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花束の贈り主

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「自己満足として、毎年花束を贈っていた。気に入ってもらえたのなら嬉しい」

「ア、アルベルト様が花の妖精さんだったんですね」

 アルベルト様は目を丸くした。
 何か言わなければという思いから、変なことを言ってしまったのかもしれない。

「花の妖精?」

「あ、その、名前を名乗らずに花だけを届けてくださるものだから、勝手に妖精さんとお呼びしてて」

 子どもっぽいところを見せてしまった。余計なこと言わなければよかったのに。私のバカ!

 その時、アルベルト様がプハッと吹き出した。
 今度は私が目を丸くする番だった。

「妖精か。喜んでもらえていたようで何よりだ。今年のカーネーションも玄関に飾ってくれていただろう」

「毎年、場所は少しずつ違いますが玄関に飾っていますので。とても立派な花束ですから」

 私は顔を赤くした。

 そんな私に追いうちをかけるようにアルベルト様はずいっと身を乗り出して私に近づいた。
 整った顔に至近距離で見つめられて、私はさらに赤面した。

「そこで、だ。花の妖精は婚約を結びたい相手がいるんだが、どう思う?」

 この人は自身の顔の破壊力を知っているにちがいない。

「え、ええと、両親の意向もありますので」

 2人きりの空間にはもう耐えられない。
 ひとまず両親のことを口実にこの状況から抜け出そうとすると、アルベルト様はにっこりと笑った。

「ちなみに、ご両親の許可は既にいただいている。あとは君が顔を縦に振るだけだ。好きだ、キイラ。結婚してくれないか?」

 どうやら外堀は埋められていたらしい。
 私が耐えきれずに婚約を承諾するのに、さほど時間はかからなかった。



 半ば強引に決まった婚約ではあったが、アルは恋愛に慣れていない私に根気よく付き合って交流を重ねてくれて、いつの間にか私も恋に落ちていた。
 今となっては、婚約を破棄してくれたユージーンには感謝している。

 ユージーンはアルの家ににらまれて社交界では居場所がなくなり、子爵家を継ぐのはユージーンの弟ということになったらしい。さらに、後継ぎではなくなったことでハンナさんにも捨てられてしまったらしい。
 ユージーンを捨てたハンナさんは、既に噂になっていて嫁ぎ先がなく、泣く泣く実家で今も暮らしているらしい。

 アルは私を愛してくれて、私もアルを愛している。
 両想いの婚約者がいて、最高に幸せだ。
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