15 / 16
花束の贈り主
7
しおりを挟む
昨日の記憶をなんとか思い出したものの、私なんかがなぜアルベルト様に婚約を申し込んでいただけたのだろうかという疑問がむくむくと湧き上がった。
「あの、どうして私なんかと……」
私の疑問を受け止めたアルベルト様は、ふむ、と腕を組んだ。
「昔、君よりも少し歳上で、汚れてこの家の門の近くでうずくまっていた子どもを家に迎え入れた記憶はないか?」
アルベルト様の言葉を聞いて、記憶の中の何かが引っ掛かった。
考え込む私を見ながら、アルベルト様は話を続けた。
「それが、俺だ。君は俺を強引に風呂に入れて、家族と喧嘩して家出してきた俺の話を聞いて、一緒に遊んでくれた」
急に記憶がよみがえった。汚れたお兄さんがむすっとした顔で木の下に座り込んでいて、あまりに汚れていたものだからお風呂に放り込んだのだ。
「アル……?」
記憶と一緒に思い出した呼び名を口にすると、アルベルト様は嬉しそうに笑った。
「思い出してくれたんだな。そう。アルだ」
アルベルト様と会ったことがあると分かって少し気楽になった私は、ピンと正していた姿勢を少し緩めた。
アルベルト様は話を続けた。
「君に家に帰るよう説得されて家に帰ってから、君のことが忘れられなくなった。あの短時間で恋をしていたんだな。何回か遊びに行って、仲良くなったら婚約を申し込もうと思っていたんだが……」
アルベルト様は肩を落とした。
「なかなか両親に君と婚約したいということを言い出せず、悠長にしている間に君に婚約者ができたというわけだ」
「そういえば、アルと出会った時はまだユージーンと婚約していなかったように思います」
何も言わずに聞いているのも気まずくなって口を挟んだ。
アルベルト様はそんな私に眉尻を下げて微笑んだ。
「君が婚約者と幸せになれるならそれでいいと思ったんだが……。申し訳ないが彼にあまり良い噂は聞かなかった。一方で、誰かと話して笑っている君や他人に親切にしている君をたまに見かけるたびに、恋する想いはつのった」
私は口をハクハクとさせた。恋、なんて言葉は私とは無縁だと思っていたから。
「あの、どうして私なんかと……」
私の疑問を受け止めたアルベルト様は、ふむ、と腕を組んだ。
「昔、君よりも少し歳上で、汚れてこの家の門の近くでうずくまっていた子どもを家に迎え入れた記憶はないか?」
アルベルト様の言葉を聞いて、記憶の中の何かが引っ掛かった。
考え込む私を見ながら、アルベルト様は話を続けた。
「それが、俺だ。君は俺を強引に風呂に入れて、家族と喧嘩して家出してきた俺の話を聞いて、一緒に遊んでくれた」
急に記憶がよみがえった。汚れたお兄さんがむすっとした顔で木の下に座り込んでいて、あまりに汚れていたものだからお風呂に放り込んだのだ。
「アル……?」
記憶と一緒に思い出した呼び名を口にすると、アルベルト様は嬉しそうに笑った。
「思い出してくれたんだな。そう。アルだ」
アルベルト様と会ったことがあると分かって少し気楽になった私は、ピンと正していた姿勢を少し緩めた。
アルベルト様は話を続けた。
「君に家に帰るよう説得されて家に帰ってから、君のことが忘れられなくなった。あの短時間で恋をしていたんだな。何回か遊びに行って、仲良くなったら婚約を申し込もうと思っていたんだが……」
アルベルト様は肩を落とした。
「なかなか両親に君と婚約したいということを言い出せず、悠長にしている間に君に婚約者ができたというわけだ」
「そういえば、アルと出会った時はまだユージーンと婚約していなかったように思います」
何も言わずに聞いているのも気まずくなって口を挟んだ。
アルベルト様はそんな私に眉尻を下げて微笑んだ。
「君が婚約者と幸せになれるならそれでいいと思ったんだが……。申し訳ないが彼にあまり良い噂は聞かなかった。一方で、誰かと話して笑っている君や他人に親切にしている君をたまに見かけるたびに、恋する想いはつのった」
私は口をハクハクとさせた。恋、なんて言葉は私とは無縁だと思っていたから。
12
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

婚約破棄と自立心の獲得
銀灰
恋愛
リディアとエリオットの婚約は、彼女にとって夢のような出来事だった。市内でも有数の資産家の息子である彼との結びつきは、彼女にとっても大きな希望となった。
しかし、幸福な時間は長くは続かず、婚約後にエリオットの態度が次第に変わり始める……。忙しいという理由でリディアとの時間が減り、リディアは彼が他の女性と親しげにしているという噂を耳にする。
不安に駆られたリディアはエリオットを尾行し、彼が他の女性と密会している現場を目撃する。エリオットと直面するも、彼からは冷たく、婚約破棄を告げられてしまった。
打ちひしがれたリディアは孤独と絶望の中で過ごすが、時間が経つにつれ、心の穴も塞がり始める。リディアは絵画というかつての趣味に情熱を注ぎ、徐々に自立への第一歩を踏み出そうとするが――その中で、思わぬ意外を知るのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる