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27、【番外編】ゴリアテの懺悔❷

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悔しかった。


オレは、……おそらく涼も、あまねを大事に包みこんでいたのだ。



過去の悲惨な生活のせいで、揚げ物を受けつけないあまねに唐揚げを作らせるなんて、そんな残酷なことオレにはできなかった。
食への興味がないあまねに、色んな物を食べさせ、喜んでもらおうとしていたのだ。

伊織はあまねの秘密の扉を、無理やりこじ開けた。否応なしに、傍若無人に。
それを怒るどころか、あまねはたやすく受け入れた。

オレはあまねを救っていると自負していたが、それはすべて幻想だったのだ。
嫉妬に狂い、逆にあまねを壊し続けているのはオレだ。
頭からシャワーの湯を浴び、自身の悪行に嫌悪していると、目覚めたあまねがやってきた。
彼は、愛しい彼はそんなオレを許してくれた。
そうして、「ケントさん、お尻を舐めてよ」と枯れた声で懇願した。






しゃがみ込んだオレは丁寧にアナルを舐め、舌先を差し込みながらペニスをしごいてやった。
あまねは熱く吐息を吐きながら、嬉しそうに身体を震わせ、今夜何度目となるかわからない絶頂を迎えた。
「はぁ゛っはぁ゛っ」
潰れた声で必死に喘ぎ、かわいくイク姿は、オレにだけ見せる卑猥な姿だ。
そんなあまねの表情を愛しく思い、飛んだ精液をシャワーで流した後、浴槽で抱きしめながら優しい愛撫を繰り返した。
あまねは荒れたセックスの後の甘い時間が大好きらしかった。



舌先を使ってアナルを舐めたのは初めてのことだった。あんなに喜ぶのなら、毎回してあげれば良かったと思う。潔癖症気味なことを知っていたから、あまねは高圧的なオレに言えなかったのだろう。
あまねは、いつもいつも負い目を感じているようだった。

そんなあまねが、あの時どんな思いでお願いしてきたかは、今となってはもうわからない。



狂ったオレは、この後も間違えだらけの選択をしたのだ。


そうして、オレはついにあまねに三行半を突きつけられる。8月8日のことだ。

何が気に食わなかったのか。

伊織は恐ろしいほどにあまねとの相性が良かった。性格も申し分なく、オレとの仲を繋げようと画策してくれた。3人で演習のようなセックスを提案し、あまねが喜ぶ『加減』を教えてくれた。オレは必要以上にいたぶっていたのだ。それをあまねは言えずに、オレが望む快楽をすべて受け入れていた。
言え、と言ったこともあったのに、あまねはどうしても言えなかったのだ。それを伊織は実戦で伝えてくれた。

感謝している、本当に。

だが、伊織は危険な子だと感じた。にこにこ笑顔で、かわいらしい後輩ではあるのだが。柔らかく微笑んだ先に、恐怖を感じた。


翌週から、あまねの世話役は元看護師の結海にお願いした。医大生の頃からの友人で、使い勝手よく利用していた一人だった。几帳面でいて穏やかな性格で、合鍵を欲しがる他の女とは違って立場をわきまえてくれた人だった。料理も手際よく、丁寧な盛り付けは彼女に影響されたといってよい。
ギスギスとして派手な女よりも相性は良いと思っていた。



それが、違ったらしい。



正確には、あまねは具体例を上げないのでただの我儘だと解釈していた。ただ伊織に会いたいがため、結海のことを中傷しているのだと。

顔色の悪さでさえ、それは演技だと勘違いしていた。





家を出たあと、オレは事情を知った結海のマンションへしばらく転がり込んだ。その後新しくマンションを契約し、少し荷物を自宅から移そうか悩んで涼に電話する。

「ああ涼、荷物を運びたいんだが……部屋に入っていい日あるか」

「ちょうど良かった、今日会って話せますか」

「あまねは?」

「今トイレ。このあと伊織と出かけてもらいます」

わかった、と返事し、急いでマンションへ向かった。
あまりに早く出発したせいで、まだ出かけていないあまねと伊織をエントランスで見かける。
あまねは気付かなかったようだが、伊織はすぐに反応して、笑顔からみるみるうちに悲しそうな表情へ変化させ見つめてきた。

その哀愁漂う顔を見つめ、やっとオレはあの時不安に感じた理由がわかった。


ダビデだ。

ミケランジェロの彫刻のような、雄々しいダビデではない。

旧約聖書の一節にある、ダビデとゴリアテを描いた絵画のような少年の方だ。

彼は憂いに満ちた表情で、悪しき巨人の生首を持っている。

そのダビデに、伊織はそっくりだった。

懐かしい我が家に足を踏み入れ、涼から結海の悪行を知らされた。
彼女はオレが思っていたよりかずっと狡猾で、女の嫌なところを煮詰めたような人物だったのだ。
オレに気がある彼女はあまねに嫉妬し、見守りをお願いした一週間の間、絶えぬ虐待を繰り返していたらしい。見えずらい拷問の類をあまねに与え続けたのだ。





オレの首は、はねられた。

あの時感じた恐怖は、これを予想していたのかもしれない。





オレは悪しきゴリアテだったのだ。




もはや屍となったオレにあまねを愛することはできない。



でも、もしも再びあまねを愛でることが許されたなら。









彼が望むままに、この舌先で愛させてくれ。

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