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2・依頼人④小野寺瑛二

浴場

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「あまね先輩」

風呂場に行くと、出入口でちょうど小野寺たちサッカー部の1年生がいた。
「遠征お疲れ様ー」

「あれ、ケガしたんですか?」
「なんか首にすんげー痕ある!  大丈夫すか」
「センパイ、数学教えてくださいよ」
「先輩のバイト先、今度遊びに行っていいですか」

ひと声かけると、1年生が次々に声をかけてきた。

「お、おーう、またな?」
いつもより懐いてきたので、俺は戸惑ってしまった。

脱衣所に入ると、サッカー部は全員出たようで誰もいなかった。棚のかごに衣服も入ってないので、風呂場にももう誰もいないようだ。サポーターをキョロキョロと探すと、忘れ物かごに入れられていた。

左手に装着し、脱衣所を出ようと振り替えると、小野寺が立っていた。

「おわっっっ!!  びっくりしたー」

小野寺は背が高く体格がよいので、ただ佇んでいるだけでも威圧感がある。

「すみません」

「……あ、待っててくれた?」

「はい」

「いとこちゃんのこと?」

「……いえ、……」

何かを話したそうにしているが、歯切れが悪くなかなか、話そうとしない。

しばしの沈黙にどうにも居心地が悪くなり、俺はおどけてみようとした。

「小野寺、これ見てみて、忘れ物入れになぜかミカン」

忘れ物入れからミカンを取ろうと、小野寺に背中を向けたときだった。



ガッ━━━━

後ろから、身体を掴まれた。

両手もいっしょにホールドされ、身動きが取れない。

「お、小野寺ー?  どうした?」

頭一つ分大きい小野寺の唇が耳元に触れ、吐息がかかる。

「センパイ……」

ぐぐぐー、ぐぐー、と、少し動こうもんなら更に締め上げてきて、まるでアナコンダのようだった。

「痛いってー、どうかした?  話聞こうか」
努めて、明るく話しかけるが、小野寺は返事をしない。

それから、出入口からは見えない場所に俺は引きずられ、そのままうつ伏せに押し倒された。

「ッ痛テテテー」

左手がズキンと痛んだが、小野寺はお構いなしに上に覆い被さった。両手は自由になったものの、小野寺が乗っかっているから起き上がれない。彼の手は俺の首もとと腹あたりに腕を回して、息を荒くしていた。

ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ━━


一ノ瀬から、つい先程忠告を受けたばかりだというのに、さっそくこの様だ。
小野寺は、いったい俺のことどうしたいと思ってるんだ?


「やめろって……」
少しずつ、四つん這いの姿勢になろうと膝を立てようとした。

ガツッ

小野寺は上から俺の後頭部を押さえつけた。

骨が軋む音がし、額と頬骨が床に擦れてビリビリと痛みが走る。


と、その時ガラっとけたたましく引き戸が開く音がした。
「あまねー、いるー?」

一ノ瀬の声が聞こえた。

返事を待たず、一ノ瀬はずかずか脱衣所内に入り、青ざめた俺と紅潮した小野寺を見つけた。

「瑛二、離れろ」

一ノ瀬は冷たく言い放った。

小野寺の力が弱まったので、俺は自力で彼の下から這い出た。

「小野寺、なんか用事あったんじゃないの」

俺は呼吸を整え、もう一度声をかけると、



「なんで、瑛二、って呼んでくれないんですか」
そう言い、彼は床についた手をぎゅっと握りしめた。

一ノ瀬は腕を引っ張り上げ俺を立たせると、瑛二をじろりとにらんだ。そして、俺を出口の方へ引っ張っていく。

「ごめん、それで怒ってた?  次からは瑛二って呼ぶわ」
と謝りなから、俺たちは脱衣所を後にした。







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