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21、うそでしょ

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まるで、新境地を開いたかのような心地だった。

俺の性器からバシャバシャととろみのない液体が吐き出され、お腹の上に溜まっている。


予想だにしなかった光景に、俺は怖くなって震えながら涼くんの腕を掴んだ。

「りょ、りょうく……」

不安そうに涼くんを呼びつつも、俺の性器は萎えるどころか硬さを保ったままだった。泣きそうなのに、浅ましく官能的な世界を捨てきれない。

「タオル、取ってきていい?」
優しく頭を撫でながら、穏やかな声で接する涼くん。

ああ、俺はこのままでいいんだって。

少しずつ落ち着きを取り戻した。

ティッシュでは拭えきれないほどの水たまりをタオルで吸い取り、胸元にキスをしてくれた。

「んっ♡」

再び甘い声を出してしまう自分にあきれつつも、涼くんの温かさにどっぷりと浸り幸福を噛み締めた。

それから涼くんはバスタオルを下に敷き、俺をひっくり返すとおしりに舌を這わせた。

「っ!! あっ♡♡」

「膝立てれる?」

涼くんはお腹に腕を入れて軽く持ち上げると、イッたばかりの性器を擦り始めた。

「んっあっ!! やっりょ、うくんっ♡♡」

舌先を蕾にクチュックチュッと差し込みながら擦られると、なんとも言えぬ快感が全身を巡り、ビリビリとしびれた。






その時、涼くんのスマホが鳴った。








「もーなんだよ? あ、ケント先生」

「えっ」

俺は動揺して下半身に覆い被さる涼くんから逃れようとしたけど、彼は離してくれなかった。

「だーめ。ここにいて? もしもしー? ケント先生、半日も足らずに電話してくるなんてどんだけ堪え性ないんすか」

「うるさい。……もう家に着いたのか?」

涼くんはスピーカーを押したので、電話向こうのケントさんの声ははっきりと聞こえた。

「着いてますよ~。そんで今、甘あまぁ~なエッチしてます♡」

「ちょ、涼くん!」

慌てて身体を起こそうとしても、病み上がりの俺では涼くんを押しのける力はなかった。
代わりに涼くんは俺の性器を擦り始め、喘ぎ声をケントさんに聞かせようとした。

「ぁあっ♡あっりょ、りょうく、やややめてっ♡♡」

「別れた元彼にエッチの声聞かせるの、サイッコーに気持ちいい♡……特にケント先生には!」

突如怒りのこもった声を出した涼くんに俺は驚き、ビクンと震えた。

「……え?」

それと同時に、涼くんのセリフが理解できずに脳内を何度もリプライした。

別れた元彼に……??

俺はひどく混乱し、震える指先でシーツを握りしめた。

「あ、やっぱ覚えてないんだ?」

え、えっと……いつ……??

「記憶を消す前に、オレに電話くれたんだ。ほら、前のことあったから」

『前のこと』。

俺はカメラアイだが劣化版であり、記憶の一部に蓋をすることができる。完全にデリートできるわけじゃないから、何かの拍子に思い出すこともあるけど。一度、俺が自己都合により勝手に忘れちゃって、涼くんからお叱りを受けたことがあった。

「お、俺、ケントさんに捨てられちゃったの……?」

恐れていたことが起きた。


ケントさんに捨てられないように、必死に彼が気に入ることをしようとしていたのに。

青ざめた俺を涼くんは頬を柔らかく撫で、それをあらぬ方向に否定する。

「あまねがフッたんだよ。出て行けーって」

「う、うそ!!」

慌てふためき、俺は涼くんのスマホを両手で抱える。

「う、うそだよね? 俺、ケントさんのこと好きだからね?!」

「オレのこと、覚えてくれてるんだな」

「?? な、に??」

「今日、何日かわかるか」

今日?

学校に行ってないから曜日の感覚が薄れているけれども。
カメラアイの俺はすぐさま答えられる。

「7月31日でしょ」

「……そうか」

ケントさんは電話の向こうで、深いため息をついた。
確かに、俺はソファで眠った記憶がなかった。だから意図的に半日ほど消した可能性は否めない。

「なに? 消しちゃったの、怒ってる? ごごごめんね、ケントさん」

「あまね、今日8月9日だよ」

「━━━うそっ!!」

スマホを両手で抱えながら、すでに8月だとウソをつく涼くんを睨んだ。

あ、違う。

涼くんはこんなウソ、つかない。

「……な、なんで」

「……あー。ケント先生が話すとややこしくなっちゃうから、オレがかいつまんで話しときます。オレがしばらくここ住んでいいんですよね?」

「ああ。悪いな。……あまね、悪かった」

「?? な、にが?! 俺、覚えてないから!」

叫ぶ俺の声を無視し、ケントさんは通話を終了させた。

とてもセックスの続きをする雰囲気ではなくなり、気持ちも性器も萎え衰えた。





だが、それで良かったのかもしれない。


後回しにしていたことを、確認しなきゃ。


そして、俺とケントさんに何が起きたのか聞かなきゃ。



━━━ああ、でも待って。

俺が記憶に蓋をするのはよっぽどのことが起きた時だ。
過去に、数度しかしたことはない。


親父にひどい言葉を浴びせられても、惨めに飢えていても、俺はすべて耐えて消そうとしなかった。

空白の時間は……今までないはずだ。

数秒、もしくは数分の出来事を消すことはあっても、こんなに長く消してしまったのは前例がない。





それほどの、こと?





それぐらい辛いことが、俺に起こった?







そして、俺は大好きなケントさんに、「出て行って」と言ってしまった?

ただのケンカじゃない。


ここはケントさんのうちだし、俺はそんなこと言う資格なんてないのに。





「……修復できない感じ?」


俺は何が起きたか聞くことよりも、未来を優先させることにした。

「そうだな」

そして、涼くんの返事を聞いて、絶望した。




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