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花束の贈り主
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翌日。
昨日何があったのか詳しく教えてほしいと言うお父さまに、ユージーンに婚約破棄されたこと、ハンナさんのこと、アルベルト様のことを話した。
娘が婚約破棄されたと言うのに慌てる様子のないお父さまは、「そんな男と結婚しないで済んで良かったな。政略で婚約を結んでしまって申し訳なかった」と頭を下げた。
「いいえ、私がユージーンと尊重し合える関係になれるようにもっと努力すれば良かったのです。申し訳ないのですが、新たな縁談を探していただけませんか?」
首を横に振ってお父さまにお願いすると、お父さまはのほほんとした様子で言った。
「ああ、縁談に関してはそこまで心配しなくてもいいだろう」
どう言う意味だろうか。私はお父さまに聞いてみようとしたが、その時「お嬢さま、お客さまがいらっしゃいましたよ」と使用人に声をかけられてお父さまの部屋を出た。
お客さまというのはアルベルト様のことだった。アルベルト様は書き置きで予告していた通り本当に私に会いに来たのだ。
お母さまはアルベルト様に驚くことなくすんなりと迎え入れた。
アルベルト様と向かい合った私は、緊張で手が震えた。
雲の上の人のように思っていた方と向き合っているのだから、当然だろう。
「昨日は大変だったな。きちんと眠れたか?」
婚約破棄された私を気遣う言葉。
その時、私はハッと思い至った。
昨日、そういえば気絶したんだった。どのようにして家まで帰ってきたのだろうか。
まさか。
「あの、もしかして昨日、私が気絶した後……」
アルベルト様は困ったように眉尻を下げた。
「ああ、俺が抱き上げて馬車まで運んだ。意識を取り戻しそうになかったからな。申し訳ない」
やっぱり! 冷や汗が止まらない。伯爵令息様になんてことをさせてしまったのだろう。
「アルベルト様のお手をわずらわせてしまったなんて……! 本当に、大変申し訳ありませんでした!」
立ち上がって深々と頭を下げると、アルベルト様は慌てたように私の顔を上げさせた。
「気にするな。俺が望んでしたことだ。他の男には触れさせたくなかった」
私はアルベルト様の言葉の意味を理解できず、ポカンと口を開けた。
それに、今、俺って言わなかった? 昨日は私って言ってたけど。
「あの、俺って……」
「ん? ああ。普段は礼儀正しく私と言うようにしているんだが、一人称が私だと距離を感じるだろ? キイラ嬢を口説くのに、それでは困るからな。普段通り、俺と言うことにした。私の方が良ければそうするが」
く、口説く!?
男性からそのようなことをされたことがない私は顔をボッと赤くした。
婚約者のユージーンとは恋人関係ではなかったし。
「顔、赤いな。かわいい。そんな反応をしてもらえると言うことは、婚約についても色良いお返事を期待してもいいのかな」
色気たっぷりに微笑むアルベルト様に、頭がくらくらする。
婚約。そういえば、昨日そんなお話をしていた気が……。
昨日何があったのか詳しく教えてほしいと言うお父さまに、ユージーンに婚約破棄されたこと、ハンナさんのこと、アルベルト様のことを話した。
娘が婚約破棄されたと言うのに慌てる様子のないお父さまは、「そんな男と結婚しないで済んで良かったな。政略で婚約を結んでしまって申し訳なかった」と頭を下げた。
「いいえ、私がユージーンと尊重し合える関係になれるようにもっと努力すれば良かったのです。申し訳ないのですが、新たな縁談を探していただけませんか?」
首を横に振ってお父さまにお願いすると、お父さまはのほほんとした様子で言った。
「ああ、縁談に関してはそこまで心配しなくてもいいだろう」
どう言う意味だろうか。私はお父さまに聞いてみようとしたが、その時「お嬢さま、お客さまがいらっしゃいましたよ」と使用人に声をかけられてお父さまの部屋を出た。
お客さまというのはアルベルト様のことだった。アルベルト様は書き置きで予告していた通り本当に私に会いに来たのだ。
お母さまはアルベルト様に驚くことなくすんなりと迎え入れた。
アルベルト様と向かい合った私は、緊張で手が震えた。
雲の上の人のように思っていた方と向き合っているのだから、当然だろう。
「昨日は大変だったな。きちんと眠れたか?」
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その時、私はハッと思い至った。
昨日、そういえば気絶したんだった。どのようにして家まで帰ってきたのだろうか。
まさか。
「あの、もしかして昨日、私が気絶した後……」
アルベルト様は困ったように眉尻を下げた。
「ああ、俺が抱き上げて馬車まで運んだ。意識を取り戻しそうになかったからな。申し訳ない」
やっぱり! 冷や汗が止まらない。伯爵令息様になんてことをさせてしまったのだろう。
「アルベルト様のお手をわずらわせてしまったなんて……! 本当に、大変申し訳ありませんでした!」
立ち上がって深々と頭を下げると、アルベルト様は慌てたように私の顔を上げさせた。
「気にするな。俺が望んでしたことだ。他の男には触れさせたくなかった」
私はアルベルト様の言葉の意味を理解できず、ポカンと口を開けた。
それに、今、俺って言わなかった? 昨日は私って言ってたけど。
「あの、俺って……」
「ん? ああ。普段は礼儀正しく私と言うようにしているんだが、一人称が私だと距離を感じるだろ? キイラ嬢を口説くのに、それでは困るからな。普段通り、俺と言うことにした。私の方が良ければそうするが」
く、口説く!?
男性からそのようなことをされたことがない私は顔をボッと赤くした。
婚約者のユージーンとは恋人関係ではなかったし。
「顔、赤いな。かわいい。そんな反応をしてもらえると言うことは、婚約についても色良いお返事を期待してもいいのかな」
色気たっぷりに微笑むアルベルト様に、頭がくらくらする。
婚約。そういえば、昨日そんなお話をしていた気が……。
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