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①
5/忘れた人とおしゃべりクソ野郎な兄
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「そんなことあったんだ」
オレが風呂に入っている間に、兄はミツキにモモちゃんのことを話していた。
~~~前言撤回だっ。
こんなすぐにバラしてしまう兄なんて、エモい対象にもならねー。
「おい、クソナギ。なんで話すんだよ」
低音ボイスで威嚇したが、2人には全く通用しなかった。
「おにぃ、昔からそういうとこあるよね。超絶イケメンじゃないんだけど、安心・自慢できるキャラ。とりあえず仲間に入れときたいよね」
「褒めてんの? けなしてんの?」
ミツキの毒は毎回ストレートだ。
「ぬいぐるみ」
「けなしてるのかっ」
オレはリビングのソファーでくつろぐ妹に、濡れた頭を振ってやった。
「きゃーっ」
「クオン、ミツキちゃんは心配してたんだよ」
何が悲しくて、妹に心配されなきゃいけないんだっ。
悲しいくらいに、オレは自分の立ち位置を理解している。かりそめの人気なのもわかっているんだ。
「おにぃごめんね、言葉が悪かった。プーさんて言えば良かったね」
「たいして変わんねーよバーカッ」
妹の首に手をかけ、左右に振る。
「おにぃ、ごめん~」
「はいはい、終わり終わり」
この一連のおふざけは、オレたち兄妹の恒例行事だ。
「オレの弟も妹も、ほんとかわいいなあ♡♡」
成人したナギが、年の離れたオレたちのことを愛でる。これもお約束ごとのようなセリフだった。
今朝あんなことを聞かなければ流しておけるセリフだったが、いまのオレはゾワゾワと虫酸が走った。こいつらと同じ場所にはいられない。
オレはナギをひと睨みし、ラップのかかった皿を持って自室へと逃げた。
それから夕方まで何度もノックする音が聞こえたが、両親が帰ってくるまでは無視を決めこんで閉じこもった。ミツキは決して無理に入ってくることはしない。両親もだ。
無理やり入ってくるのは、いつも兄。
「起きてるじゃん」
「入ってくんな」
後ろ手でドアを閉めるナギを威嚇し、ペンケースを投げつける。
チャックのあいたそれは、中身をバラバラとこぼして床に落ちた。
「危ないだろ」
ナギは足元に落ちたペンや定規を拾い、丁寧にケースに戻してくれた。
「なんで妹にまで言うんだよ」
惨めじゃないか。妹にまで、オレのポジション憐れまれて心配されるなんて。
そんな気持ち、こいつらには理解できないことなのか?
「クオンは自己肯定感低いなあ」
バカなのかな。オレは低くはない。普通なのだ。
「お前らが高すぎなんだよ。天上天下唯我独尊か」
「……あのさ、ミツキちゃんは羨ましがってるんだぞ」
「はあ゛っ?」
「誰とでも仲良くできる、クオンのこと尊敬してる」
「……」
「さっきはふざけて、お約束みたいにディスっただけ」
なんだ、急に。
「ほんとは、どうして『モモちゃん』が要注意だってわかるのか聞きたがってる」
んん?
「意味がわからん」
さっきは心配してるって言ったじゃないか。
「ちょっとミツキちゃんの話していいか」
「どうぞ……って近いっ!」
オレの寝転がっているベッドサイドに座ろうとするから、押しのけてやった。ナギは仕方なさそうに椅子に座る。
「ミツキちゃんは一匹狼みたいな子だろ」
「ああ、孤立はしてないけど群れないね」
「誰とでも仲良くできるクオンと違うのは、重要さかな。クオンの周りにいる子は、クオンと話したくて話しかけてる。ミツキちゃんの友達は仕方なく話しかけてるって感じ。あー、実際あったこと説明しないとわかりづらいか。バスケ部でイジメがあったみたいでさ」
「イジメ?」
「女子特有のやつだよ。一人をハブるやつ。仲良し6人グループ内で、最近それがあったらしい。仲間のうち一人を一定期間無視したり、遊ばなかったり悪口言ったり」
「うげぇ。ミツキに、じゃないんだよな?」
ミツキにそんなことあったら、オレもナギもキレ散らかす。
「ミツキちゃんには、そのハブられた子がやってきてた。急に仲良くしてきたから最初はびっくりしたみたいだよ。グループ抜けたのかなって。でも、しばらくするとその子はグループに戻っていって、今度は違う子が近づいてきたんだ。ようは、グループ内でとにかく一人をハブる、というのが流行ってたらしい。こぼれた子が、ミツキちゃんのとこに次々やってきたってこと」
「陰湿だなあ」
女子あるあるなのだろうか。
確かにモモちゃんも、そんな感じだし。
「結局ミツキちゃんは詳しくは知らず、来るもの拒まずで仲良くしてたんだけどさ、最後にそのゲームを始めたボスがハブられたらしい。今まで来た子は耐えてたみたいだけど、そのボスは虐められているとコーチに訴えた。それで、コーチが怒って次の大会出場禁止にしたんだ」
「えー……」
ミツキ、巻き込まれちゃったのか。かわいそ。それでオレのこと、心配したのか。
「自分のようになるんじゃないかって心配してくれたわけね」
「そういうこと。でもオレがクオンは『モモちゃん』のこと気づいてるよ、て話したら羨ましがってた。そのボスの子と『モモちゃん』は似てる感じするしさ」
「ミツキは鈍いのかなあ? ナギもモモちゃんのこと厄介な子だって気づいたよな?」
「そりゃあ人生経験積んでますから」
はは、と笑いながらペンをくるくると回した。
「クオン、ゴロ寝ながら勉強してたんだ? オレ教えようか」
「い、いやいいっ。話終わったら出てって」
ギシ、と椅子が軋んだ。
180センチ以上ある兄が、そばで立ち上がると圧迫感があってドキドキする。
「今日話したのは1人だけ?」
「はあっ??」
ベッドに手をつき、膝をつき、ゆっくりと獲物を狙うように近づいた獣。
「用務員室で待ってたのに」
ゾワゾワと背中が震え、突如獲物となったオレは固まって動けない。
硬直したオレの上に覆い被さり、完全に捕獲したあと奴は言ったんだ。
「キス1回じゃ足りない」
オレが風呂に入っている間に、兄はミツキにモモちゃんのことを話していた。
~~~前言撤回だっ。
こんなすぐにバラしてしまう兄なんて、エモい対象にもならねー。
「おい、クソナギ。なんで話すんだよ」
低音ボイスで威嚇したが、2人には全く通用しなかった。
「おにぃ、昔からそういうとこあるよね。超絶イケメンじゃないんだけど、安心・自慢できるキャラ。とりあえず仲間に入れときたいよね」
「褒めてんの? けなしてんの?」
ミツキの毒は毎回ストレートだ。
「ぬいぐるみ」
「けなしてるのかっ」
オレはリビングのソファーでくつろぐ妹に、濡れた頭を振ってやった。
「きゃーっ」
「クオン、ミツキちゃんは心配してたんだよ」
何が悲しくて、妹に心配されなきゃいけないんだっ。
悲しいくらいに、オレは自分の立ち位置を理解している。かりそめの人気なのもわかっているんだ。
「おにぃごめんね、言葉が悪かった。プーさんて言えば良かったね」
「たいして変わんねーよバーカッ」
妹の首に手をかけ、左右に振る。
「おにぃ、ごめん~」
「はいはい、終わり終わり」
この一連のおふざけは、オレたち兄妹の恒例行事だ。
「オレの弟も妹も、ほんとかわいいなあ♡♡」
成人したナギが、年の離れたオレたちのことを愛でる。これもお約束ごとのようなセリフだった。
今朝あんなことを聞かなければ流しておけるセリフだったが、いまのオレはゾワゾワと虫酸が走った。こいつらと同じ場所にはいられない。
オレはナギをひと睨みし、ラップのかかった皿を持って自室へと逃げた。
それから夕方まで何度もノックする音が聞こえたが、両親が帰ってくるまでは無視を決めこんで閉じこもった。ミツキは決して無理に入ってくることはしない。両親もだ。
無理やり入ってくるのは、いつも兄。
「起きてるじゃん」
「入ってくんな」
後ろ手でドアを閉めるナギを威嚇し、ペンケースを投げつける。
チャックのあいたそれは、中身をバラバラとこぼして床に落ちた。
「危ないだろ」
ナギは足元に落ちたペンや定規を拾い、丁寧にケースに戻してくれた。
「なんで妹にまで言うんだよ」
惨めじゃないか。妹にまで、オレのポジション憐れまれて心配されるなんて。
そんな気持ち、こいつらには理解できないことなのか?
「クオンは自己肯定感低いなあ」
バカなのかな。オレは低くはない。普通なのだ。
「お前らが高すぎなんだよ。天上天下唯我独尊か」
「……あのさ、ミツキちゃんは羨ましがってるんだぞ」
「はあ゛っ?」
「誰とでも仲良くできる、クオンのこと尊敬してる」
「……」
「さっきはふざけて、お約束みたいにディスっただけ」
なんだ、急に。
「ほんとは、どうして『モモちゃん』が要注意だってわかるのか聞きたがってる」
んん?
「意味がわからん」
さっきは心配してるって言ったじゃないか。
「ちょっとミツキちゃんの話していいか」
「どうぞ……って近いっ!」
オレの寝転がっているベッドサイドに座ろうとするから、押しのけてやった。ナギは仕方なさそうに椅子に座る。
「ミツキちゃんは一匹狼みたいな子だろ」
「ああ、孤立はしてないけど群れないね」
「誰とでも仲良くできるクオンと違うのは、重要さかな。クオンの周りにいる子は、クオンと話したくて話しかけてる。ミツキちゃんの友達は仕方なく話しかけてるって感じ。あー、実際あったこと説明しないとわかりづらいか。バスケ部でイジメがあったみたいでさ」
「イジメ?」
「女子特有のやつだよ。一人をハブるやつ。仲良し6人グループ内で、最近それがあったらしい。仲間のうち一人を一定期間無視したり、遊ばなかったり悪口言ったり」
「うげぇ。ミツキに、じゃないんだよな?」
ミツキにそんなことあったら、オレもナギもキレ散らかす。
「ミツキちゃんには、そのハブられた子がやってきてた。急に仲良くしてきたから最初はびっくりしたみたいだよ。グループ抜けたのかなって。でも、しばらくするとその子はグループに戻っていって、今度は違う子が近づいてきたんだ。ようは、グループ内でとにかく一人をハブる、というのが流行ってたらしい。こぼれた子が、ミツキちゃんのとこに次々やってきたってこと」
「陰湿だなあ」
女子あるあるなのだろうか。
確かにモモちゃんも、そんな感じだし。
「結局ミツキちゃんは詳しくは知らず、来るもの拒まずで仲良くしてたんだけどさ、最後にそのゲームを始めたボスがハブられたらしい。今まで来た子は耐えてたみたいだけど、そのボスは虐められているとコーチに訴えた。それで、コーチが怒って次の大会出場禁止にしたんだ」
「えー……」
ミツキ、巻き込まれちゃったのか。かわいそ。それでオレのこと、心配したのか。
「自分のようになるんじゃないかって心配してくれたわけね」
「そういうこと。でもオレがクオンは『モモちゃん』のこと気づいてるよ、て話したら羨ましがってた。そのボスの子と『モモちゃん』は似てる感じするしさ」
「ミツキは鈍いのかなあ? ナギもモモちゃんのこと厄介な子だって気づいたよな?」
「そりゃあ人生経験積んでますから」
はは、と笑いながらペンをくるくると回した。
「クオン、ゴロ寝ながら勉強してたんだ? オレ教えようか」
「い、いやいいっ。話終わったら出てって」
ギシ、と椅子が軋んだ。
180センチ以上ある兄が、そばで立ち上がると圧迫感があってドキドキする。
「今日話したのは1人だけ?」
「はあっ??」
ベッドに手をつき、膝をつき、ゆっくりと獲物を狙うように近づいた獣。
「用務員室で待ってたのに」
ゾワゾワと背中が震え、突如獲物となったオレは固まって動けない。
硬直したオレの上に覆い被さり、完全に捕獲したあと奴は言ったんだ。
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