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八でない人と蜂みたいな兄

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時間のかかる高速バスを選んだのは、安心したかったからだ。

新幹線は人の出入りが激しい。ナギが追ってくる恐怖に怯えながら乗るよりも、時間はかかるが乗車する人間が限定されるバスを選んだのはそういうわけだ。

だが、その長時間の拘束が今、重い足枷となっていてもどかしい。



会うはずだった今朝、ガムとは結局会えなかった。
昨日は午前のテストが終わると「用事がある」と言ってガムは先に帰った。
ラインの乗っ取りを考えると、ガムと連絡取れなくなって丸一日経っていることになる。
「用事がある」と言ったガムは、もしかしてナギに会ってたんじゃないだろうか。高校の用務員であるナギが、ガムと知り合う可能性はゼロではない。
むしろ、執拗な兄のことだから積極的に声をかける可能性はあった。

なのにだ。

オレは自分だけ逃げてばかりで、周りには気を使ってこなかった。





いやいや、まさか。危害加えるなんてこと、大人がしねーよな。


ほんとに?


しないと言えるか?



チクリと、蜂の針が刺さった気がした。




オレはスマホを取り出し、電源を入れた。







隣にミツキがいたがもうなりふり構ってはいられない。
約束をすっぽかしたオレのラインは通知で溢れ、その中からモモちゃんの個人ラインを探し、開いた。
たくさんの未読メールがあった。
それらを丁寧に読むが、ガムの情報は得られない。
ーーーごめんモモちゃん、今日都合悪くて行けなくなった
すると、すぐに既読がついた。
ーーーなんで
オレはすかさずガムのことを訊ねる。
ーーーガム、そっちに着いた? 今朝会えなくてさ

ーーーガムくんまだ来てないよ

あー、やっぱ合流してないか。困ったな。インスタの方に連絡してみるか?


いや、『ガム』からラインが来ていることが気になる。といっても、中身は乗っ取ったナギのはずだが。
オレがそのことをわかっているのに、ナギはわざわざガムのアカウントでメッセージをよこしてきた、ということだよな。

オレは悩んだ末、機内モードにしガムのラインを開いた。

「…………」

はぁ……。
ダメだ、こいつ。




マジでヤバい。

ミツキには完全にこっちの味方になってもらわなきゃ、オレは負ける。

オレは悶々としながら、この長い旅路でミツキにオレに降りかかった災いを話すことにした。
ああ、ついでに祖先の悪行のことも教えてやろう。
ミツキは冷静で思慮深い。一つしか変わらない妹なのに、いつもオレを助けてくれる。きっと、本当に血筋が違うのだ。父の方を強く受け継いだミツキと、母方の葛間家をほとんど受け継いだオレ。
葛間家の呪いすら継いでしまった。

……こんなこと言ったら「中2病か?」なんてあきれられそうだけど。
すべてを話したら、理解してくれるだろう。
負の連鎖はあるのだ、と。

大阪まで、まだ数時間もかかるのだから、話すには十分だ。

「ミツキ、お前の話聞いてやろうと思ってたんだけど、やっぱオレの話していいかな」
「……っ! もちろんだよ!」
ミツキはハッとして、そして少しばかり嬉しそうに耳を寄せた。なるべく小声ですむようにと、妹ならではの配慮だ。それが周りから見たらイチャイチャしているカップルにしか思えなくても、そしてそれをオレが少し気にしていても、ミツキの心遣いは優しいものだった。



吸い取られたエネルギーが、わずかに回復した気がした。



こんなかわいくて恵まれた子の、なにかが少しでもモモちゃんにあったなら。そうだ、もう少し彼女がかわいかったなら、オレも付き合っていたかもしれない。

「ん? なに。『モモちゃん』の話をするの??」
妹は少し拍子抜けしたようで、ほんの少し口を尖らせた。
「いや、これは本題じゃないんだけど。とにかく、オレが思ってること全部話すからさ。ミツキの中で、それを組み立ていって」
オレは理路整然と言えない自信があった。プレゼンは苦手だ。
頭の回転の早いミツキに、順序よく理解してもらおう。
「……なるほどね。今頭の中ぐちゃぐちゃなわけね」
「そう。悪いな」
「いいよ。話してくれるの嬉しい」
「モモちゃんはさ、入学式の日に自分のことモモって呼んでー、てアピールしてきたわけよ。皆はえらい積極的な子だなーと思ったと思うけど、オレはね、知ってたの。オレと同じ班にモモカちゃんて子がいてさ。すんげーかわいくて。きっとこの子をライバル視したんだと思う。モモって呼ばせないように、先手を打ってた」
うんうん、とミツキは軽く頷いた。
「モモちゃんは正直かわいくはなくてさ。あー面倒くさそうな子だなっていうのが、オレの第一印象だったわけ。あ、ちなみにモモちゃんのことモモちゃんて呼んでるのはオレらだけで、だいたいの奴は『沼っち』て呼んでる。というか、そっちの方がほんとはしっくりくる」
「モモカちゃんが『モモちゃん』になったの?」
「最初は近藤さん、って苗字で呼んでたけどな。今は『モモカ』って呼ばれてることが多いかな」
「おにぃは?」
「オレは『近藤さん』。仲良くもないし」
「おにぃ、優しいね」
ヨシヨシ、と頭を撫でてくれた。
「優しくねーし。優しかったら、あいつのこと利用してねー」
オレはモモちゃんを利用していた。
仲良くなったから、ではないのだ。
一人暮らしの家があるから、週末泊まれるから仲良くなったのだ。
オレがモモちゃんにどんな扱いをしていたか話すと、それでもミツキは頭を撫でてくれた。
「おにぃなりに、ギブアンドテイクしてたんでしょ」
ミツキは、優しい。
「それで、その発端となってたのがナギおにいちゃんだったってわけね」





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