上 下
12 / 102
2・依頼人④小野寺瑛二

レストラン

しおりを挟む
さまざまな感情が大渋滞を起こし、車に戻ったあとも一言もしゃべらずニューオータニミナミに到着した。

いくつかのエリアに分かれた広いビュッフェレストランで、俺たちは半個室タイプに案内された。
……訳ありに見えただろうか?  まあ訳ありっちゃありだが。
弧を描いたソファーシートに丸いテーブルで、入り口以外は天井まで遮断された席だった。

朝食には遅い時間だったため、人はまばらだったが、料理はたくさん置かれていた。もしかしたら、早めのランチタイムなのかもしれない。

あまりにも無言が続いて気まずいかと思ったが、ケントさんは別段に気にしてないようで、ケントさんからも必要以上には話すことなく、俺のすぐそばで食事を続けてくれた。


━━━俺は、同情はされたくないけど、ケントさんは北原さんから聞いてしまって、かわいそうな子だと位置づけているのだろう。複雑な家庭で、親の手を借りずに寮暮らししていて、バイトして、貧乏な子。

あ、いや、母親のことしか北原さんには言ってないから、家庭環境まではバレてないかもしれないな。貧乏は確実にバレてるけど。


望んではないにしろ、墓参りに連れていってもらって、今こうやってごちそうになっている。

この分の『借り』を返して、ケントさんとはどうにかフラットな関係に持っていきたい……。




「ケントさん、……俺、ケントさんのチンコ舐めたいです」

グホッッ、とケントさんはむせた。

「コーヒー飲んでるときに何てこというんだ……」
ケントさんはあきれて、俺の側頭部をコツンとげんこつした。

「ここで咥えましょうか?  それとも車で?」

「やっとしゃべったかと思ったら、それか?」
ケントさんはますますあきれ、頭を抱えた。

「他に払えるものがないから……今日の礼を、そういうので返します」

「いや、いい。お前下手だし」

意を決して提案したが、あっさりと却下された。俺には恥ずかしさだけが残った。

「……同じ口なら、キスして欲しい」
ケントさんは肘をついて左手に頬を乗せ、俺を見つめた。
色素の薄い瞳からは、愛情が溢れているのがわかって、それがなおさら俺を苦しめた。

「……欲情で俺をメチャクチャにしてくれたら、つり合いが取れるのに」
自嘲気味に言うと、ケントさんは右手で俺の頭を引き寄せ、優しくキスをした。

「これでお釣りがくるくらいだけど?」
と言って、身体をずらし、ケントさんは左手を俺の腰辺りを抱き、俺の唇を優しく噛みながら舌を入れて来た。

クチュ、クチュと唾液が絡み、舌と舌がじゃれ合う長いキスは酸素が不足して頭がボウっとする。人の気配を感じ、ビクッとしたが、ケントさんが身体を掴んで離さず、通路からは俺の顔が見えないように覆い被さってくれた。

気持ち良くて、トロトロに溶けそうな甘いキスに酔いしれ、俺はまた自分だけ良い思いしちゃってるなと、罪悪感が芽生えた。

ぷはぁーと息を吐き、俺はケントさんに
「これで返したことになりますか?」
と聞くと、ケントさんは悲しそうに微笑んだ。




レストランを出て、散策しながら駐車場へと戻る途中、ケントさんはポツリと話し始めた。
「……今朝、オレがお前のこと壊れないオモチャって言ったの覚えてるか」

「?  あ!  はい、覚えてます」

「あのときは、冗談で言ったつもりだったが……もし、あまねが望むなら、そうしようか」

「え、と」

「オレは別にあまねから何かしてもらいたくて行動したつもりはないけど、お前はそれが嫌なんだろ」

「そう、ですね」

「オレは大人だし、お前との食事を割り勘にはしたくないし、毎回チェーン店とかファーストフードで食べるようなこともしたくない。オレがしたくてやってることだ」

「食事だけじゃなくて……送迎とか、洗濯とか、お泊まりさせてもらったし……」


ふぅ、とケントさんは残念そうにため息をつく。
「そういう些細なことも、あまねは気にするんだな。じゃあホントに、オレのオモチャになるか」

「……ぁ……っと」

「痛いことされて、それで対価を払ったことにするか」

「け、ケントさんが喜ぶことなら、やります」

「お前は……、あー、もう…っ!!」

ケントさんは、俺をギュっと抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...