついてるようなはしゃぎぶりに、車が珍しくて高価なものだと今頃気付かされた。
ケントさん、ほんとに金持ちなんだ……。

「一ノ瀬くん、探偵ごっこはほどほどにな」


と、ケントさんのその一言に、冷や汗が出た。

「あ、あまねから聞きましたか?  いつもはオレも手伝うんですけど、最近サッカーが忙しくて」

俺は、まだ言ってない。
どこまで事件の概要を話すべきか悩んで、結局言えなかったのだ。仲間のことも、説明した覚えはなかった。

どこで一ノ瀬のこと知ったんだろう?

「今回市外でなかなかツテがなくて、解決までに時間かかってるんですよー。ケント先生が手伝ってくれて、感謝っす!」

一ノ瀬は、仲間になったケントさんにウエルカムのアピールをしていたが、ケントさんの表情はビミョーな感じだった。先ほどまでのケントさんとは、明らかに様子が違っていた。


やがて、ケントさんは一度空に視線を移したあと、
「コドアラってどういう意味?」
と聞いてきた。





━━━あー、なるほど。
俺が霊園を散策しているときに、ノート見たんだな。
やられた。
俺、ケントさんの前でノートに記入してた。

でも、盗み見なんて……と冷ややかな視線をケントさんに送っていると、

「コドアラノートのことすか?  アラズ先生、ていう名物先生がいるんですけど……ん、ちょっと待って、……あまね、ケント先生て仲間だよね?」
不穏の空気を敏感に感じ取り、察した一ノ瀬は一旦答えるのをやめた。
俺はそうとも、違うとも言いづらかった。
よくよく考えたら、谷口さんから話を聞いて欲しい、と強引に依頼したものの、コドアラの本質について伝えてないため、いやむしろケントさんは頼まれた役割を終えて、もうフェードアウトできる状態なわけで、これ以上話をせずに関係を切ることもできるわけだ。

誰も言葉を発せず10秒ほど経ったあと、

「中二病集団が、がんばってる、って感じだな」
とケントさんは、あざけるような言い方をした。

カッと恥ずかしくなって顔を赤らめた俺に対して、一ノ瀬は
「いやいやいや、実際事件解決してますよ!  サッカー部員の行方不明事件とか!  ニュースにはなってないですけど、人命救助したんですよ!」
と憤怒を堪えながら反論してくれた。

「何か、巻き込んじゃってさーせんしたッ!」
言葉じりを強めに言い、一ノ瀬はやや強引にその場を切り上げた。

「じゃ、寮に帰るか!」
一ノ瀬は、俺の肩に手を回して、ケントさんにくるりと背中を向け寮の方へ誘導して行った。





背後から、ケントさんのため息が聞こえた気がした。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...