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101. 「この人をください」
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朱虎の影が濃く畳に落ちる。おじいちゃんはしばらく動かなかった。
「――そうか。お前ェ、覚悟決めてるってェんだな」
冷え冷えとした言葉に、朱虎は何も言わずさらに頭を畳にこすりつけた。
誰も、こそりとも音を立てなかった。それなりの修羅場をくぐってきてるはずの組員たちが誰も動けず、息をのんで事態を伺っている。斯波さんがひたすらおろおろとしていた。
あたしは、何だかぼうっとしていた。
何度も何度も朱虎の言葉が頭をリフレインする。
気持ちを殺しきれなかった?
殺しきれなかったって、どういう意味?
それって、朱虎はあたしのこと――……そう思っていいの?
「志麻」
「ふえっ、は、はいっ!」
おじいちゃんの声であたしはハッとした。
「お前ェはどうしてェ」
おじいちゃんは朱虎を見下ろしたまま低い声で言った。
「どう、って」
「このボケはお前ェの寝てる隙を襲うようなクズ野郎だ。ぶち殺していいな」
「良いわけないでしょ!? あ、あ、あたし……だって、その」
「グダグダすンな、はっきり喋れ」
あたしは口をパクパクさせた。組員のみんなから、ひしひしと視線が降り注いでるのが感じられる。
ウソでしょ、ここで言うの?
言わなきゃいけないの?
「殺すぞ」
「ま、待って!」
ええい!
あたしは覚悟を決めて、口を開いた。
「あ、あたし、嫌じゃない。朱虎のこと、……好き、だし」
「お前ェそりゃ刷り込みってやつだ」
おじいちゃんがきっぱりと言った。
「ガキん頃からあれこれ面倒見てもらってりゃ情もわく、懐きもする。お前ェくらいの年頃なら恋の一つもしてみてェと思うだろうよ。その相手にたまたまちょうど良かっただけじゃねェのか」
「なっ……そ、そんなことない! あたしは本気で」
「ならお前ェにコイツが背負えるってのか」
「えっ」
おじいちゃんはチャッ、と刀を返して肩に乗せた。あたしへと向き直る。
「コイツは、お前ェが諦められねぇからいっそ煮るなと焼くなと好きにしてくれってェ首を差し出してんだ。その覚悟を背負えるのかって聞いてんだよ、志麻」
「おじいちゃん……?」
初めて聞くような厳しい声音だった。
鋭い視線が何もかもを見透かすようにあたしを突き刺す。目には見えない威圧感が押し寄せてきて、ひゅっと喉が鳴った。
「か、覚悟って……なんでそんなこと言うの、おじいちゃん」
「お前ェは俺の孫だ。男一匹の覚悟を半端な情で一時抱えて放り出すような無様ァ、許さねえぞ。ンな甘ったるいことするくれェなら、今すぐこいつをたたっ切る」
今のおじいちゃんは、いつものおじいちゃんじゃなかった。
雲竜組組長、雲竜銀蔵としてあたしに向き合ってる。
甘さのかけらもない視線に思わずうつむきそうになったとき、ズキリと体が鈍く痛んだ。
あたしが、どう思ってるか。朱虎を受け止められるのか。
そんなのは決まってる。
あたしはぐっと奥歯を噛みしめると、顔を上げた。
おじいちゃんとまともに目があった時、あたしはおじいちゃんが何でそんなことを聞いてきたのか不意に分かった。
「オヤジ……いくら何でも厳しすぎませんか!?」
思い切ったように斯波さんが口を開く。
「うるせェ、すっこんでろ斯波」
「これ以上黙ってられませんよ! いくら朱虎君の行為に腹が立ったからって、志麻ちゃんにまでそんな言い方」
「いいの、斯波さん」
斯波さんを押しとどめて、あたしは深呼吸した。
大股で進み出て朱虎の横、おじいちゃんの前にきちんと正座する。
「おじいちゃん……雲竜組組長、雲竜銀蔵さん!」
張り上げた声は、緊張のあまり危うく裏返りかけた。
おじいちゃんがピクリと片眉を上げる。
「あ、あたしは頭もよくないし、まだ高校生だけど……だけど、あたしだって! 朱虎に対する気持ちは本気です! あたしは、朱虎が大好きで一番大事です。朱虎のことなら何でも受け止めてみせる。だから……」
畳に手をつく。体を折って、深く頭を下げた。
「朱虎のお父さんであるあなたにお願いします。朱虎を、あたしにください!」
「お嬢っ……!?」
朱虎が身じろぐのが分かったけど、無視して続ける。
「何があってもずっと傍にいます。絶対、この人を幸せにします。約束します!」
言い終えると、自分の指の先だけを見つめて、あたしはただ頭を下げ続けた。
永遠じゃないかって時間が流れた後で、ほーっと息をつく音が聞こえた。
「顔上げろや」
言われた通り顔を上げると、おじいちゃんはいつの間にか元通り胡坐をかいて座っていた。傍らに刀を置いて煙管を咥えている。
「いい覚悟だ。……俺の倅はどうしようもねェボンクラだが、よろしく頼むぜ」
にっ、と笑ったおじいちゃんは、確かに朱虎の「お父さん」だった。
「は……はいっ」
「朱虎、お前ェもそれでいいな」
朱虎からの返事はない。不安になってそろっと横目で見ると、朱虎はうつむいて額を押さえていた。
「えっ、朱虎大丈夫? 頭? 頭痛いの?」
「……大丈夫です」
はーっ、と大きく息を吐くと、朱虎は顔を上げた。眼のふちがうっすらと赤い。
「いいんですか、オヤジ。お嬢の相手が俺みたいな……」
「馬鹿かお前ェ。聞いてんなァ俺だろうが。それとも何だ、うちの志麻に何か不満でもあるってのか、あァ?」
「いえ」
首を振ると、何かを振っ切ったように朱虎は顔を上げた。
「ありがとうございます。俺の全身全霊を懸けて、お嬢を一生守り抜きます」
「……おゥ」
おじいちゃんがかすかに頷いた。と、いきなりワッと歓声が上がった。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます、虎兄貴! 志麻お嬢さん!」
「俺はこうなるじゃないかと思ってたぜ」
「おめでとう、二人とも……良かったねえ、ほんとに良かった……」
「おい、俺の勝ちだろ金払え」
「チッ、まさか虎兄ィが落ちるとはな~」
組員たちが賑やかにわいわい騒ぎだす。涙を滝みたいに流しながら斯波さんが声を張り上げた。
「さあ、お祝いだ! 用意にかかってくれ!」
「ウッス!」
クロちゃんたちが部屋を飛び出していく。あたしはほっと全身の力が抜けて、思わず畳に手をついた。
「大丈夫ですか、お嬢」
すかさず横から手が伸びてきて支えてくれる。いつものことなのに、何だかドキンと心臓が高鳴った。
「あ、ありがと、大丈夫」
あたしはすーはー、と何度か深呼吸してから思い切って顔を上げた。
朱虎があたしを覗き込んでいる。長いまつげの奥、紺色の瞳にあたしが映ってる。
思わず見とれていると、朱虎は軽く眉をひそめた。
「さっきから思ってたんですが……ちょっと太りましたね」
「は!?」
唖然とするあたしに朱虎は冷静に告げた。
「顔が見るからに丸くなってます」
「しっ、仕方ないじゃない! 入院してたんだし」
「入院食でここまで太りません。どうせ見舞いの菓子でもバカ食いしたんでしょう」
「ばっ……だ、だって持ってきてもらったものは食べないとでしょ! ていうか、いきなりソレって酷くない!?」
おかしい。
なんで全然甘い雰囲気にならないの?
ひょっとして、ドキドキしてるのつてあたしだけ?
「何膨れてるんですか」
「だって朱虎が酷いこと言うから」
ふっ、と笑った朱虎があたしの頬をつついた。ドキンと心臓が高鳴る。
「事実を言っただけでしょう。ほら、こんなに顔が丸い」
す、と頬に手が添えられて、優しくなでられた。
前言撤回。甘い。すごくイイ感じだ。ドキドキが高まっていく。
「あ、朱虎……」
「いい加減にしろッ!!」
ビュッ! とあたしと朱虎の顔の間に銀閃が走った。ハラリと赤い髪が数本切り落とされ、舞い落ちる。
「ひゃあっ!? なななな、なにすんのおじいちゃん!?」
あたしは目の前に突き出された刀を見つめて怒鳴った。心臓が別の意味でバクバクしている。
「あ、あ、あ、危ないでしょっ!?」
「やかましいっ! くっつきすぎだろうが朱虎てめェ!」
「すみません、オヤジ」
おじいちゃんは頭を下げた朱虎をじろりとねめつけると、刀を突きつけた。
「いいか朱虎、志麻はまだおぼこな小娘だってこたァゆめゆめ忘れんじゃねェぞ。もし不埒な真似に及んでみやがれ、お前ェのナニを斬り飛ばすからな」
「はい、肝に銘じます」
「何それ! ふ、不埒な真似って何よ!」
「そりゃお前ェ、ナニを使うようなことに決まってんだろ」
「は? ナニって何……?」
「とにかく! こうなったからにゃァ仕方ねェが、節度を守らねェと承知しねェっつってんだよ! 少なくとも高校卒業までは志麻に触れるなァご法度だ、覚えとけ!」
「分かりました」
「はあ!? そんなの手も繋げないじゃない!」
「ったり前ェだ、いっそ半径1m以内に近づくな!」
「はい」
「さらにエスカレートしてるし! 朱虎もあっさり頷かないでよーっ!」
「取り込み中のところ失礼します、オヤジ」
顔を綺麗にした斯波さんが割り込んできた。なぜか満面の笑顔だ。
「どのプランにしますか?」
「あァ?」
「だから、コレですよ」
斯波さんはパンフレットを高々と掲げた。厳かな神社の前で、白無垢姿の女の人が紋付き袴の男の人に寄り添って微笑んでいる表紙だ。
「オヤジがおさえておいた結婚式場ですよ。いやあ、無駄にならなさそうで良かった! あと一か月半ですが、万全の準備をしましょうね。……ところでやっぱり志麻ちゃんは白無垢かなあ、どう思う朱虎君?」
「――そうか。お前ェ、覚悟決めてるってェんだな」
冷え冷えとした言葉に、朱虎は何も言わずさらに頭を畳にこすりつけた。
誰も、こそりとも音を立てなかった。それなりの修羅場をくぐってきてるはずの組員たちが誰も動けず、息をのんで事態を伺っている。斯波さんがひたすらおろおろとしていた。
あたしは、何だかぼうっとしていた。
何度も何度も朱虎の言葉が頭をリフレインする。
気持ちを殺しきれなかった?
殺しきれなかったって、どういう意味?
それって、朱虎はあたしのこと――……そう思っていいの?
「志麻」
「ふえっ、は、はいっ!」
おじいちゃんの声であたしはハッとした。
「お前ェはどうしてェ」
おじいちゃんは朱虎を見下ろしたまま低い声で言った。
「どう、って」
「このボケはお前ェの寝てる隙を襲うようなクズ野郎だ。ぶち殺していいな」
「良いわけないでしょ!? あ、あ、あたし……だって、その」
「グダグダすンな、はっきり喋れ」
あたしは口をパクパクさせた。組員のみんなから、ひしひしと視線が降り注いでるのが感じられる。
ウソでしょ、ここで言うの?
言わなきゃいけないの?
「殺すぞ」
「ま、待って!」
ええい!
あたしは覚悟を決めて、口を開いた。
「あ、あたし、嫌じゃない。朱虎のこと、……好き、だし」
「お前ェそりゃ刷り込みってやつだ」
おじいちゃんがきっぱりと言った。
「ガキん頃からあれこれ面倒見てもらってりゃ情もわく、懐きもする。お前ェくらいの年頃なら恋の一つもしてみてェと思うだろうよ。その相手にたまたまちょうど良かっただけじゃねェのか」
「なっ……そ、そんなことない! あたしは本気で」
「ならお前ェにコイツが背負えるってのか」
「えっ」
おじいちゃんはチャッ、と刀を返して肩に乗せた。あたしへと向き直る。
「コイツは、お前ェが諦められねぇからいっそ煮るなと焼くなと好きにしてくれってェ首を差し出してんだ。その覚悟を背負えるのかって聞いてんだよ、志麻」
「おじいちゃん……?」
初めて聞くような厳しい声音だった。
鋭い視線が何もかもを見透かすようにあたしを突き刺す。目には見えない威圧感が押し寄せてきて、ひゅっと喉が鳴った。
「か、覚悟って……なんでそんなこと言うの、おじいちゃん」
「お前ェは俺の孫だ。男一匹の覚悟を半端な情で一時抱えて放り出すような無様ァ、許さねえぞ。ンな甘ったるいことするくれェなら、今すぐこいつをたたっ切る」
今のおじいちゃんは、いつものおじいちゃんじゃなかった。
雲竜組組長、雲竜銀蔵としてあたしに向き合ってる。
甘さのかけらもない視線に思わずうつむきそうになったとき、ズキリと体が鈍く痛んだ。
あたしが、どう思ってるか。朱虎を受け止められるのか。
そんなのは決まってる。
あたしはぐっと奥歯を噛みしめると、顔を上げた。
おじいちゃんとまともに目があった時、あたしはおじいちゃんが何でそんなことを聞いてきたのか不意に分かった。
「オヤジ……いくら何でも厳しすぎませんか!?」
思い切ったように斯波さんが口を開く。
「うるせェ、すっこんでろ斯波」
「これ以上黙ってられませんよ! いくら朱虎君の行為に腹が立ったからって、志麻ちゃんにまでそんな言い方」
「いいの、斯波さん」
斯波さんを押しとどめて、あたしは深呼吸した。
大股で進み出て朱虎の横、おじいちゃんの前にきちんと正座する。
「おじいちゃん……雲竜組組長、雲竜銀蔵さん!」
張り上げた声は、緊張のあまり危うく裏返りかけた。
おじいちゃんがピクリと片眉を上げる。
「あ、あたしは頭もよくないし、まだ高校生だけど……だけど、あたしだって! 朱虎に対する気持ちは本気です! あたしは、朱虎が大好きで一番大事です。朱虎のことなら何でも受け止めてみせる。だから……」
畳に手をつく。体を折って、深く頭を下げた。
「朱虎のお父さんであるあなたにお願いします。朱虎を、あたしにください!」
「お嬢っ……!?」
朱虎が身じろぐのが分かったけど、無視して続ける。
「何があってもずっと傍にいます。絶対、この人を幸せにします。約束します!」
言い終えると、自分の指の先だけを見つめて、あたしはただ頭を下げ続けた。
永遠じゃないかって時間が流れた後で、ほーっと息をつく音が聞こえた。
「顔上げろや」
言われた通り顔を上げると、おじいちゃんはいつの間にか元通り胡坐をかいて座っていた。傍らに刀を置いて煙管を咥えている。
「いい覚悟だ。……俺の倅はどうしようもねェボンクラだが、よろしく頼むぜ」
にっ、と笑ったおじいちゃんは、確かに朱虎の「お父さん」だった。
「は……はいっ」
「朱虎、お前ェもそれでいいな」
朱虎からの返事はない。不安になってそろっと横目で見ると、朱虎はうつむいて額を押さえていた。
「えっ、朱虎大丈夫? 頭? 頭痛いの?」
「……大丈夫です」
はーっ、と大きく息を吐くと、朱虎は顔を上げた。眼のふちがうっすらと赤い。
「いいんですか、オヤジ。お嬢の相手が俺みたいな……」
「馬鹿かお前ェ。聞いてんなァ俺だろうが。それとも何だ、うちの志麻に何か不満でもあるってのか、あァ?」
「いえ」
首を振ると、何かを振っ切ったように朱虎は顔を上げた。
「ありがとうございます。俺の全身全霊を懸けて、お嬢を一生守り抜きます」
「……おゥ」
おじいちゃんがかすかに頷いた。と、いきなりワッと歓声が上がった。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます、虎兄貴! 志麻お嬢さん!」
「俺はこうなるじゃないかと思ってたぜ」
「おめでとう、二人とも……良かったねえ、ほんとに良かった……」
「おい、俺の勝ちだろ金払え」
「チッ、まさか虎兄ィが落ちるとはな~」
組員たちが賑やかにわいわい騒ぎだす。涙を滝みたいに流しながら斯波さんが声を張り上げた。
「さあ、お祝いだ! 用意にかかってくれ!」
「ウッス!」
クロちゃんたちが部屋を飛び出していく。あたしはほっと全身の力が抜けて、思わず畳に手をついた。
「大丈夫ですか、お嬢」
すかさず横から手が伸びてきて支えてくれる。いつものことなのに、何だかドキンと心臓が高鳴った。
「あ、ありがと、大丈夫」
あたしはすーはー、と何度か深呼吸してから思い切って顔を上げた。
朱虎があたしを覗き込んでいる。長いまつげの奥、紺色の瞳にあたしが映ってる。
思わず見とれていると、朱虎は軽く眉をひそめた。
「さっきから思ってたんですが……ちょっと太りましたね」
「は!?」
唖然とするあたしに朱虎は冷静に告げた。
「顔が見るからに丸くなってます」
「しっ、仕方ないじゃない! 入院してたんだし」
「入院食でここまで太りません。どうせ見舞いの菓子でもバカ食いしたんでしょう」
「ばっ……だ、だって持ってきてもらったものは食べないとでしょ! ていうか、いきなりソレって酷くない!?」
おかしい。
なんで全然甘い雰囲気にならないの?
ひょっとして、ドキドキしてるのつてあたしだけ?
「何膨れてるんですか」
「だって朱虎が酷いこと言うから」
ふっ、と笑った朱虎があたしの頬をつついた。ドキンと心臓が高鳴る。
「事実を言っただけでしょう。ほら、こんなに顔が丸い」
す、と頬に手が添えられて、優しくなでられた。
前言撤回。甘い。すごくイイ感じだ。ドキドキが高まっていく。
「あ、朱虎……」
「いい加減にしろッ!!」
ビュッ! とあたしと朱虎の顔の間に銀閃が走った。ハラリと赤い髪が数本切り落とされ、舞い落ちる。
「ひゃあっ!? なななな、なにすんのおじいちゃん!?」
あたしは目の前に突き出された刀を見つめて怒鳴った。心臓が別の意味でバクバクしている。
「あ、あ、あ、危ないでしょっ!?」
「やかましいっ! くっつきすぎだろうが朱虎てめェ!」
「すみません、オヤジ」
おじいちゃんは頭を下げた朱虎をじろりとねめつけると、刀を突きつけた。
「いいか朱虎、志麻はまだおぼこな小娘だってこたァゆめゆめ忘れんじゃねェぞ。もし不埒な真似に及んでみやがれ、お前ェのナニを斬り飛ばすからな」
「はい、肝に銘じます」
「何それ! ふ、不埒な真似って何よ!」
「そりゃお前ェ、ナニを使うようなことに決まってんだろ」
「は? ナニって何……?」
「とにかく! こうなったからにゃァ仕方ねェが、節度を守らねェと承知しねェっつってんだよ! 少なくとも高校卒業までは志麻に触れるなァご法度だ、覚えとけ!」
「分かりました」
「はあ!? そんなの手も繋げないじゃない!」
「ったり前ェだ、いっそ半径1m以内に近づくな!」
「はい」
「さらにエスカレートしてるし! 朱虎もあっさり頷かないでよーっ!」
「取り込み中のところ失礼します、オヤジ」
顔を綺麗にした斯波さんが割り込んできた。なぜか満面の笑顔だ。
「どのプランにしますか?」
「あァ?」
「だから、コレですよ」
斯波さんはパンフレットを高々と掲げた。厳かな神社の前で、白無垢姿の女の人が紋付き袴の男の人に寄り添って微笑んでいる表紙だ。
「オヤジがおさえておいた結婚式場ですよ。いやあ、無駄にならなさそうで良かった! あと一か月半ですが、万全の準備をしましょうね。……ところでやっぱり志麻ちゃんは白無垢かなあ、どう思う朱虎君?」
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