おはよう・おやすみ・おやすみなさい

東雲廻

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「……ッ! 大変だ大変だ大変だ!」
 神殿に響き渡るその声に、見回りの護衛たちは何事かと声の主の元へ集まりだす。
「御子様! 如何なされましたかっ?」
「あ、あ、お、おちついて、聞いてくれ」
「落ち着くべきは貴方のほうでは……」
 近侍が思わず呆れた声を漏らすと、豪奢な装束を纏った男は小さく呻いた。
「そ、それはそうだけど、でも! こんなの……!」
 落ち着いて聞けと言ったその口で、落ち着けるわけがないと宣う神託の御子に、集まってきた護衛は狼狽え、近侍は頭を抱える。この御子、少々抜けているところはあるがここまで取り乱すことはまず無い。なればこそ、本来なら周りと一緒になってこの未曽有の事態に怯えるところなのだろうけれど、この恐慌に乗り遅れた彼にはただただ溜息をつく以外できることは残されていなかった。
 ふと、近侍の脳裏に前任者の顔が浮かんだ。この御子様の側近を、長年勤めていた男の顔だ。もうだいぶん前にこの地を離れてしまったが、非常に頭がよく仕事も出来ると評判で、彼を知る誰もが憧れていた存在。そして何より、御子様の扱いが上手かった。仕えた時間の長さが成せる業と言えばそれまでだが、どうかその術を少しでも後任の自分に残していってほしかったと切に思う。彼ならこういうとき、御子様をどうやって落ちつかせただろう。
 近侍が自身の思考に気を取られている間に、いくらか落ち着きを取り戻した御子が声を上げる。
「これは神託である!」
 近侍はハッと我に返り、御子を見つめる。周囲に集まった者も皆、口を噤み御子の言葉に集中した。
「先程、主は私に告げられた! 近いうち、予言書の魔物が現れ、最後の一文を完遂するだろうと!」
 ざわめき、恐慌。あまりの内容に意識が遠のきかけた近侍だったが、慌てて引き戻す。そうだ、御子様は。いくら周りにいるのが神殿の警護の者たちのみとはいえ、内容が内容だ。近侍として、彼の身の安全を確保しなくては。思い、慌てて見回したが、すでに御子の姿はどこにも無かった。彼の方は一体いづこ!
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