初恋と想い出と勘違い

瀬野凜花

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「そうか。王都に帰るのか。来週が最後なんだね」

 私の説明を黙って聞いていたルーは、静かに言った。

「フィーの実家は王都にあると聞いたときから、きっと近いうちに帰るのではないかと予想はしていたんだ。むしろ思っていたより長かったくらいだよ」

 少し寂しげに笑うその顔に、私は目を伏せた。

「よし、それならすべきことは決まってるね!」

 ルーが突然すくっと立ち上がった。「すべきこと」というのが何を指しているのか分からず、私はぽかんと口を開けてルーを見上げた。

「すべきことって?」

「思い出作りに決まってるだろう! さあ、あの遠くの岩まで競争だ!」

 いたずらっぽくにやりと笑って、ルーは走り出した。私も慌てて後を追う。
 ルーに少し遅れて岩に触れた私は、呼吸を整えながらルーをにらんだ。

「ちょっと、ルー! 先にスタートするのはずるいわ! 私、立ってもいなかったのに!」

「ごめんごめん、次はちゃんと同時にスタートするよ」

 ルーは肩をすくめて、木の枝で足元に線を引いた。

「この線がスタートで、先にあの木に触れた方が勝ちだ。いいね?」

「もちろん!」



 私たちは、木と岩の間を何度も往復した。身長にあまり差がない私たちの足の速さはほぼ互角で、勝ったり負けたりを繰り返し、時には大きな声で笑って、時には本気で悔しがった。帰る時間になる頃には私の沈んだ気持ちはとっくに消えていて、心地よい疲れと高揚した気持ちだけが残っていた。

「今日はありがとう。こんなに走ったのは久しぶりだ。よく眠れそうだよ」

 ルーは気持ちよさそうに伸びをした。

「そろそろ帰ろうか」

「待って!」

 帰ろうと歩き出したルーを、私は慌てて引き留めた。

「ありがとう。私、話をしていたら悲しくなって。ルーがあの時競争しようって言ってくれていなかったら、ルーと過ごせる貴重な時間を無駄にしてしまっていたかもしれない。本当に、ありがとう」

 ルーはおだやかに目を細めて私を見つめた。

「フィーも楽しかった?」

「もちろんよ! とっても楽しかった!」

 私はぶんぶんと顔を縦に振った。

「それなら良かった」

 にっこりと笑ったルーは、「また来週」と手を振って馬車に乗り込んで帰って行った。

 私もマリーの待つ馬車に向かおうとして振り返り、見えなくなるまでルーの乗る馬車を見送った。ルーのあたたかさに包まれて胸がぽかぽかとしていた。

 ルーと友だちになれて良かった。

 強くそう感じた。
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