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捨てられた兄と捨てたい兄

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ナギがいつ帰ってくるかと気が気でなかったオレは、妹に急ぐよう促し、スマホの電源を切らせてからバスターミナルへと向かった。

「お、おにぃ」
大阪行きの高速バス、運良く席があいていた。
無言で2枚購入したオレに、ミツキはいつになくオロオロしていた。
珍しい。
「ミツキがうろたえてるなんて珍しいもん見たな」
「だ、だって」
大阪なんて、遠いところ!とミツキは思っているのだろうが、本当の目的地はF県だ。
電源を落としたまま大阪に移動し、到着してからスマホを起動して次の交通手段を考えようと考えていた。ナギはオレの位置情報を確実に把握していると思ったからだ。きっとオレのスマホに何かしたんだろう。
あいつのことだから、ミツキのスマホにも操作したに違いない。ほんと徹底的な粘着質男なんだから。
「ミツキは日曜に帰ればいい。夜行もあるだろうし」
「それでもいいけど……」
いつになくうろたえているミツキが、妹らしく見える。
「……おにぃは、ナギおにいちゃんに嫌なことされた?」
「……」
口にするのもおぞましい。あの変態執着クソストーカー野郎がっ。

待合室は閑散としていたが、妹は気を使って小さな声で話を続けた。
「少し前にね、そっくりさんの話をしたの。ほら、旅行の時見かけたサッカーやってる人のこと」
「……ああ、覚えてる」
覚えてるも、何も。
今からそいつに会ってやろうと思って家出してる。
「ごめんね、なんかあの時すごくしつこく聞かれてさ。様子がおかしかったのに、おにぃに言えなかった」
「いいよ。お互い忙しくて、なかなか話すことできなかったもんな」
オレは毎週モモちゃんちに外泊していたし、平日も遅くまで遊んで帰ることが多かった。規則正しい生活を送るミツキとは、ここ数ヶ月顔を合わせる機会も少なかった。
「おにぃが養子っていう妄想話したら、なんか腑に落ちたような顔して笑ってた」
「あー……」
以前オレがいきなり血が繋がってないとか言い出したから、出所を調べてたんだな。くっそキモいやつめ。
「あたし、おにぃが養子だなんてほんとは思ってないからね?」
「分かってる」
オレとミツキは似ていない。だがそのことで、養子だなんて冗談を言うほどミツキは無神経じゃないはずだ。血が繋がっている、と知っているからこその発言なのだ。
「オレと母ちゃんのこと、知ってたの?」
「え?」

オレの右わき腹、骨盤の上あたりには生まれつきのアザがある。
これが、実はオレと母親を繋ぐ決定的な証拠なのだ。
母親にも、別の箇所にアザがあった。オレは見せてもらったことがあるが、ミツキはおそらく見たことないはずだ。
「名前のこと?」
「名前?」
母親の名前は、七緒だ。ナギはナナちゃんと呼んでいる。
「ああ、七と九ってこと?」
別に大したことではない。オレたち兄妹は、男でも女でも通用する中性的な名をつけられた。たまたま、オレのクオンの響きに数字の九が使われたと思っていたが。
ん?
そういえば、母親からそんなこと言われたなとわずかに思い出す。
「おじいちゃん、覚えてる?」
「じいちゃん? 七回忌やったじいちゃん?」
「うん、そのおじいちゃん。名前が六郎だったでしょ」
「……よく覚えてんなあ」
祖父が亡くなったのはずいぶん昔だ。七回忌があったのも2年前のことである。
「おじいちゃんが六、お母さんが七で、おにぃが九でしょ」
なるほど。
「七回忌の時に気付いて、ずっと気になってた。連番なのかなって」
母親と自分を繋ぐには、『八』が足りない。
「……それで、そっくりさん見た時に、この人が『八』だ!って思っちゃったの」
「もらわれっ子説はそこから来たのか」
「そう! 旅行の時は、あの人が生き別れの兄妹って話で盛り上がったよね」
オレではなくそっくりさんが養子に出た、という妄想話だ。
「『八』の発想、初めて聞いた。なんで言わなかったの」
ナギよりかは、オレとミツキはよく話す。くだらない妄想話をよくしていた割に、じいちゃんのことも『八』についても初耳だった。
「うっすらとだけど、右手が赤かったなあって思い出してさ」
「……あー、なるほどね」

そうなのだ。
祖父の右腕には大きなアザがあった。手の甲まで広がっていたので、長袖を着ていてもわかるほどだ。
「おにぃも、わき腹に小さなアザあるでしょ? だから……お母さんのは見たことないけど、隠してるんだろうなあって分かったの」
「気ぃ使ったんだ?」
気を使ったことに気付かれ、それをあえて指摘してやると、ミツキは顔を赤く染めた。

「ごめんね、おにぃ。アザと名前を受け継いでるんじゃないかと思ったから、そこは言えなかったの。ナギおにいちゃんにも言ってないよ?」
「名推理だったな、ミツキ。探偵になれるんじゃない?」
頭をたれて涙ぐんだミツキの後頭部を、無遠慮にワシワシと撫でてやった。
「ぅう~。でも、ナギおにいちゃんにそっくりさんのこと話したの、後悔してる」
妹に根掘り葉掘り聞き出すなんて、大人気ないにもほどがある。クソナギめ。
「あのね、実はそっくりさんのこと話したあと、おにいちゃんすごく気になったらしくて、色々調べたみたいなんだ」


……は?


「名前は天野伊織さんていうんだって。他にも色々教えてくれたよ。身長体重、血液型、チャームポイントとか、出身はS県だったかな、……とにかく細かーく調べてた。実際にF県に行って、交友関係も調べたみたい。それ聞いて、おにいちゃんのこと怖くなっちゃった」


はぁ゛あ゛?!!!!



まっじ、あの兄貴捨てたい~~~っ!!!


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