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花束の贈り主

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 昨日の記憶をなんとか思い出したものの、私なんかがなぜアルベルト様に婚約を申し込んでいただけたのだろうかという疑問がむくむくと湧き上がった。

「あの、どうして私なんかと……」

 私の疑問を受け止めたアルベルト様は、ふむ、と腕を組んだ。

「昔、君よりも少し歳上で、汚れてこの家の門の近くでうずくまっていた子どもを家に迎え入れた記憶はないか?」

 アルベルト様の言葉を聞いて、記憶の中の何かが引っ掛かった。
 考え込む私を見ながら、アルベルト様は話を続けた。

「それが、俺だ。君は俺を強引に風呂に入れて、家族と喧嘩して家出してきた俺の話を聞いて、一緒に遊んでくれた」

 急に記憶がよみがえった。汚れたお兄さんがむすっとした顔で木の下に座り込んでいて、あまりに汚れていたものだからお風呂に放り込んだのだ。

「アル……?」

 記憶と一緒に思い出した呼び名を口にすると、アルベルト様は嬉しそうに笑った。

「思い出してくれたんだな。そう。アルだ」

 アルベルト様と会ったことがあると分かって少し気楽になった私は、ピンと正していた姿勢を少し緩めた。
 アルベルト様は話を続けた。

「君に家に帰るよう説得されて家に帰ってから、君のことが忘れられなくなった。あの短時間で恋をしていたんだな。何回か遊びに行って、仲良くなったら婚約を申し込もうと思っていたんだが……」

 アルベルト様は肩を落とした。

「なかなか両親に君と婚約したいということを言い出せず、悠長にしている間に君に婚約者ができたというわけだ」

「そういえば、アルと出会った時はまだユージーンと婚約していなかったように思います」

 何も言わずに聞いているのも気まずくなって口を挟んだ。
 アルベルト様はそんな私に眉尻を下げて微笑んだ。

「君が婚約者と幸せになれるならそれでいいと思ったんだが……。申し訳ないが彼にあまり良い噂は聞かなかった。一方で、誰かと話して笑っている君や他人に親切にしている君をたまに見かけるたびに、恋する想いはつのった」

 私は口をハクハクとさせた。恋、なんて言葉は私とは無縁だと思っていたから。
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