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婚約解消と運命の女神

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「お顔をお上げください!」

 私は慌てた。優しいユーリのことだ、悩んだ末の結論だったのだろう。私との婚約を解消して南の国の王女が嫁いでくることで国民が幸せになるのなら、その方がいい。

「謝って済む問題ではないし、公爵にはまた怒られてしまうかもしれないが、賠償金も払わせてくれ。金の問題ではないが、多くあって困るものでもないだろう」

 ユーリの誠意が伝わってくる。

「お心遣いありがとうございます。ありがたく受け取らせていただきます」

「これっぽっちもありがたくない! その程度は当たり前だ。いくら言葉や金をもらってもだ、ヘレネは誰に嫁げばいいんだ。もう碌な相手は残っていないんだぞ。離婚歴のある男か? 低位貴族か? 金とヘレネの美貌が目的の野郎か? ふざけるな!」

 お父様の怒りは収まらない。

「落ち着いてください、お父様」

「逆におまえはなぜ落ち着いていられるんだ。おまえの人生がかかっているんだぞ」

 私はため息をついた。この場に国王陛下がいるということは、これは決定事項なのでしょう。決まったことに文句を言っても疲れるだけ。黙って受け入れた方が楽だわ。

 国王陛下がおもむろに口を開いた。

「公爵の言うとおりだ。こちらとしても、王家の事情で婚約を解消する以上代わりの相手を紹介するべきだと考えた」

 国王陛下はユーリに視線を送り、ユーリが言葉をつないだ。

「実は今日王宮に呼んでいる。もし会って結婚しても良いと思えば、王家として祝福しよう。もちろん、相手として相応しくないと思ったら断ってもらって構わない。相手にもそのように許可は取ってある。希望するのであれば今すぐこの部屋に呼ぶが」

 私たちは親子揃って目を見開いた。まさか、次の結婚候補が既に用意されているとは。
 私はお父様をちらりと見た。お父様は渋い顔をして頷いた。

「ぜひ、お会いしたいです」

 国王陛下が合図をすると、大広間の扉が開き、新たな結婚候補の男性が姿を現した。

 その男性を見て、私は目を見開いた。彼は。

「紹介するよ。北の帝国の第3皇子のレオン殿だ。ヘレネは彼とは知り合いだよね」

 ぽかんと口を開けた私は、ユーリの言葉に反応することもなく、レオン様を見つめた。彼が。どうして。

 レオン様は私に歩み寄り、笑顔を見せた。冷たく見える知的な瞳が緩む。

「やあ、久しぶりだな」

 その声を聞いた瞬間、さまざまな思いが頭を駆け巡った。
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