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婚約解消と運命の女神

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 レオン様とは、通っていた学園で出会った。第3皇子である彼は早々に皇位継承権を放棄し、自由な立場で我が国に留学に来ていたのだ。

 初めは知識の深さと頭の回転のはやさに驚き、次に何気ない優しさに心があたたかくなった。そして、私をからかうときに見せる笑顔がくすぐったかった。

 容姿も身分も良く明るい性格の彼は、学園の人気者だった。他の令嬢に笑顔を見せているところや手作りのお菓子を受け取っているところを見ると、なぜか胸がチクチクと痛んだ。

 彼といると、新たな自分を発見してばかりだった。しかし、ユーリという婚約者がいる私は、レオン様との距離が必要以上に近くならないように気を付けていた。

 そのレオン様が、今結婚候補として目の前にいる。

 私は頬を赤らめて口をぱくぱくと動かした。驚きすぎて何を言えばいいのか分からない。
 助けを求めようとお父様を見ると、まさか隣国の王子が出てくるとは思わなかったらしく、動揺が見てとれた。

 レオン様はお父様に頭を下げた。

「はじめまして。北の帝国の第3皇子のレオンと申します。既に皇位継承権は放棄しまして、いずれは皇帝家を離れて侯爵位をいただくことになっております。ヘレネ嬢に求婚する許可をいただきたく存じます」

「あ、ああ……」

 レオン様は呆然としているお父様の漏らした、返事とも相槌ともつかない言葉を許可と受け取ることにしたようで、クルリと私に向き直った。

 目があったレオン様はフッと笑うと、その場にひざまずいた。
 慌てる私の右手を取り、下から見上げる。

 余裕のあるその表情に、頬が熱くなる。

「ヘレネ嬢。学園で出会い、思慮深くやさしいあなたと話すたびに、婚約者がいると知りながらも惹かれる気持ちを止めることはできませんでした。婚約を解消するならば、ぜひ私と結婚してほしい」

 右手の甲に口づけを落とされて、私の頭はパニック状態になった。
 ユーリとは友だちのような関係だったから、こんな甘い雰囲気になったことは一度もない。学園ではレオン様はこんなにかしこまった姿を見せることはなかったから、余計に心臓の鼓動がはやくなる。

「は、はい」

 うまく働かない頭。それでも、なんとか返事をした。

「私で良いのであれば、ぜひ」

 元々好意的に思っていた相手から想いを告げられて断る理由はなかった。横にいるお父様も何も言わないので、文句はないのだろう。

「ヘレネ嬢、良いんじゃない。ヘレネ嬢、良いんだ。本当に、結婚してくれるんだな?」

 たった一文字の違い。でも、その違いは大きい。それを訂正して言い直してくれたことに嬉しくなる。

「はい。どうぞ、これからよろしくお願いします」

 ほほえみかけると、レオン様は満面の笑みを浮かべた。
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