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69 違和感 ルイスside3
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フィオナ嬢の茶色い小綺麗な靴の下。
その下にある、あの白いものは、なんだ。
「ルー?」
不思議そうに呼びかけるフィオナ嬢。
「フィオナ嬢……。何か踏んでいないか?」
フィオナ嬢は慌てて足を持ち上げた。
「嫌だ、何か変なものでもあったのですか? あら、花しかありませんよ。ルーの見間違いではありませんか?」
僕はその答えに愕然とした。
花しかない、だって?
「そんなことより、フィーって呼んでくださいよ。昔みたいに」
そんなこと?
鳥肌がたった。急に寒くなったように感じる。
この女は、誰だ。
「ルー? 何か言ってください」
別人だ。そう思いそうになって、かぶりを振った。
もしかしたら、僕が好きだった、花を愛するフィーではなくなってしまっただけかもしれない。
「そういえば、昔一緒に見たあのピンクの花はなんという名前だったかな。忘れてしまったんだ」
すがるように見つめる。本当は花の名前なんて知らない。だが、フィーならば知っているかもしれない。本物のフィーならば。
「ピンクの花、ですか……。なんて名前でしたっけ……」
悩む様子を見せる。不安がつのる。
「あ、そうです! アネモネです!」
この時の僕の感情を言い表す言葉は、見つからなかった。
日が落ち徐々に暗くなっていく視界は、僕の感情を加速させるようだった。
アネモネ。アネモネなら僕も知っている。美しい花だが、大きな木に繊細に咲くあの花とは、大違いだ。
「君は、フィーではないようだね。悪いけど、帰らせてもらうよ」
帰ろうとすると、フィオナ嬢が腕にすがりついてきた。
「どうしてですか! 私がフィーです! 間違いありません!」
不快でしかなくて、振り払った。
これほどの雑な対応は、女性に対しては紳士的でいようと心がけている僕の記憶には未だかつてない。
わずかに残った理性が彼女は女性だとささやいたが、どうでも良かった。
「あれは、アネモネではない。アネモネと間違うような似た花ですらない。それだけだ」
「そ、そうでしたっけ? 記憶違いをしていたかもしれません。それくらい、いいじゃないですか」
僕は冷めた目でフィオナ嬢を見下ろした。
「私にとっては、よくないんだ」
あの花はフィーと仲良くなるきっかけだ。大切な想い出の花だ。
僕が譲らないということを察したのか、フィオナ嬢は顔をしかめて吐き捨てた。
「知りませんよ、花なんて。確かに満開がどうのって日記には書いてあったけど、名前までは書いてなかったもの」
やはり、彼女はフィーではなかったのだ。
ほぼ確信してはいたものの、本人の口からその言葉を聞くと改めて落胆した。
その下にある、あの白いものは、なんだ。
「ルー?」
不思議そうに呼びかけるフィオナ嬢。
「フィオナ嬢……。何か踏んでいないか?」
フィオナ嬢は慌てて足を持ち上げた。
「嫌だ、何か変なものでもあったのですか? あら、花しかありませんよ。ルーの見間違いではありませんか?」
僕はその答えに愕然とした。
花しかない、だって?
「そんなことより、フィーって呼んでくださいよ。昔みたいに」
そんなこと?
鳥肌がたった。急に寒くなったように感じる。
この女は、誰だ。
「ルー? 何か言ってください」
別人だ。そう思いそうになって、かぶりを振った。
もしかしたら、僕が好きだった、花を愛するフィーではなくなってしまっただけかもしれない。
「そういえば、昔一緒に見たあのピンクの花はなんという名前だったかな。忘れてしまったんだ」
すがるように見つめる。本当は花の名前なんて知らない。だが、フィーならば知っているかもしれない。本物のフィーならば。
「ピンクの花、ですか……。なんて名前でしたっけ……」
悩む様子を見せる。不安がつのる。
「あ、そうです! アネモネです!」
この時の僕の感情を言い表す言葉は、見つからなかった。
日が落ち徐々に暗くなっていく視界は、僕の感情を加速させるようだった。
アネモネ。アネモネなら僕も知っている。美しい花だが、大きな木に繊細に咲くあの花とは、大違いだ。
「君は、フィーではないようだね。悪いけど、帰らせてもらうよ」
帰ろうとすると、フィオナ嬢が腕にすがりついてきた。
「どうしてですか! 私がフィーです! 間違いありません!」
不快でしかなくて、振り払った。
これほどの雑な対応は、女性に対しては紳士的でいようと心がけている僕の記憶には未だかつてない。
わずかに残った理性が彼女は女性だとささやいたが、どうでも良かった。
「あれは、アネモネではない。アネモネと間違うような似た花ですらない。それだけだ」
「そ、そうでしたっけ? 記憶違いをしていたかもしれません。それくらい、いいじゃないですか」
僕は冷めた目でフィオナ嬢を見下ろした。
「私にとっては、よくないんだ」
あの花はフィーと仲良くなるきっかけだ。大切な想い出の花だ。
僕が譲らないということを察したのか、フィオナ嬢は顔をしかめて吐き捨てた。
「知りませんよ、花なんて。確かに満開がどうのって日記には書いてあったけど、名前までは書いてなかったもの」
やはり、彼女はフィーではなかったのだ。
ほぼ確信してはいたものの、本人の口からその言葉を聞くと改めて落胆した。
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